涙するまで、生きる [DVD]
映画「フォーリング 50年間の思い出」(2020)や「グリーンブック」(2018)などの作品で知られる、ヴィゴ・モーテンセン主演の作品です。
はあー、相変わらず渋くて格好よろしい!
ダンディーなおじさまにキュンキュン胸がときめいてしまう映画でした。まあ、内容としてはロードムービー要素が強く、地味な印象だったけれども。私は好きでした。
本記事は2024年10月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
ワンフレーズ紹介
戦争はもう終わったと――。
作品情報
タイトル | 涙するまで、生きる |
原題 | Loin Des Hommes |
原作 | 転落・追放と王国/アルベール・カミュ著 |
ジャンル | ヒューマン |
監督 | ダヴィド・オールホッフェン |
上映時間 | 101分 |
製作国 | フランス |
製作年 | 2014年 |
レイティング | PG-13 |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
時は1954年、戦後間もないアルジェリア。アルジェリアの僻地で、子どもたちに勉強を教えている元軍人の教師ダリュのもとに、殺人の罪を犯したというアラブ人のモハメドが連行されてくる。裁判にかけるため、遠く離れた街へとモハメドを移送するように指示されたダリュは、気が乗らないながらも、渋々その任務を引き受ける。その道中、二人の間には徐々に信頼関係のようなものが生まれていき――。
登場人物
(敬称略)
ダリュ(演:ヴィゴ・モーテンセン)
元軍人の教師。国籍はフランスだが、自身はアルゼンチンで生まれ育ち、両親は共にスペイン人。
モハメド(演:レダ・カテブ)
殺人の罪で移送されることになったアラブ人。移送されれば最後、命はないだろうとのことだが、気乗りしない様子のダリュに対し、自ら進んで「移送してほしい」と懇願する。
映画「涙するまで、生きる」の感想
映画「涙するまで、生きる」の感想です。なんとなく「ヴィゴ・モーテンセンが見たい!」との思いから選んでみた作品でしたが、個人的にはかなり好きなタイプのヒューマンドラマでした。
ヴィゴ・モーテンセンの渋さ
まず、なんといってもヴィゴ・モーテンセンの格好良さね。
お恥ずかしながら、私はこの作品のことをまったく知りませんで……配信の中でふと目にとまったのがこれだったわけですが、ちっちゃなジャケットの中に映る彼を見て「あっ、マッツ・ミケルセンやん!(好き)こんな作品に出てたっけなあ……?」と選んだんですが(失礼すぎる)。
蓋を開けてみれば、ヴィゴ・モーテンセン。
いやあ、お二方とも本当に素敵な俳優さんですよねえ。
本作でのヴィゴは、元軍人の教師という難しい役柄を演じていましたが、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろうストイックさと、だからこその憂鬱さと芯の強さみたいなものを非常に上手に表現していました。やっぱりすごい俳優さんなんだなと、改めて。
ハッとさせられたセリフ
また、個人的にハッとしたセリフがあって。
それは、
戦争はもう終わったと思ってた。
かつての同僚に向けてダリュが放った、このセリフ(ちょっと言い回しは違ったかもしれないけれど、こんな感じだった)。
これはたぶん、実際に戦争が終わったというよりも「(すでに退役した自分にとって)戦争は終わったと思っていた」という意味合いが強いのかなというふうに感じました。
元軍人だからこその重みがあって、胸にズシンときましたね。
アルジェリアとフランス
歴史的に見ると、アルジェリアとフランスは切っても切り離せない関係。
アルジェリアは、1830年からフランスの植民地になっていたのですね。そして、独立戦争であるアルジェリア戦争が起こったのが、1954年。
つまり、本作はまさに「アルジェリアは独立したいぞ!」な時代ということです(実際に独立したのは1962年)。
フランス領アルジェリア時代のフランスの統治はなかなか厳しいものだったみたいですし、そりゃあピリピリしていてもおかしくない。というか、当たり前。
それを踏まえて観ると、ダリュの生きにくさみたいなものもうっすらわかったような気になります。
ダリュのアイデンティティー
ダリュはフランス人という設定。
ですが、実際はちょっと複雑(でもないかな?)なバックグラウンドを持っていました。
国籍はフランスでも、両親はスペイン人で、しかし生まれ育ったのはアルジェリアというところです。
両親がスペイン人ということで、フランス人には差別され。アルジェリアで生まれ育ちながらも、やはり国籍はフランスなので、アルジェリア人にも良く思われないという。
国籍云々はひとまず置いておいて、ダリュ自身が自分をどこの国の人間だと考えていたのか、作中で名言することはなかったと思うんですが、このあたりのアイデンティティーって難しいですよね。
例えば、私のように外国の血が入っていない(遠い祖先のことはわかりませんが)日本人で、生まれ育ちも日本という場合は、さして悩むことはないんでしょうけれども。
両親が日本人でも外国で生まれ育った場合(あるいは外国籍を持っている場合)や、両親、または祖父母の誰かが外国人だった場合など。自分自身を「何人(なにじん)だと思うのか」って、結構センシティブな問題です。
私にも、以前の知り合いで、父親が外国人だという人がいたんですが、日本の場合、一定の年齢以上になると、基本的には二重国籍を認めていないこともあって(ただ、ここらへんの現実はちょっと複雑。ルール上はそうなっているよ! ということ)、悩ましいと言っていました。
「父と母、どちらを選ぶのかと言われているみたいでもあった」と話していて、ハッとしましたね。
このようなアイデンティティーのような観点で考えると、ダリュは非常に生きにくさを感じていたんじゃないかと思います。
モハメドの覚悟
そして、モハメドもすごかった。
なにがすごいって、その覚悟よ。
最初はね、移送されれば最後、たいした裁判も行われず命を失うことはわかっているのに、逃げてどーぞ! なスタイルを貫くダリュに対して「連れて行ってくれ」と懇願するモハメドが、ちょっと意味わからなかったんですが。
生きることに対する覚悟と諦め。
モハメドを見るうちに、両極端にあるようなこれらの意思を強く感じるようになりました。
生きるためにはなんだってしなきゃならない。だけど、なるようにならないものもある。仕方がない。
というような。
対極にいるふたりの絆
徐々に距離を縮めていくダリュとモハメドですが、私にはなんだか、正反対のふたりに見えました。
戦場で凄惨な光景を見てきたからこそ「生きていればどうにでもなる」と考えているようなダリュと、「生きていて誰かのためにならないならば、この命を差し出すべきだ」と考えているようなモハメド。
どちらも間違いじゃない。
けど、そのどちらもが正解かというと、それもわからない。
そんなふたりが、旅路を進めるごとに互いを理解しようとし、信頼関係を築いていくのがなんとも尊く感じられました。
映画「涙するまで、生きる」が好きな人におすすめの作品
映画「涙するまで、生きる」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ぶあいそうな手紙(2019)
- 友だちのうちはどこ?(1987)
- 丘の上の本屋さん(2021)
- 大地と白い雲(2019)
まとめ:ロードムービー的作品
本作はロードムービー的な要素が強い映画なので、一応山場などはあるけれども、やや地味な感じもして、結構人を選ぶタイプなんじゃないかと思います。
でも、ヴィゴ・モーテンセンが格好良い(マジなので、何度でも言います)。
「生きること」について、じっくり考えたい人とかにもおすすめですね!
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 84% AUDIENCE SCORE 74%
IMDb
7.2/10