アメリ(字幕版)
フランス映画の金字塔として――あるいは、「ちょっと不思議だけれどなんだか可愛らしい映画」として語られがちな2001年公開の「アメリ(原題:アメリ・プーランの素晴らしい運命)」。
「タイトルを耳にしたことはあるけれど実際に観たことはない」という人も多いのではないでしょうか。
そんな人に、ぜひ一度は観てほしい作品です。
本記事は2020年9月に執筆されました(2023年11月28日更新)。すべての情報は更新時点のものです。
作品情報
タイトル | アメリ |
原題 | Le fabuleux destin d’Amélie Poulain |
ジャンル | ヒューマン、ロマンス、コメディー |
監督 | ジャン=ピエール・ジュネ |
上映時間 | 122分 |
製作国 | フランス |
製作年 | 2001年 |
レイティング | G |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
あらすじ
教師の母と軍医の父との間に生まれたアメリは、父に診てもらった際、緊張のあまり激しい動悸がしたことから、心臓病と誤診されてしまう。そのため、小学校にも通えず孤独な幼少期を過ごすことになった。そんなアメリの唯一の楽しみは、想像の世界に浸ることである。大人になり、カフェで働いていたアメリは、ある日、証明写真機の下を漁っているニノという青年と出会い……。
登場人物
(敬称略)
アメリ・プーラン(演:オドレイ・トトゥ)
主人公の女性。小学校の教師である母と軍医である父との間に生まれた。幼いころ、父に心臓病と誤診されたことから、想像の世界で遊ぶことが唯一の楽しみになる。シャイで夢見がちな一面がある。
ニノ・カンカンポワ(演:マチュー・カソヴィッツ)
アメリが恋に落ちた青年。捨てられた証明写真を集めている。
レイモン・デュファイエル(演:セルジュ・メルラン)
アメリと同じアパートに住んでいる画家。骨がもろく、外出が制限されている。
ジーナ(演:クロティルド・モレ)
アメリと一緒にカフェで働く同僚の女性。
ラファエル・プーラン(演:リュファス)
アメリの父で、軍医。アメリの診察をした際、心臓病と誤診してしまう。
映画「アメリ」の感想
アメリといえば、パッケージにもなっているチャーミングな笑顔(とスプーン)。あくまでも日常がテーマになっているので、フランス映画初心者におすすめしたい一作です。
動く絵本のような世界観
まず注目したいのは、ナレーションから入るアメリの動く絵本のような世界観。
ここからもう、なんかおしゃれ。
フランス映画らしい鮮やかな色彩に、冒頭で入る3人称のナレーション。ここではアメリの半生とその周囲を取り巻く人間関係が物語調で語られていきます。
決して良好とはいえなかったアメリの幼少期のことも、じつに淡々と。つまり、これは小さいころにたまにあった図書館で聞く児童書(童話)の読み聞かせに非常に似ている部分といえます。
ちなみにナレーション担当はアンドレ・デュソリエ。
作中には登場しない、本当にナレーションのためだけのキャラクターです。これが作中でちょこちょこ入ってくることで、感情移入をするというよりは客観的に本を読んでいる感覚を味わうことができるようになっています。
登場人物の「好き」「嫌い」
冒頭のナレーション部分で、登場人物それぞれの「好き」「嫌い」が紹介されているのも、このアメリという作品の特徴です。
例えば主人公のアメリ。
好きなことは、豆の袋に手を突っ込むこと、映画館で観客の表情をこっそり見ること、石の水切り、クリームブリュレのおこげの部分をスプーンで割ること、など。それから嫌いなことは、昔のアメリカ映画に出てくるわき見運転のシーン。
結構細かい。
本当に日常のワンシーンといった感じで、これがまた、視聴者に客観的な視点を与えながらも、キャラクターたちに人間味を持たせているんですよね。
好きなことからわかるとおり、アメリは幼少期の環境から、見ようによっては目立ちたがりとは程遠い性格の持ち主です。どちらかと言えばシャイ。でも知的好奇心は旺盛で、思い立ったら即行動という一面もある不思議な女性。
アメリは幼少期に外に出られない環境だったからこそ、人とのコミュニケーションを苦手としています。また、自分の気持ちをうまく言葉で表現できないからこそ、行動で「自分の好き」を突き詰めていくんです。
この欲求に忠実な行動が本来年齢的には大人なアメリを純粋な少女のように見せているのかもしれませんね。
クリームブリュレ(のおこげ)を割るということの意味
映画「アメリ」のキャッチコピーとなっている文言。
それは「幸せになる」。
アメリが? いやいや、それだけじゃない。
なんて言ったって、アメリが手始めに幸せにしようと考えたのは赤の他人ですからね。それは、他人を幸せにすれば、自分も幸せを感じることができるから。
小さいころ妄想することでしか手に入れられなかった幸せが、自分の手によって現実になっていく。まるでクリームブリュレのおこげ(固い部分)が割れて、ふわりと中身がこぼれ落ちていくように……。それがアメリにとっての幸せでもあったのです。
けれど同じように、アメリの幸せを願ってくれる者もいる。アメリがしてきたことも同様で、他人がしてくれるのはあくまでも手助け程度。
そう考えると、幸せというものは結局、最終的に自分自身で行動して手に入れるしかないということです。
キーワードは「ガラス」
アメリという作品の中で、クリームブリュレ同様に注目したいのがガラスの存在。
多くの名言を残している「ガラス男(先天性の病気のため、20年間以上も家に引きこもっている老人)」というキャラクターがいるとおり、ガラスというのはアメリの中で大事な部分となっています。
言ってみれば、ガラスというのは内と外とを隔てる障害物と取ることもできますよね。まず、最初に出てくるガラスは冒頭部分で飼っていた金魚が飛び出す金魚鉢。これをアメリは幼心に「自殺的」ととらえています。
家からほとんど出ることがかなわなかったアメリのことですから、狭いながらも自由に泳ぎ回ることができる内側から、呼吸もできない外に飛び出すその行為は、まさに「自殺的」というにふさわしかったのでしょう。ここから、ことあるごとにガラスが登場します。
意中の相手であるニノとやっと会えたと思ったのに、会話までしておきながらガラス越しで話すだけ。それも「自分を偽って」までかたくなにガラスを飛び越えることはしません。
ガラスはアメリにとって、自分の心を守るために必要なものだったのかもしれませんね。
注目したい緑VS赤の配色
アメリを観ていて気になるのは、その配色。よくよく注視してみると、緑と赤の配色が多く使われていることに気が付きます。
単純に考えるとこう思えてしまいますがこの緑と赤、じつは補色にあたります。この2色の心理効果は下記のとおりです。
- 緑:やすらぎ、安全、希望、安定、バランス、癒やし、幸福、再生等
- 赤:愛情、活動的、危険、緊張、爆発、勇気、自己主張、情熱、悪魔、生命等
これは幼少期に培われた、空想癖のあるアメリの中での世界観。つまりその相手や環境、状況によって好きか嫌いか、あるいは赤か緑かというふうに、0か100かのように考えてしまうのがアメリなのです。
ただ「ビビッドな色の使い分けがおしゃれなフランス映画さすが!」というだけでなく、そういった少女の心理的要素にも注目したいのがアメリという作品です。
ちょっとした不気味さも魅力
こんなに可愛らしいお話なのに、なぜかちょっぴり不気味なんですよね。
薄っすらサイコパス味を感じるというか。
でも、それすらも魅力的に映るのが「アメリ」の素晴らしいところです。
これはたぶん、アメリの中に少女性と女性性が混在しているように感じさせられるからじゃないかなと思います。
衝動的というか、好奇心に従って動いてしまう無垢な少女のような一面がありながらも、カフェで働いていたり「周りをちょっとだけ幸せにする手伝いがしたい」と考える女性的な一面もあったり。
このアンバランスさが見せる不気味さだと思いますね。
ある意味では、ギャップとでも言うような。この不安定さが見る人を魅了するのでしょう。
映画「アメリ」が好きな人におすすめの作品
- 愛を綴る女(2016)
- 王妃マリー・アントワネット(2006)
- 世界でいちばん不運で幸せな私(2003)
- 読書する女(1988)
まとめ:元気がもらえるフランス映画
「フランス映画には興味があるけれど、どれから手を付ければいいかわからない」という人におすすめの名作です。
可愛いアメリが、気持ちを癒やしてくれるでしょう。
もちろん、フランス語勉強中の人にも観やすい一作になっていますよ!