22年目の告白-私が殺人犯です-
「カイジ」や「デスノート」など、数多くのヒット作に出演している藤原竜也さん主演の映画「22年目の告白 ―私が殺人犯です―」。
今回も見事にハマり役でした。
こういった美しく、ミステリアスでなにかを内に秘めていそうな役柄も似合います。
大まかな流れは変わらないものの、映画では特に明らかにされていない設定なども載っているので、小説版のほうを手に取ってみるのも面白いですよ。
▼小説版もおすすめ▼
作品情報
タイトル | 22年目の告白 ―私が殺人犯です― |
ジャンル | サスペンス |
監督 | 入江悠 |
上映時間 | 117分 |
製作国 | 日本 |
公開年 | 2017年 |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
あらすじ
1995年に世間を恐怖に陥れた、連続殺人事件。その手口は非常に残忍で、被害者と親しい人間に殺害の様子を見せるというものだった。警察は逮捕寸前にまで犯人を追い詰めるものの、結局は未解決のまま時効を迎えてしまうのだった。――それから22年後。「私が殺人犯です」殺人の様子を描いた手記を手に、曽根崎という男が姿を現す。
登場人物
(敬称略)
曽根崎雅人(演:藤原竜也)
日本を震撼させた連続殺人事件が起きた22年後、事件の真犯人として、手記を片手に名乗りを上げた。ミステリアスな美貌を持つ男。
牧村航(演:伊藤英明)
件の連続殺人事件が起きた際、逮捕寸前まで犯人を追い詰めたものの、取り逃がしてしまう。
岸美晴(演:夏帆)
被害者遺族で、犯人として名乗りを上げた曽根崎を憎く思う。
牧村里香(演:石橋杏奈)
牧村刑事の妹。
小野寺拓巳(演:野村周平)
里香の恋人。
橘大祐(演:岩城滉一)
橘組の組長だが、22年前に大切な人を目の前で殺された。犯人に恨みを持っている。
戸田丈(演:早乙女太一)
橘組の構成員。
山縣明寛(演:岩松了)
病院の院長で、被害者遺族のひとり。
仙堂俊雄(演:仲村トオル)
人気報道番組のキャスターで、曽根崎が告白本を出版したことにより、22年前の事件の真相を追及していく。
映画「22年目の告白 ―私が殺人犯です―」の感想
映画「22年目の告白 ―私が殺人犯です―」は実話を元にしたという噂があるようですが、正解であり正解でないというのが実のところ。こちらは韓国映画「殺人の告白」を元に制作されたもので、そちらが韓国で実際に起きた事件に影響を受けてつくられたとされています。
ミステリアスな美貌の男に熱狂的なファン
普通に考えたら「連続殺人事件を起こした犯人です」なんて登場した人は、非難されることはあっても、賞賛されることはないと思うんですけれども、この作品の中には犯人を名乗る曽根崎を神格化し、熱狂的に支持してしまう人がそれなりにいるわけで。
現実世界にも、確かにそんなことが起きたことはありますが、ただ、それって犯人側に(一般人には共感できなくとも)犯人なりの正義があったりするものだと思うんですよね。例えば、「あの男は複数人を手に掛けたけど、それも被害者を救うためだった。もともと被害者は常々死にたいと考えているような人だった」というような。
あるいは、猟奇的な殺人事件のニュースを見て、自己顕示欲を満たしたくてたまらない人たちが刺激されてしまうこともあるでしょう。
個人的には、殺人犯を神様のように崇めてしまうパターンというのは、基本的にこのどちらかだと思っていて。
それで言うと、曽根崎の騒がれ方はどちらにも当てはまらないなと感じました。
小説版のほうにもあるように、曽根崎は「殺人犯とは思えないような美しさ」を携えた青年だということなので、曽根崎の場合は、単にその美貌とミステリアスさに魅了された人たちが持て囃していたのかな。あとは、「こんなに美しい人が殺人!?」みたいな。悪い方向へのギャップ萌えですね。
外見が美しいのはさることながら、殺人を犯した人間であるというのに、テレビの前に出てきた曽根崎は情緒が安定しているように見えて、そのチグハグさがなお猟奇的な雰囲気を醸し出す原因になっているのかもしれませんね。
エンターテインメントになってしまう殺人事件
こうして見てみると、すごいですよね。
人々の野次馬根性。
22年前とはいえ、人が亡くなっているわけです。それもかなり残忍な手口で。その被害者の遺族たちは当然まだ生きていて、目の前で大切な人を殺されたというトラウマと憤りを抱えながら過ごしている。
そんなことは、誰に言われるまでもなく察せられるはずなんですよね。
なのに、マスコミが騒ぎ立て、SNSで注目が集まっているからと「じゃ、私も」と曽根崎をアイドル化(あるいは神格化)してはしゃぐ。その様子は、冷静になって見てみれば一言「異様」です。
まさに他人の不幸は蜜の味といったところでしょうか。
そうして野次馬根性丸出しで騒ぐ人たちを見て批判する人たちだって、実は、批判という名目で自己顕示欲を満たしたいだけだった……みたいなこと、現実にも結構ありますしね。
現実と混同してしまいそうになるリアリティー
作中には、
- 阪神淡路大震災(1995年1月17日)
- 殺人事件など凶悪犯罪の公訴時効の廃止(2010年4月27日)
と、現実世界と同様の出来事が登場します。
これが内容をさらにリアルにさせている。
こういう設定や演出があると、より話の中にのめり込めてよいですね。このあたり、フィクションとノンフィクションの使い分けが非常にうまいなと感じました。
グロいわけではないのに伝わる猟奇さ
残忍な手口で行われた殺人事件というと、つい「グロいのではないか」と想像してしまいがちですが、実は目を背けたくなるほどのグロいシーンはありません。
それなのに、ひしひしと伝わる猟奇的な雰囲気。
これに関しては、脚本家の方や演出家の方、監督にあっぱれ! と言うほかありませんね。あとは、もちろん、俳優さんたちの演技が素晴らしかったというのもあるのでしょう。
誰もが騙されるどんでん返し
正直、これは初見だからこそ楽しめる作品です。
中盤から終盤にかけて、そのからくりがどんどん露わになっていく(伏線回収とも言う)んですが、「えっ、あれってそういうことだったの!?」「あの人があそこにいたのはそういうこと!?」というように、驚きの連続です。
すべての国民が、この男に狂わされる。
本作のポスターに書かれたキャッチコピーですが、まさにその通りで、どんでん返しまではほとんどの初見さんが曽根崎の目論見通りに考えることでしょう。
テンポ良く進行していくので、非常に気持ちの良いどんでん返しとなっていました。
ラストの展開も陳腐な感じは一切なく、良かった。
小説版を読んでラストを知ってから映画版を見るか、映画版を見て、その補足として小説版に手を出すかはあなた次第です。なお、小説版には映画版では明確になっていなかった設定なども載っています。
▼小説版もおすすめ▼
絶賛!ほとんど動きのないサスペンス
テレビで放送されている2時間ドラマなどもそうですが、サスペンスものといえば、普通は事件を解決するために犯人を追いかけたり、謎解きをするためにあちこち移動したりするのが一般的ですよね。
でも、本作では初手からすでに「自分こそが犯人です」と名乗る人物が登場しているわけですから、そのようなありきたりなストーリーに乗っかるわけにはいきません。
つまり、曽根崎をはじめとする登場人物たちに物理的な動きはほとんどない。
完全に頭脳戦ということですね。
韓国の原作映画「殺人の告白」はアクションサスペンスらしいので、もっと派手な立ち回りがあるのでしょうが……日本を舞台にするなら、これが正解だったと思います。個人的には、邦画とアクションの相性は悪いと思っているので(歴史関連作品の殺陣や漫画・アニメの実写版を除いて)。
伏線の回収が綺麗に収まったのは見事でした。
やや物足りない謎解き
本作がサスペンスである以上、少なからず謎解き要素があるわけですが。
このあたり、少し物足りなく感じてしまったのが正直なところです。
曽根崎は最初から「自分が犯人です」と出てきますが、視聴者はそんな単純な物語であるはずがないと考えるので、自然と「犯人は本当に曽根崎なのか? 曽根崎だったとしたら、本当の動機はなんだったのか? もし真犯人が他にいるのであれば、誰なのか? そして、なぜ曽根崎は自分を犯人だと言ったのか?」と、いくつかの疑問を思い浮かべることになります。
無論、終盤に向かうにしたがって、その疑問もひとつずつ解消されていくのですが……主要登場人物が「謎が解けた!」となるまでの段階を物語中では一切踏むことなく、突然答えを突き付けられる形になるので、ほんの一瞬、置いてけぼりを食らった感覚に陥りました。
そこだけがちょっと物足りない(ボリューム)が足りないと感じた部分ですね。
けれど、あまり長引かせるときっとかなり説明的な、あるいは蛇足的な描写になってしまうだろうし。難しいところです。
映画「22年目の告白 ―私が殺人犯です―」が好きな人におすすめの作品
映画「22年目の告白 ―私が殺人犯です―」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ノイズ(2022)
- 見えない目撃者(2019)
- 三度目の殺人(2017)
- 渇き。(2014)
まとめ:藤原竜也さんの良いところが出ている
この話に藤原竜也さんを起用したのは見事としか言いようがありませんね。
小説版に書かれた「殺人犯とは思えない美しさ」というのもクリアしているし、演技にも安定感があって「この人、本当に犯罪者なの?」と思えるようなミステリアス感を表現できているし。
他の俳優さんでは、なかなかこうはいかなかったのではないかと思います。