LAMB/ラム(字幕版)
アイスランド・ポーランド・スウェーデン合作の映画です。
雰囲気はちょっぴり「ミッドサマー」に似ています。あんな感じの穏やかな(けれどもサイコパス味がある)ホラーが好きなら、たぶん気に入ると思います。
実に考察しがいのある(考察は今後別記事で)作品だったので、考えるのが好きな人にもおすすめです。
本記事は2023年12月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | LAMB/ラム |
原題 | Lamb |
ジャンル | ホラー |
監督 | ヴァルディミール・ヨハンソン |
上映時間 | 106分 |
製作国 | アイスランド、ポーランド、スウェーデン |
製作年 | 2021年 |
レイティング | R15+ |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
あらすじ
アイスランドの山間に住む羊飼いの夫婦、イングヴァルとマリア。いつものように羊の出産に立ち会ったふたりだが、その日産まれた仔羊であるはずのそれは、羊ではない「何か」だった。かつて娘を失っていたふたりは、それを「アダ」と名付け、まるで本当の子どものように愛情を注ぐが……。
登場人物
(敬称略)
イングヴァル(演:ヒルミル・スナイル・グズナソン)
マリアの夫。マリアがアダを実の子どものように大切にする様子を見て、時折涙する。
マリア(演:ノオミ・ラパス)
イングヴァルの妻。アダを迎え入れたことで、過去の傷が徐々に癒やされていく。
ペートゥル(演:ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン)
イングヴァルの弟で、ミュージシャン。
映画「LAMB/ラム」の感想
映画「LAMB/ラム」の感想です。一般的なホラーのように恐怖の山場などはほとんどないけれど、終始不気味な雰囲気が続く作品です。「ミッドサマー」が好きなら、たぶん好き。
素晴らしいアイスランドの風景
本作において、まず目を奪われるのは、アイスランドの山間部らしいとても美しい風景です。
本当に綺麗。
単なる旅行とかじゃ、こんな山間部に行けることはまあないでしょうから、映画でこういう美しい光景が見られるのはいいですよね。
フォギーというか、こう、霧がかった光景が似合うのも、ある意味山間部ならでは。
「誰?」から始まるカメラワーク
冒頭、吹雪の中、ゆらゆらと揺れる景色、何かから怯えるように逃げ去っていく馬、聴こえる(気がする)息遣い……。
あれっ、ここだけPOVっぽいぞ?
……誰? と。
これ、すごいのが、明確にPOVっぽくはつくられていないので、アダが誕生したりあとあとの展開があったりして初めて「なるほどね、あそこは一応POVになってたわけか!」となるわけです。
そして、同時にそれが誰であったかも薄々察するという。
本作は全体を通して非常に曖昧な表現が多く、考察ありきで成り立つ作品なので、視聴者の思考にすべて委ねるタイプの映画が好きな人におすすめです。
ただ、「これこれ、こういうのが良いんだよ」とか思いながら油断していると、最後の最後でぶん投げられ、「そうじゃねえええ!」となる可能性があるので要注意。
とにかく可愛いアダ
アダを一言で表すとすれば「獣人」なんですが、これがもうとにかく可愛い。
本当の子どものように育てようとしたイングヴァルとマリアの気持ちがわからないでもない。いや、普通に考えれば絶対に駄目だし、受け入れられないことだとは思うけれど。
ドラムのビートに合わせて体揺らしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、可愛すぎて何度も悶えました。
母性本能(?)がくすぐられるとはこのことか……と。
終始不気味な雰囲気なのに、不思議とアダだけが純粋な存在に見えるんですよね。
でも、たぶん、アダが産まれた時点で騒ぎもせず、ただ静かに受け入れることを決めたイングヴァルとマリアは、初手からすでにどこかおかしかったのでしょう。
ちなみに、この「アダ」という名前についてですが、いろいろ……そう、いろいろと考察がはかどる作品だということもあって「アダム」から取ったのではないかと思っていたのに、どうやら違ったようです。
曰く、
――アダという名前に、なにか意味はありますか?
アイスランドでアダという名前の方はほとんどおらず私は1人しか知りません。意味もあるそうですが、私は覚えていません。ここのキャラクターには“アダ”だと直感的に名付けました。
(引用元:映画.com – 「LAMB ラム」監督インタビュー 驚愕の“羊の物語”に「今の時代の新しい神話を作ろうとしていたのかも」)
だそう。
普通に考えすぎでしたね。トホホ。
理解しづらい宗教観
羊飼いと羊、そしてマリアとくれば、まあ、だいたいの場合、宗教が絡んでくるんだろうなというのはわかりますよね。
なので、考察するにしても、(特に日本人には)結構わかりづらい構成となっています。
んで、さらに事をややこしくしているのは、宗教(キリスト教)だけでなくギリシア神話も関わってきそうであるという部分です。
しかも、「これ、明らかにバフォメット(悪魔)やろ!」みたいなのも出てきますしね。
たぶん、娘を亡くした悲しみを埋めるのに養子でもなく新たな妊娠でもなく「アダ(獣人)」を選んだのは、ここらへんの力も働いていそうだなと思います。
ただ、それらが作中ではっきりと説明されることはなく、そのすべての解釈が視聴者に委ねられる形になっているので、賛否両論があるのもわかります。
まともじゃないのにまともなペートゥルおじさん
イングヴァルの弟であり、マリアの義弟でもあるペートゥル。
売れないミュージシャンらしく結構ちゃらんぽらんな感じで、清潔感もあまりない。仲間らしき人たちに兄・イングヴァルのもとに送ってもらったのかと思いきや、車からポーイされるという登場でした。
そのうえ、この人、イングヴァルに隠れてこっそりマリアを誘惑したりもします。ひどい。そして、まともじゃない。
それなのに、初めてアダを見たときに猛烈に反対するなど、この作品にあってはなぜか一番まともに見えるから不思議です。まあ、結局はアダを可愛がる一員になってしまうわけですけれども。
アダとペートゥルおじさんが仲良くしている様は、ふたりとも子どもみたいで可愛らしいです。
でも、そのペートゥルでさえ善人でないというのがいいんですよね。ある社会の中でまともであることと、善人であることは必ずしもイコールでつながっていないという。
訴えかけてくるものがあるラストシーン
最後にどうなるかはネタバレになるので明言しませんが、その中にマリアがカメラを見つめるシーンがあります。
いやはや、目力がすごい。
訴えかけてくるものがあります。
ただ、それがなにかわからない。これもすごい。ヒントもくれない。なので、各々自らの考察の中から想像するしかありません。
そう、自分で組み立てた考察そのものがラストシーンのヒントです。
さすがに視聴者任せすぎる……と思ってしまう人は、たぶんモヤッとした気分で終わってしまうでしょう。というか、むしろそのモヤッと感を楽しめる人のためにつくられたとしか思えません。
個人的には、結構好みです。
行方不明になる感情
先述した通り、アダは可愛い。なんなら、ペートゥルおじさんもまとめて推せちゃう。駄目な人がちょっと可愛く見えるっていうアレですね。
でも、雰囲気はかなり不穏。怖い。これからなにが起こるんだろうというハラハラ感もある。
アダは人間には見えないし戸籍もないわけだから、このまま育ったらどうなるんだろうと妙な心配も煽られる。
イングヴァルとマリアは可哀想で、基本的には同情する。とはいえ、人間ではないアダを実の子どもであるかのように受け入れてしまったり、亡き娘の身代わりにするかのように可愛がったり、「羊ではない」とアダ(羊人間)の存在には拒否感を示していたりと、それ以上に酷さが目立つ。
作中ずっとこんな感じなので、感情が行方不明になります。
「どういう感情で……いや、誰に感情移入すればいいの?」と。まあ、ある意味、みんながみんな我を通しているという意味では人間味があっていいと思います。
大人たちの都合に振り回されるアダが一番の被害者かもしれませんね。
映画「LAMB/ラム」が好きな人におすすめの作品
映画「LAMB/ラム」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ハッチング―孵化―(2022)
- オテサーネク 妄想の子供(2000)
- マザーズ(2016)
- Pearl パール(2022)
まとめ:雰囲気で楽しみたい人に◎
映画は内容より雰囲気で楽しみたいという人におすすめの作品です。
雰囲気が「ミッドサマー」にそっくりだと思いきや、配給会社が同じでした(A24)。
ただ、「ミッドサマー」のように明るいホラー(アリ・アスター監督は『ホラーではない』としていたが)ではなく、終始不穏な雰囲気が漂っているのが特徴です。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 86% AUDIENCE SCORE 61%
IMDb
6.3/10