たとえば暑い日にあえて辛い鍋が食べたくなるように、気持ちが落ち込んだときにあえてものすごく暗い曲を聴いたり救いのない映画を観たりしたくなることはありませんか?
そんなときにおすすめなのが湊かなえさんの小説を原作にしたサスペンス映画「告白」です。
小説とは若干内容が異なる部分もありますので、すでに小説を読んだことがあるという人でも十分楽しめますよ!
あらすじ
ある中学校、雑然とした教室。終業式後のホームルーム。1年B組、37人の13歳。
教壇に立つ担任・森口悠子が語り出す。
「私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」一瞬、静寂に包まれる教室。
物語は【告白】から始まる。(引用元:TOHOシネマズ「告白」)
こんな人におすすめ!
- あえて思いきりどん底まで落ち込みたい人
- ミステリアスな人を美しいと思う人
- 学生ならではの“無邪気さ”に覚えがある人
- 先生も人間だ! という人
スタッフ・キャスト
- 監督:中島哲也
- キャスト:松たか子―森口悠子役
岡田将生―寺田良輝(ウェルテル)役
藤原薫―下村直樹役
木村佳乃―直樹の母役
西井幸人―渡辺修哉役
橋本愛―北原美月役
こうして見てみると、松たか子さんはじめ、岡田将生さんや木村佳乃さん、いまやいろんなところに引っ張りだこの橋本愛さんなど、キャスト陣は実に豪華ですね!
【ネタバレなし】「告白」おすすめポイント
筆者は湊かなえさんらしいどこか仄暗く、しかしながら美しさをはらんだ原作の小説も読んだことがあるのですが、映画は映画で、また違った魅力があります。なんといっても、主演を務めた松たか子さんのミステリアスな美貌といったら、たまりません。
【1】独白シーンの迫力がすごい
「私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
あらすじにこうあるように、物語は退職を控えたひとりの教師(松たか子)の告白(独白)からはじまります。
声を荒げるでもなく、静かに淡々と、機械的な口調で言葉を零すのみの松たか子。まるで娘の死を感じさせる表情ではありません。
それなのにそこはかとなくあふれ出るミステリアス感と、凄み。
ここで一気に映画の世界に引き込まれます。
【2】人間の醜い感情に共感の嵐
人間だれしも、醜い感情のひとつやふたつ持っているもの。
「ちょっとだけ」「やってみたい」「興味があったから」
そんなところからはじまる、本当の狂気。ひとりの好奇心が他人を壊し、ひとり、またひとりと孤独に苛まれていく様子は正直、見ていられないほどです。
でも、それが人間というもの。
いくらポジティブ思考にしようとしたところで、汚い感情が完全に消えることはありません。妬み、嫉妬、その他の負の感情。それらの感情はポジティブ思考ですべて“なかったこと”にできるものなのでしょうか?
醜い部分があってこその人間。作中でも描かれる醜い人間模様に、共感できるところも多いはずです。
【3】母>人間>教師
教師であることよりも、人間であることよりも、母親であることを選んだ森口悠子(松たか子)。娘の死への一端は自分にあることを知りながらも、恨みや憎しみが消えることはありません。復讐を誓った母親の決意は、それほどまでに強いのです。
これは間違いなく問題作のひとつ。正直に言うと、後味はスッキリしないどころかかなり悪く、視聴後には気分が悪くなる場合もあります。そこだけは要注意!
これを母親の愛情と言えばいいのか、それとも娘の死に対する執着と言えばいいのか、それともそのどちらもか。単なる愛情だとしたらあまりに醜悪で、行き過ぎた感情のように感じられます。
生徒を苦しめてでも、その家族を失意のどん底に突き落としてでも、森口が成し遂げたかったものとはいったいなんだったのでしょうか?
【4】人を追い詰める“自覚のない悪”
この世で一番厄介で性質が悪いものはなんなのか。
そのうちのひとつに、“自覚のない悪”が挙げられるのではないでしょうか?
“自覚のない悪”とは一体なにか。
それは―――
たまにいませんでしたか? あるいは、今でもいませんか? 自分の正義に熱いだけでなく、その正義感を他人に押し付けてくる一見無邪気な人が。
自分の思った“これ”が正義と信じたら疑わない。それこそが本人にとっての正義であり、そうなるともう他人の顔色や拒絶の言葉さえ受け入れることができない人が少なからずいるんですね。
自覚がないからこそ人の言葉に耳が貸せない。自覚がないからこそ妙にポジティブ。自覚がないからこそ、ポジティブが空回りしていても気付かない。自覚がないからこそ被害者を生み出していく。
きっと金八先生ばりに熱意を持って教師を目指したであろうウェルテル(岡田将生)が、まさにそれ。熱さが故に空回りするその姿は、痛々しいと言うほかありません。
【5】最大の謎を残して終幕
淡々と語られていく娘の死はリアルで、残酷。
これが退職する森口最後の挨拶です。
それでも時折見せる母親の顔や涙がまた美しく「自分は母親なのか? それとも教師として終わりたいのか? いや、母親であるべきだ」という葛藤も垣間見えます。ウェルテルだけでなく、森口もまた熱意を持って生徒を指導する良き先生であった“はず”だからこそ、復讐心がなお燃え上がったに違いありません。
そんな森口が最後に投下していく謎は、読者になんとも言えない気味の悪い後ろ暗さを残していきます。
そのまま映画はエンドロール。視聴者は「えっ、今のどういう意味だったの?」と突然の置いてけぼり感。それについての説明は一切なく、視聴者側が考えるしかありません。
インターネット上でもいろいろな憶測が飛び交っていますので、ネットサーフィンをしてさまざまな考えに触れるのも楽しいかもしれませんね!
類似ドラマもおすすめ
湊かなえさんの作品のなかでもとりわけ「告白」のようにミステリアスかつ、不安感が煽られるジャンルが好きな人は、連続ドラマになった「贖罪(しょくざい)」もおすすめです。
全5話なので、気軽に観られるのも魅力のひとつ。
また、同じテーマでありながら一話完結型で、それぞれの主人公が「自分の思う贖罪」をしていくのです。「贖罪」とは、犠牲をささげて罪をつぐなうことです。
誰かのなんということのない憂さ晴らしや、さり気ない一言が、またほかの誰かの人生をスッポリ呑み込んでしまうこともある。そんなお話。
後味の悪さが醍醐味
犯人はわかっているのに、復讐心だけは燃え上がるのに、ミステリアスな雰囲気だけを残してひとり舞台を下りていく森口の美しさと儚さにはなんともいえない感情を覚えます。
ただのサスペンスとはまったく違う。
最初から犯人はわかっているのです。復讐したい相手が目の前にいるのです。そんななか、教壇に凛と立つ森口の美しさにはもはや迫力さえ感じます。
もう一度言います。
後味はめちゃくちゃ悪い。
原作とも若干違う内容で賛否両論の本作ですが、そんな後味の悪ささえ楽しめる人にはおすすめですので、ぜひ一度観てみてくださいね!