トレジャーハンター・クミコ [DVD]
菊地凛子さん主演作品「トレジャーハンター・クミコ」。
本作は、日本では(おそらく)あまり知られていなかった、けれどもアメリカだとよく知られている都市伝説をベースに作られたそう。
ちなみに、その都市伝説自体も実際の事件が発端になっているそうです。
本記事は2020年12月に執筆されました(2024年06月更新)。すべての情報は更新時点のものです。
ワンフレーズ紹介
現実と、夢と、希望と。
作品情報
タイトル | トレジャーハンター・クミコ |
原題 | Kumiko, the Treasure Hunter |
ジャンル | ヒューマン |
監督 | デヴィッド・ゼルナー |
上映時間 | 105分 |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2014年 |
レイティング | ー |
個人的評価 | ★★★☆☆ |
あらすじ
日本で生活していた、29歳の独身OLクミコ。仕事もうまくいかず、母親との関係もいいとは言えないクミコは、時間があると映画「ファーゴ」のVHSを繰り返し見て、大金の入ったブリーフケースがどこに埋められているかを特定しようとしていた。そんなある日、クミコは会社のクレジットカードを盗むと、「ファーゴ」の舞台となったノース・ダコタ州へ向かうことにしたのだった。ブリーフケースは必ずあると信じて……。
登場人物
(敬称略)
クミコ(演:菊地凛子)
日本で平凡な暮らしをしている29歳の独身OL。仕事に加えて母親ともうまくいかず、鬱屈した日々を過ごしているクミコにとって、唯一の興味は映画「ファーゴ」の中で隠された、大金入りのブリーフケースの場所を特定することだった。
映画「トレジャーハンター・クミコ」の感想
映画「トレジャーハンター・クミコ」の感想です。2001年にアメリカで起きた事件がもとになった都市伝説をベースに作られた作品です。菊地凛子さんの演技が冴え渡っています。
共感できる主人公
本作はアメリカで作られた作品……のわりに、日本社会についてやけにリアルだなと思える描写が多数ありました。
例えば、はっきりと言われるわけではないけれど、あからさまに見下されているんだろうなという雰囲気だったり、こう、やっぱりはっきり言われるわけではないんだけど、暗に退職を迫られている空気感だったり。久々に会った一見親しげな同級生にも、やはりうっすらマウントを取られていたり……。
可哀想のオンパレード。
おそらく、日本社会で生きてきた人には「なんとなくこの嫌な雰囲気がわかる」のではないでしょうか?
日本ならではのハイコンテクスト文化の描写がとってもうまかった。「言わなくてもわかるでしょう」「なんでわからないの?」「もっと空気を読んでよ」という空気が充満していて、見ているだけで息苦しくなりそうでした。
……ここで終わっておけば、「可哀想な(共感できる)クミコ」で終わったんでしょうね。
共感できない主人公
ひとえに共感できる主人公として終わらなかった(終われなかった)のは、クミコもいろいろやべーことをやらかしているから。
図書館の書物を咄嗟に盗んでしまったり、クリーニングを頼まれていた上司のスーツを突発的に捨ててしまったり、(いくら上司が嫌いだったとしても)上司のために用意した緑茶に唾を垂らしたり。
陰湿すぎるし、後先を考えなさすぎる。
まあ、あの上司は私も嫌だなと思ったのでやりたくなる気持ちはわからないでもないし、その時点でクミコはすでに精神的に参っていたのだろうというのも理解できるんですが、あんなことをし続けていたら、同僚に馴染めないのも、仕事がうまくいかないのも、ある種「そりゃそうだ」というところではあります。
なんというか、周りがよくなかったというのは前提として、自分を自分でさらに不幸にしている感じ。
もっと自分を幸せにできる道はあったろうに、「しんどい」「つらい」と思っていると、どうしても視野が狭くなってしまうものですね。しかも、このときのクミコにとっては「ファーゴの大金探し」が生きる意味だったんでしょうから、なおさら。
菊池凛子さんの演技力
菊地凛子さんといえば世界的に有名な女優の一人ですが、やっぱりすごいですね。演技力。さすが、国内外問わず高く評価されているだけのことはあります。
本作は前編(舞台:日本)と後編(舞台:アメリカ)にはっきり分かれた内容となっていますが、陰鬱で常に視線を落として生活しているような日本のクミコと、希望に向かって前進し続けるアメリカでのクミコとの対比がよくできています。
日本でのクミコが暗すぎて、そして自分中心すぎて、良い具合に腹立たしいんですよね。これがまた、後編に生きてくるという。
途中まではじれったい展開の連続なんですが、最後まで観てよかったと思える作品のひとつでした。
雪化粧の映像美
一面の雪景色に、クミコの真っ赤なパーカーが映えています。その光景の美しいこと、美しいこと。
日本ではくすんで見えるその色も、アメリカの雪化粧の中では輝いているのです。ここでもまた、クミコの心情が表れているのでしょうね。彼女にとって、日本は絶望でしかなく、アメリカは希望の国なのですから。
元気なときに観たい作品
正直、結構メンタルにきます。
いや、元気なときなら大丈夫。
でも、お世辞にも明るい内容とは言えないので、精神的に落ちているときには観ないほうがいいかもしれないなあというふうに感じました。
変に落ち込んでいるときに観て、クミコの感性に同調してしまったら最悪です。
そのくらい、日本社会の雰囲気がリアル。
あれ、菊地凛子さんも助言をしたりしたんでしょうかね? アメリカで作られたというわりに、あのなんとも言えない、絶妙な嫌な空気感が「あ、もうお腹いっぱいです」というぐらいにはリアルだったんだけれども。
保安官の優しさ
なお、現地で保護してくれた保安官。
口コミなどを見るに「優しい」という意見が多いようなんですが、海外暮らしの経験がそれなりにある私としては、「あ、怪しい……!」とふっと身構えてしまいました。……結果、たぶん普通に良い人だったっぽい(穿った見方すぎた)。
いやね、保安官かどうかは関係なく、海外でアジア人に過剰に優しい人って、それだけで怪しく見えるんですよね……(経験則)。
クミコの生きる意味
先述したとおり、追い詰められたクミコにとって「『ファーゴ』で隠された大金(ブリーフケース)の場所探し」が生きる意味だったんじゃないかなと思うんですよね。
だから、アメリカでその場所に向かっているときは生き生きしていた。その場所を見つけることそのものが希望であり、生きる意味だったから。
観ているこちらとしては「ああ、なんて馬鹿なことを……!」としか思えない状況なんですが、クミコにとっては大真面目も大真面目。
……でも、本当に?
本当に、クミコはどこかにブリーフケースが埋まっていると思っていたのでしょうか?
個人的には、クミコは「ブリーフケースなんてどこにもない」ことをわかっていたんじゃないかなと思っています。つまり、生きる意味なんてどこにもないことをわかっていた(うう、悲しい……)。
でも、藁にも縋る思いで向かわずにはいられなかったし、最終地点で彼女が何を思ったかはさして重要ではない……というような気がします。
映画「トレジャーハンター・クミコ」が好きな人におすすめの作品
映画「トレジャーハンター・クミコ」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ファーゴ(1996)
- ホース・ガール(2020)
- フローズン・リバー(2008)
- 追憶の森(2015)
まとめ:ラストシーンの意味を考えたい
ラストシーンの生き生きしたクミコの表情は、現実から逃げ切ったことに対するものか、それとも大仕事を成し遂げたことに対するものか。この「生き生きとした」というのがまた切なく、たまらない気持ちになります。
作中で何度も出てくる映画「ファーゴ」は知らずとも楽しめますが、観ておくと雰囲気が伝わっていいかもしれませんね。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 88% AUDIENCE SCORE 64%
IMDb
6.6/10