映画「トレジャーハンター・クミコ」を紹介します。
本作は、菊池凛子初の海外主演作です。
洋画が苦手という人でも、邦画に近いタッチで描写されていることが多いので、無理なく楽しむことができます。ちなみに、本作の題材は実際に起きた事件に基づく“都市伝説”です。
作品情報
- 作品名:トレジャーハンター・クミコ(Kumiko, The Treasure Hunter)
- 上映時間:1時間44分
- ジャンル:ミステリー、ドラマ、ヒューマン
- 製作国:アメリカ
- 公開年:2015年
あらすじ
東京で暮らす29歳のOLクミコは、親しい友人も恋人もおらず孤独な毎日を過ごしていた。そんな彼女の唯一の楽しみは、コーエン兄弟の映画「ファーゴ」を見ること。冒頭の「本作は実話に基づく」というテロップを信じ込み、スティーブ・ブシェーミ演じる登場人物が大金を埋める場面を繰り返し見てはその場所を想像するのだった。ある日、会社のクレジットカードを預かったクミコは、そのカードを使って旅費を支払い、映画の舞台となった都市ファーゴへと向かう。
(引用元:映画.com「トレジャーハンター・クミコ」)
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キャスト・スタッフ
- 監督:
– デイヴィッド・ゼルナー(David Zellner) - メインキャスト:
– 菊池 凛子 ⇒ クミコ(Kumiko)役
– 勝部 演之 ⇒ サカガミ(Sakagami)役
– 東 加奈子 ⇒ ミチ(Michi)役
– 河北 麻友子 ⇒ カナザキ(Ms. Kanazaki)役
– デイヴィッド・ゼルナー(David Zellner)⇒ カルドウェル(Deputy Caldwell)役
– ネイサン・ゼルナー(Nathan Zellner)⇒ ロバート(Robert)役
– シャーリー・ヴェナード(Shirley Venard)⇒ 老女(Old Woman)役
「トレジャーハンター・クミコ」注目ポイント
2001年にアメリカで実際に起きた事件をもとにしている本作は、菊池凛子初の海外映画主演作。映画の中では多くは語られず、人によって解釈が異なりそうな作品となっています。
共感できない主人公
菊池凛子演じる主人公のクミコは、社会にうまく馴染めないしがないOL。日本特有の会社の雰囲気や同僚との折り合いなどはわりとわかりやすく描写されていましたが、主人公の心情や環境をこと細かに描いておきながら、ここまで共感できないというのも珍しいのではないでしょうか。
図書館の書物を咄嗟に盗んでしまったり、クリーニングを頼まれていた上司のスーツを突発的に捨ててしまったり、上司のために用意した緑茶に唾を垂らしたり。
あとさき考えないその行動。
同僚に馴染めないのも、仕事がうまくいかないのも「そりゃそうなるよね」とクミコの“人間性の問題”が浮き彫りになっています。
社会にはびこる息苦しさ
その一方、日本ならではの高コンテクスト文化がうまく表現されているのも本作の特徴。「言わなくても伝わるでしょ」「察してよね」みたいな。
常にまわりを気にして生きていかなければいけないとなると、だれしも息苦しさを感じるものです。
おそらくほとんどの人が経験したことがあるあの独特な雰囲気が、あまりにリアル。よく出来ています。
女性の年齢と役割
わかりやすく寿退社を迫る上司に、昇進や結婚について執拗に訊ねてくる母親など、これらは社会における女性の年齢や役割(のステレオタイプ)にまつわる事案。
「何歳までに結婚すべきだ」とか「仕事か結婚か」だとかの話って、ジェンダー論が取り上げられることも多くなった昨今、ようやく耳にすることも少なくなりましたよね。でも、完全になくなったわけではない。
こういう現実はまだあるんだということを、改めて認識させてくれます。
菊池凛子の圧倒的演技
初海外主演作品だとは思えないほど、菊地凛子の演技が素晴らしい。これは国内外問わず、高く評価されている部分でもあります。
前編(日本)と後編(アメリカ)にはっきり分かれた内容となっていますが、陰鬱で常に下を向いて生活しているような日本のクミコと、希望に向かって前進を続けるアメリカでのクミコとの演じ分けが天才的です。
日本でのクミコがいい具合に腹立たしいんですよね。これがまた、後編に生きてきます。途中まではじれったい展開の連続ですが、ぜひ終盤に期待して我慢強く観てほしいものです。
雪化粧の映像美
一面の雪景色に、クミコの真っ赤なパーカーが映えています。その光景の美しいこと、美しいこと。
日本ではくすんで見えるその色も、アメリカの雪化粧の中では輝いているのです。ここでもまた、クミコの心情が表れているのでしょうね。彼女にとって、日本は絶望でしかなく、アメリカは希望の国なのですから。
「トレジャーハンター・クミコ」を観た感想
正直、観ていて辛くなる作品でした。
クミコの社会と相容れない(非常識な)人間性や、そんなクミコを受け入れようとせず一方的に追い詰める社会。「社会ってこんなものだよな」と思いつつ、観ているうちに居た堪れなくなって、目をそらしたくなります。痛々しいなあ、というのが正直な感想。
精神的に弱っているときに観るのは、あまりおすすめできません。
たぶん、日本での描写があまりにリアルだからこそ、こんなにも息苦しくなるのでしょう。
渡米することは、果たしてクミコにとって希望の象徴(使命)なのか、それとも絶望(逃亡)なのか。なにかを妄信することは救いになりうるのか、本気で考えさせられます。
ただ、まあ、日本人女性の描写が“海外の人がイメージする日本人(つまりステレオタイプ)”であったことは、悲しいところではあるけれども。先述のとおり、理解できるところも少なからずあるので、100%ステレオタイプとも言い切れない。
いろんな人のレビューを読むと「保安官が優しい」というような感想があるんですが、これ、自分に置き換えてみると、親切すぎて気味が悪くすら映ります。ここについては、クミコの心情がわからないでもない。当然、だからといってやりすぎなものはやりすぎですが。ちなみにこの保安官が監督(デイヴィッド・ゼルナー)です。
また、会社をやめられないどころか、実の母親に言い返すことすらできないクミコが、英語もできないのに無計画に渡米するのは、行動力があるからというより、“他になにも思い付かなかったから”なのかなと思います。それがたまたま、映画「ファーゴ」で観たワンシーンだった。依存できるものがすべてで、それでなんとか保っていた現実が、ある日がらりと崩れ落ちる。この描写がまた見事!
人間、精神的に追い詰められると選択の幅が狭くなるものです。はたから見てどんなに突拍子のないことでも、本人にとってはもうそれしかないんですよね。
一種の強迫観念と言えるでしょう。
クミコは埋蔵金発掘の先にいったいなにを見ていたのか、いろんな解釈がありそうです。好き嫌いにも分かれそう。ロードムービーが好きな人は、内容がどうであれ楽しめるかもしれません。
ラストシーンの意味を考えたい
ラストシーンの生き生きしたクミコの表情は、現実から逃げ切ったことに対するものか、それとも大仕事を成し遂げたことに対するものか。この“生き生きとした”というのがまた切なく、たまらない気持ちになります。
作中で何度も出てくる映画「ファーゴ」は知らずとも楽しめますが、観ておくと雰囲気が伝わっていいかもしれませんね。
※本記事の情報は2020年12月時点のものです。

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