映画「巴里のアメリカ人」を紹介します。
タイトルのまま、パリで暮らすアメリカ人が繰り広げるロマンチックで切ないミュージカル映画。主演は「雨に唄えば」で有名なジーン・ケリーです。
夜のパリの芸術的な美しさが、見事表現されています。
作品情報
- 作品名:巴里のアメリカ人(An American in Paris)
- 上映時間:113分
- ジャンル:ミュージカル、ロマンス
- 製作国:アメリカ
- 製作年:1951年
あらすじ
パリで一流の画家を目指しているアメリカ人ジェリー(ジーン・ケリー)だったが、絵の鍛錬は一向に進まない。けれどアメリカ人ピアニストのアダム(オスカー・レヴァント)やフランス人歌手アンリ(ジョルジュ・ゲタリ)など友達はたくさんできた。パリでジェリーの絵のウケはよくなかったが、若い芸術家好きの富豪夫人ミロ(ニーナ・フォッシュ)が彼の個展を訪れた時、ジェリーのパトロンになることを申し出る。ある日、ミロと共に行ったキャバレーで、ジェリーは美しいパリ娘リズ(レスリー・キャロン)に一目惚れする。翌日からジェリーとリズは逢瀬を重ね、互いに愛し合うようになるのだが、リズは歌手のアンリと婚約していることをジェリーに言い出せずにいた。
(引用元:ciatr「巴里のアメリカ人」)
キャスト・スタッフ
- 監督:
– ビンセント・ミネリ(Vincente Minnelli) - メインキャスト:
– ジェリー・マリガン(Jerry Mulligan)… ジーン・ケリー(Gene Kelly)
– リズ・ブーヴィエ(Lise Bourvier)… レスリー・キャロン(Leslie Caron)
– アダム・クック(Adam Cook)… オスカー・レヴァント(Oscar Levant)
– アンリ・ボウレル(Henri Baurel)… ジョルジュ・ゲタリ(Georges Guetary)
– ミロ・ロバーツ(Milo Roberts)… ニナ・フォック(Nina Foch)
「巴里のアメリカ人」注目ポイント
あるときは美しく、あるときは切なく、またあるときは心躍らせるパリの夜の情景が浮かんでくる名作。決して広くはない空間で繰り広げられるジーン・ケリーのタップダンスシーンは見ごたえ抜群です。
後世のミュージカルに影響を与える名シーン
オマージュであったりパロディであったりと、過去の作品が(に)影響している映画はたくさんあります。「巴里のアメリカ人」もその中のひとつ。
構造としては、2017年第89回アカデミー賞で監督賞や主演女優賞含む6冠を達成した「ララランド」の終盤でオマージュされています(ララランドでは複数のミュージカル映画のオマージュシーンが見受けられる)。
絵画のような映像美
パリの夜って、悲しくも切なくも、ロマンチックにもなるから不思議です。でも、そのどれもが美しい。そんなパリの姿を映し出したひとつひとつのシーンは、まるで一枚の絵画を見ているかのよう――というだけでなく、実際、ラスト怒涛のダンスシーンは印象派の絵画を彷彿とさせます。
印象派の代表画家といえば、モネやルノワールなどが有名です。
ラスト18分のダンスシーン
ラスト18分にもおよぶダンスシーンは、まさに圧巻!
台詞のひとつもなく、ただただ(ジェリーの)空想の中で踊り続けるだけ。シーンがシーンなだけに、見ようによってはなかなか狂気的な場面でもあります。情熱的、と言えればいいのですが、歌って踊って楽しい「雨に唄えば」とは対照的にアンニュイな雰囲気を持った作品なので、狂気的(でも芸術的)と表現したほうがしっくりきますね。
ちなみに、ヒロイン役のレスリー・キャロンは元プリマバレリーナ。ダンスがうまいのも納得ですね。なお、ジーン・ケリーに見出され、本作で女優デビューを果たしました。ジーン・ケリーの多才ぶりについていけているのがすごい。
楽曲へのこだわり
作中で使用されている音楽はすべて、ガーシュウィンによるものです。弟ジョージの作曲と、兄アイラの作詞。ミュージカル音楽はもとより、クラシック音楽やポピュラー音楽など数多くの楽曲を世に送り出してきた2人です。
特に上記で述べたラスト18分のダンスシーンで使用されている(そして本作のモチーフにもなっている)「パリのアメリカ人」は、アップテンポで心躍る雰囲気を持ちながら、どこか不安になるような要素も併せ持つ交響詩。
完璧主義者として有名なジーン・ケリーはもとより、ピアニストのオスカー・レヴァントもガーシュウィン(の楽曲)には相当の思い入れがあったようで、選曲はかなり難航したそうです。そんなこだわりがぶつかり合って出来上がった最高傑作、ぜひ注目してほしいところですね。レヴァントはガーシュウィン兄弟と親交があったのだとか。
「巴里のアメリカ人」個人的感想
ガーシュウィン兄弟の楽曲はどれも素晴らしいのですが、特に好きだったのは軽快で陽気なテンポで魅せる「I Got Rhythm」。たぶん「巴里のアメリカ人」を観たことがない人でも、この曲を知っている人は多いはず。日常のふとした瞬間に口ずさみたくなる、癖になるようなハッピーな楽曲です。なんといってもジーン・ケリーたちを囲む子どもたちの可愛さったらありません。
個人的に思うジーン・ケリーの好きなところって、パフォーマンスとしてすごいことをやってのけているのにそうは見えない(軽くこなしているように見える)――のに、なぜか「俺、こんなこともできちゃうんだぜ! ドヤッ」みたいな雰囲気になってしまうあたり。すごすぎて、逆にそんな意地悪な見方になってしまうのかもしれませんが。
この「I Got Rhythm」もその中のひとつで、子どもたちの喝采を受けながら、ジーン・ケリーが見事なタップダンスを披露してくれています。ナポレオンや兵隊、チューチュートレイン、チャップリンなんかを演じ分ける部分は、実際に子どもたちが喜びそうなエンターテインメントですよね。
ジーン・ケリーといえば「雨に唄えば」を思い浮かべる人が多いかと思いますが、この「巴里のアメリカ人」も絶対に外せない傑作中の傑作。本作においてはキャスティングも非常に素晴らしい役割を果たしていて、たとえばレスリー・キャロンなんかは(いい意味で)美人すぎないのでなんだか親近感が持てるし、ジェリー(ジーン・ケリー)のスポンサー、ミロを演じたニナ・フォックはほどよい感じに恋に悩み恋に泣くリズとは正反対のある種真っ直ぐな女性を演じきりました。
これが意外と悪女という感じでもないので、嫌な雰囲気はまったくない。というか、それで言うとわりとジェリーがふらふらしているどうしようもない男に見えるし、リズはリズで「ハッキリしろよおおお!」と言いたくなる。メインのキャラクターたちもなかなか自己中心的という不思議な作品です。
演出が洒落ているのもいいですね。
たとえば、冒頭で出てくるジェリーが部屋を整えていくシーン。紐を引っ張ったらベッドが天井に吊り上げられたり、タンスから机や椅子が出てきたりなど、普通に考えればありえない光景(そんな仕掛けあり!? という感じ)ですが、それすらパリの洒落た雰囲気を演出するのに一役買っています。このシーンはけっこうお気に入り。
あとは、「雨に唄えば」では広々とした空間でのびのび歌って踊っている印象が強いジーン・ケリーですが、本作ではレストランや部屋など、空間に限りがある場所でピアノやテーブル、椅子といった障害物を避けながら器用にパフォーマンスをしている印象。なんでも、本作ではスタジオに44ものセットが作られたらしいですよ。
にしても、ピアノの上でタップを踏むシーンは、レヴァント的にはどうだったんでしょう。ピアニストとして。
そして18分にもわたるクライマックスのダンスシーン。おそらくこれは、長いと感じる人も短いと感じる人もいることでしょう。
絵画の中に入り込んだような、それもかなりシュールな世界観を味わうことができます。印象派の絵画がモチーフになっていそうなんですが、世界観的にはダリの作品(シュルレアリスム)とか不思議の国のアリスとか、そっち系。楽しく陽気なのに、どこか不気味。これからなにが起こるんだろうというわくわく感と、不安、緊張が感じられます。このセットを作るのに、6週間もの期間を要したんだそうです。
「I Got Rhythm」やその他楽曲もいいですが、構成や演出など含めて好きなのは「S’Wonderful」。同じ女性を思っていながら、互いにそれを同一人物だとは気づいていないアンリとジェリー、それにひとり気づいているアダムの演技が絶妙です。自分がアダムだったらかなり気まずい。「どうしよ……」みたいな表情がなんともたまりませんね。
この曲を発端として、リズの意思とは関係なく“ジェリーかアンリか問題”に直面するのが面白いところです。
ロマンチックなケリーならこの作品!
【総合評価】
ストーリー:★★★★☆
キャスト:★★★★★
音楽:★★★★☆
演出:★★★☆☆
脚本:★★★☆☆
もともと甘い顔立ちのジーン・ケリーですから、軽快なタップを踏むダンスだけでなく、切なくロマンチックなナンバーも完璧に踊り、歌いこなせてしまうのがすごいですね。ジェリーの感情が画面を通してひしひしと伝わってきます。
そしてラストには18分にもおよぶ連続したダンスシーンを入れ込むという大胆な構成と演出も、常に新しいものを追い求めてきたケリーらしい選択です。ヒロインに新人のレスリー・キャロンを引っ張ってきたのも、結果として大正解だったと言っていいと思います。
※本記事の情報は2020年12月時点のものです。