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映画「冷たい熱帯魚」(2010)|あらすじ・感想

サスペンス


冷たい熱帯魚 [DVD]

鑑賞後にスカッとした気分を味わえる映画もいいですが、たまにはなんとも言えない後味だけを残していく作品に挑戦してみてはいかがでしょうか?

その代表作とも言えるのが2010年に公開された「冷たい熱帯魚」です。

平凡ななんの変哲もないひとりの男性が、意図しないまま狂気の渦に呑み込まれていく。それは家族をも巻き込み、いつしかぎくしゃくしていた「平凡な生活」さえ遠のいているサスペンス物語。観たあとにはなんとも言えない切なさと、気味の悪さと、けれどももしかしたらちょっとした愛情を感じるかもしれない、名作となっています。

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あらすじ

雨の中を一台の車が走っていた。車内には小さな熱帯魚屋を経営する社本信行とその妻、妙子の2人。娘の美津子が万引きしたため店に呼び出されたのだ。その場を救ってくれたのは店長と知り合いの男、村田幸雄。村田は同業の巨大熱帯魚屋、アマゾンゴールドのオーナーだった。帰り道、村田の店へと寄る3人。村田の提案により、美津子はアマゾンゴールドで働くことになった。数日後、村田に“儲け話”をもちかけられ、呼び出された社本。そこには顧問弁護士と、投資者のひとりがいた。門外漢の高級魚のビジネス話に、大金融資を逡巡していた吉田だったが、堅実そうな社本の存在も手伝い契約書に押印。その直後…

(引用元:TOHOシネマズ「冷たい熱帯魚」

こんな人におすすめ!

  • 純文学が好きな人
  • 映画鑑賞はひとりでするという人
  • おどろおどろしい雰囲気が好きな人
  • 家族のリアルが見たい人
  • 「我こそは18歳以上ぞ!」という人

スタッフ・キャスト

  • 監督:園子温
  • キャスト:吹越満―社本信行役
    でんでん―村田幸雄役
    黒沢あすか―村田愛子役
    神楽坂恵―社本妙子役
    梶原ひかり―社本美津子役

主役の社本信行役を演じた俳優・吹越満さんはどちらかといえば名脇役というイメージが強いかもしれませんが、本作品での存在感は計り知れません。

【ネタバレなし】「冷たい熱帯魚」おすすめポイント

「R18+」が設定されるほどの衝撃作、「冷たい熱帯魚」。「どういう意味のR18なの?」と疑問に思う人も多いかもしれませんが、おそらく皆さんが想像するその“どれも”が当てはまるR18作品となっています。ショッキングなシーンもありますので、子どもがいる前では観ないよう要注意です。

【1】舞台はどこにでもありそうな熱帯魚店

まず注目したいのが、本作品はなんの変哲もない日常からはじまるということ。主人公は小さいながらも熱帯魚店を経営する父親、そして料理はすべて冷凍食品で済ませる母親、反抗期真っ只中の娘の3人家族。母親が家族に興味を示さずとも、娘が夕食中に彼氏のもとへ出かけていこうとも、何も言わない冴えない父親はある種「普通」と言えます。

そんななか、あらすじにもあるとおり、娘の美津子が万引きしたとの報せを受け、社本夫婦は呼び出されます。

そこで助け舟を出してくれたのが、本作品の最凶にして最悪とも言える村本です。

そんな声が聞こえてきそうですが、人は見かけや第一印象によらないものです。その後、大きな熱帯魚店を経営しているという村本に近付いていくにつれ、なんの変哲もない、かと思えば特にしあわせとも言い難い普通の生活が壊されていくことになるのです。

【2】平凡な人間が壊れていく様がリアル

主人公の社本信行はいわゆる普通の人間。なんの取り得もなければ、なんの趣味もない。熱帯魚店こそ経営しているものの、そう儲かっているわけでもなく、家族関係も大してうまくいっていない。

けれど、うまくいくように努力もしていない。

一見やる気がないどうしようもない男のように思えますが、世の中にはこんな人もたくさんいるのではないでしょうか。

そんな自ら行動を起こさない平凡な人間が、たったひとりの人間の登場によって狂気の沙汰に染まっていく様子はまさにサイコパス! 作中では終始不気味な雰囲気が漂っています。

当たり前の日常を垣間見ているに過ぎないのに、なぜか寒気がするような、そんな感じ。

【3】実話が基になっている

実はこの「冷たい熱帯魚」、実話が基になっているのです。実話は熱帯魚店ではありませんが、事件について詳しく知りたい人はご自身で調べてみてくださいね。(※注:ここでは深く触れません)

この実際の事件もまた、狂気の沙汰としか言いようがありませんが、同時期に起きたさらに悲惨な出来事のせいであまり人の記憶に残ることはありませんでした。

基になった事件に関しては、書籍も出版されています。

【4】キャストの迫真の演技

もうひとつ、注目してほしいのは豪華キャストの真に迫る演技力。

特に村本を演じるでんでんさんのサイコパスっぷりは、観ているだけでも背筋を冷たいものが駆け上ります。本物のとはきっとこういうこと。

悪を悪とも思わず、良心をどこかに置き忘れてしまったかのような振る舞いをしているはずなのに、気付けば巧妙なやり口でそうしなければならない状況に追いやられているのです。

また、善人面をして「あくまでも自分は巻き込まれているだけだ」「自分のほうこそ被害者だ」と自分自身すら騙しつつ、同様の行為を働く主人公も一種の悪と言えるでしょう。

子どもをつくっておきながら、家庭を顧みない妻も悪といえば悪。衣食住を提供してもらうことを当たり前とし、両親を馬鹿にした態度ばかり取る娘も悪。

考えようによっては、本作品で登場するメインキャラクターは全員悪と言えなくもないのです。

【5】男女の役割が明確(時代錯誤)

例えば家庭内での男性(主人公)が弱い立場であったり。例えば妻の妙子や村本の愛人、愛子がやたらボディーラインを強調する服装をしていたり。かと思えば、外に出た男性(主人公)が狂っていくにしたがって独裁的になっていく様が妙にリアルだったり。

今となっては時代錯誤と言えるかもしれませんが、男女の役割がかなり明確です。

男は強く、女は弱く虐げられ、そしてさらに強い男を追い求める。

男女の本能がせめぎ合う、強い社会的なメッセージを持っているのが本作品の特徴のひとつです。

【6】結末はあなた次第

映画作品や書籍など、物語性があるものはなんでもそうですが、受け取り側として一番気になるのはラストシーンです。

さて、本作品がハッピーエンドかバッドエンドかというと。

これをハッピーと見るかバッドと見るかは、鑑賞後のあなた次第です。どんでん返しと言えばどんでん返し、けれども人間が壊れゆく様を目の当たりにしてきたことを考えると、当たり前と言えば当たり前の結末。

誰が観るにしても、決して良い気持ちにはならない作品に違いありません。でも、それがある意味この作品最大の魅力なのです。

人によって感じ方が変わる作品

できればひとりきりで観たい感じの作品ではありますが、鑑賞後には誰かと感想を言い合いたくなるのが不思議。決して後味が良いわけでもないし、むしろ理解しがたい行動や思考が多すぎてきっと苦手な人も多いであろう本作品ですが、どこか芸術的で人間の真理を突いた描写が後を引きます。

結局、彼らは一体なんだったのでしょうか?

誰が悪くて、誰が加害者で、誰が被害者で、誰が――と考えだすと止まらない、まさに近年稀に見る名作です。

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