ヴィーガンズ・ハム
フランス映画といえば、「アメリ」をはじめ、ジャンルに限らずなんだかお洒落な雰囲気を持つ作品が多いですよね。
今回紹介する「ヴィーガンズ・ハム」もそのうちのひとつ。
ホラーでありながら、コメディーの要素も多分に併せ持つ、基本的には明るい作品です。
本記事は2023年12月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | ヴィーガンズ・ハム |
原題 | Barbaque |
ジャンル | ホラー、コメディー |
監督 | ファブリス・エブエ |
上映時間 | 87分 |
製作国 | フランス |
製作年 | 2021年 |
レイティング | R18+ |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
あらすじ
肉屋を営む夫婦、ヴィンセントとソフィーの夫婦。結婚して30年が経つ倦怠期真っただ中のふたりには、離婚の危機が訪れていた。思うような稼ぎもなく、過激派のヴィーガンには店を襲われる始末。そんな中、ヴィンセントが店を襲った犯人のうちのひとりを手に掛けてしまう。その始末に困ったヴィンセントは、ソフィーの言葉をヒントに解体することにするが、それをハムだと勘違いしたソフィーがうっかり売りに出してしまい……。
登場人物
(敬称略)
ヴィンセント・パスカル(演:ファブリス・エブエ)
肉屋の主人で、ソフィーの夫。
ソフィー・パスカル(演:マリナ・フォイス)
ヴィンセントの妻で、一緒に肉屋を営んでいる。
映画「ヴィーガンズ・ハム」の感想
映画「ヴィーガンズ・ハム」の感想です。要所要所でフランス映画らしさが垣間見え、非常にお洒落な印象でした。
グロさのないブラックコメディー
そもそもの設定が「ヴィーガン(人)の肉を売り捌く」という話なので、見るからにグロそうではあるんですが、意外と普通です。
思うほどグロくない。
まったくないとは言えないものの、ちょっと切断シーンがあったり、人体の部位がアップになったりする程度でした。
人の命が散っていくシーンも「ヒャッハー!」な雰囲気なので、あんまり悲壮感がないんですよね。
一応メインジャンルとしてはホラーとなっているようですが、コメディー要素のほうが強いのではないかなと思います。ブラックコメディーです。
フランス映画ならではのお洒落さ
大人気のフランス映画「アメリ」をはじめ、オーソドックスなフランス映画にはお洒落さがあります。色彩だったり、カメラワークだったり演出だったり、その要素はさまざまですが、とにかく素人にもわかるお洒落さ。
本作も例外ではありませんでした。
色彩はもちろん、特に音楽が。
どう見ても悲惨な解体シーンをコミカルな音楽と掛け合わせることで、見事に「これはコメディーである」というのを表現していましたね。
バシンバシンと切っていく様子は、子どもが楽しみながら遊んでいるかのよう。
そんな無邪気さも感じました。
でも、あの行動を無邪気な子どもがするわけもないので、そこでヴィンセントとソフィーが緩やかに狂っていく様子を知ることができます。そこはかとなく感じるサイコパス味。
フランス映画って、こういう描写をさせると天下一品なんですよね。
深まる夫婦の絆
結婚30年を迎え、倦怠期真っただ中の状態であるパスカル夫婦。
そんな中、訪れるさらなるピンチ……に見せかけた、愛の復活。
ヴィーガン・ハムを調達し、販売するという共同作業をすることで、互いの目的が一致し、愛情まで蘇るんですからすごいですよね。
共通の敵(?)ができると絆が深まる、みたいな。
ここで言う共通の敵はヴィーガンであり、警察であり、同業者でもあるわけですが。
円満な結婚生活に大事なのは、互いが同じ方向を見て歩くことだとわかります。マジで、不倫とかもってのほかですからね。契約違反です、契約違反。同じ方向を見て歩くどころか、背後からめった刺しにする行為です。
ヴィンセントが思う「強者は自分」
作中では、この世は弱肉強食であるということも描かれています。
え、焼肉定食ですって? いいえ、弱肉強食です。強い者こそが生き残るっていう。
そして、ヴィンセントは自分こそが強者であると思っているわけです。つまり、狩る側だと。でも、実際のところはどうなんでしょうね。
当然、していることが露見すれば警察やヴィーガンの活動家からは追われる立場になるわけですし。
まあ、草食動物を狩る肉食動物だって、立場を変えれば狩られることもあるわけで、ここでの表現はある意味非常に皮肉的と言えるでしょう。
まあ、もうちょっと派手にやってしまっても良かったような気はしますが(ごにょごにょ)。
飽きないテンポの良さ
それぞれのシーンが短いというか、かなりテンポ良く展開していくので、中だるみ感はまったくありませんでした。
私はグロ耐性がそこそこあるタイプだとは思うんですが、それを抜きにしても、嫌悪感がほとんど湧かない解体作業。
それよりも、どちらかと言えば夫婦の娘・クロエの彼氏(ヴィーガン)の発言のほうが「うえー」となりました。これでよく娘も別れないな、と。
薄っすらとモラハラ臭がする。
これに関しては、テンポが良すぎて、短い時間の中で彼氏が攻撃的になったり反省したり、また攻撃的になったり反省したり、はたまた「眠れない」と言ったりと、かなり情緒不安定な様子が見受けられました。こっちのほうが人の肉を食べているんじゃないのか……?
「自分の信条は人に押し付けない」と豪語しているくせに、クロエをコントロールしようとしているし。
まあ、個人的には、これもブラックジョークのひとつなんじゃないかと思うんですよね。
本作で注目しているのはヴィーガンの活動家(過激派)たちで、多くのヴィーガンは善良だけれども、結局のところ、人に押し付けることはないと言いつつ、ヴィーガンである限り周囲にまったく影響を及ぼさないことは無理だろうっていう。
どこまでが押し付けで、どこまでが押し付けではないかは、それを受け取る本人によるということでしょう。
現に、クロエは肉屋の娘でありながら「もう肉は食べない(だがたまには食べる)」と宣言していて、しかしこれは押し付けではなく、自ら進んで肉の摂取を制限しているだけということなのだと思います。私はそれをコントロールしようとしていると感じましたが、本人からしたらそうではないはずなので。
ほとんどないリアルさ
基本的に全編を通してブラックコメディーなので仕方ないし、この作品に求められるものではないんですが、リアルさは一切ありません。
だって、ヴィーガン(人)の肉ですよ?
普通、自分がそんな肉を食べさせられていたと知ったら、発狂しません?
パニックどころの話じゃないはず。
でも、作中にそんな描写はまったくなく、パスカル夫婦の肉屋で件の肉を買っていった人たちの反応もほとんど描かれていませんでした。
個人的には、この作品はそんなことよりも、ヴィーガン(過激派)に対する皮肉(と、たまに夫婦の在り方について)をギュッと詰め込んだものだと思いましたね。
狙うのはあくまでも良質な肉
小説でも映画でも、物語性があるものに関しては、勧善懲悪なストーリーのほうが明らかに万人受けしますよね。
でも、この作品は「そんなの関係ねえ!」とばかりにバッサバッサと人を切っていきます。
たまに情が入ったりもするけれど、そこはまあ愛嬌として、無害で善良な人ですらターゲットになります。彼らがヴィンセントたちにとって良質な肉だからです。
正直、クロエの彼氏とか親友夫婦(ヴィーガンじゃないけれど)とか、勧善懲悪なら狩ってほしい人がいるにはいましたが、懲らしめるのでなくあくまでも食料を調達するだけだという考えに基づいているのが面白いところです。肉屋としてのプライドというか、職人というか。
人をエサとしか思っていないサイコパスなやばさが徹底されていて、とても良かったです。
映画「ヴィーガンズ・ハム」が好きな人におすすめの作品
映画「ヴィーガンズ・ハム」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- フレッシュ(2022)
- グリーン・インフェルノ(2013)
- サファリ(2016)
- いのちの食べかた(2005)
まとめ:痛快なブラックコメディー
ヴィーガンズ・ハム
賛否両論あるブラックコメディーに忌避感がない人におすすめの作品です。
フランス映画ならではのお洒落さがありながらも、スカッと痛快な気分にさせてくれます。とにかく、一番やばいのはヴィンセントの妻・ソフィーで間違いなし。
感覚が次第に麻痺していくのか、徐々に狂気が増しているのも良かったです。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 100% AUDIENCE SCORE 68%
IMDb
6.6/10