ウインド・リバー(字幕版)
胸糞映画と噂の「ウインド・リバー」。
初めて観て「これは確かに胸糞だ!」と思いつつ、かなり良作な胸糞映画でした。
とはいえ、やはり胸糞であることには変わりないので、評価は賛否両論さまざまだと思います。結末が決してすっきりするものでないのも、評価が割れる一因でしょう。
本記事は2023年12月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | ウインド・リバー |
原題 | Wind River |
ジャンル | サスペンス |
監督 | テイラー・シェリダン |
上映時間 | 107分 |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2017年 |
レイティング | G |
おすすめ度 | ★★★★★ |
あらすじ
アメリカのワイオミング州に位置するインディアン居留地、ウインド・リバー。ある日、雪に覆われた山岳地帯で少女の遺体が見つかった。それは、野生動物管理官であるコリー・ランバートの亡き娘のかつての親友だった。過去に娘を救えなかったという後悔を今に重ね、コリーはFBIの女性捜査官と共に、犯人の痕跡を追跡する。
登場人物
(敬称略)
コリー・ランバート(演:ジェレミー・レナー)
野生動物管理官で、ハンターとしても活躍する男性。数年前に自分の目の届かないところで、娘を亡くしている。その後悔から、FBIに協力し、殺人事件の犯人を追いかけることに。
ジェーン・バナー(演:エリザベス・オルセン)
殺人事件の通報を受け、ウインド・リバーをひとりで訪れたFBIの新米女性捜査官。ウインド・リバーの寒さによる過酷さを甘く見ていた。
ベン(演:グラハム・グリーン)
現地の警察長。積極的に捜査に協力する。
ナタリー(演:ケルシー・アスビル)
コリーの娘の親友だった少女。事件の被害者。
マット・レイバーン(演:ジョン・バーンサル)
ナタリーの恋人。
映画「ウインド・リバー」の感想
映画「ウインド・リバー」の感想です。とにかく胸糞。基本的に救いはない。というか、救いを求めるような作品ではない。社会派作品なので、風刺的リアリティーがすごかったです。
インディアン居留地、ウインド・リバー
本作の舞台となっている「ウインド・リバー」はインディアン居留地。
実は、ウインド・リバーは、実際にアメリカにある土地です。つまり、実在する地域を舞台にしているわけですね。
インディアン居留地(しばしば『保留地』とも呼ばれる)は、ウインド・リバー以外にも「ナバホ」や「トホノ・オーダム」などの場所にもあります。
失業率が高かったり、健康状況が悪かったり……アメリカにおける社会問題になっているようですね。
テイラー・シェリダン監督も、よくそんな深刻な問題をぶっこんだなと。
ハイリスク・ハイリターンというか、いかにも賛否両論生まれそうじゃないですか? 特に、インディアンの居留地なんて、アメリカの歴史にも深く関わってくるわけですし。
それを見事恐れずに描き切ったなという感じがしました。
すっきり解決しない胸糞
本作を鑑賞する前から、SNSなどで「胸糞だった」という意見をよく見かけていたんですが……。
確かに胸糞。
でも、私は初めて知りました。
胸糞は胸糞でも、世の中には質の良い胸糞があるんだと。
この監督は、胸糞の扱い方を心得ていましたね。
とはいえ、物語の中では娘が亡くなったとされているコリー。しかも、どのようにして亡くなったかは親であるコリーとその妻もわからないという。
一般的なサスペンス映画のセオリーとしては、娘の親友が亡くなった件を追跡していくうち、実は娘の事件ともつながっていて……という流れになることが多いと思うんですが、この作品にはまったくそういった慈悲(?)のようなものがない。
つまり、娘の事件はわからないまま。
唯一、娘の事件の存在意義があるとすれば、当時の後悔をずっと引きずっていたコリーがそのおかげでちょっぴりやる気を出すことぐらいですかね。
自身の娘がどのような最期をたどったかはわからずとも、いや、わからないからこそ。
その思いを昇華させようとしたんでしょう。この作品は、コリーが過去を乗り越えるための物語でもあります。
当事者がいないからこその淡々さ
噂にある「胸糞」に拍車をかけているのは、凄惨な事件だったにもかかわらず、捜査自体は淡々と進むことです。
娘の親友だから、娘の事件とどこか重なる部分があるから、あるいは娘の親友の父親に感情移入したから……いろんな想いがあって捜査に協力することになったコリーですが、コリー自身は当事者や関係者ではありません。
無論、FBI捜査官のジェーンも。
なので、ひとりの少女が酷い目に遭ったうえに命を奪われたとあっても、結構みんな冷静です。
この淡々とした感じがより一層事件の胸糞さを掻き立てているというか。「ネイティブアメリカンが関わる事件における、通常の捜査はこんなものだぞ」というリアリティーが感じられるからですかね。
めちゃくちゃ西部劇な展開
現代的な作品であるはずなのに、めっちゃ西部劇。
途中、事件に関係している可能性がある作業員たちのトレーラーハウスを訪ねるとき、ピリッとした雰囲気になって、それにビビった捜査員(というか、警察権はないものの念のためにベンが連れてきた警察官のひとり)が銃を構え、全員で威嚇し合う状況……。
このシーンを見ながら、思わず「日本のサスペンスものならありえない超展開や……」と。
そのほかにも、突然銃撃戦が始まったりするので、単なるサスペンスというより現代版の西部劇に近いようにも感じました。
コリーが優秀なハンターであるという設定も、ここに活かされていましたね。
被害者遺族の終わらない苦しみ
娘の親友(ナタリー)の事件は解決する……というか、コリーたちが尽力した甲斐あって、犯人は見つかるんですが、だから終わりというわけではない。
当然ですよね。
映画だとよく「残された家族を大事にしていこう……」となることが多いような気がしますが、現実だとそうもいかない。特に今回のような凄惨な事件だと、すぐに立ち直るとか無理寄りの無理。いや、完全に無理。
事件が解決しようが、犯人が捕まろうが、失われた人が戻ってくることはありません。
胸糞と言われるだけあって、すっきり終わらせないあたりが、この被害者遺族の無念や一生続く悲しみのようなものを表しているのかなと感じました。
社会問題に切り込む強烈な風刺
最後の最後にアメリカの中で社会問題になっている事実がテロップになって表示されるのですが、うん、これはかなり強烈。
コリー含め、ウインド・リバーで暮らす人々は、おそらくFBIのような国家権力やよそ者のことをほとんど信用していなくて、だからこそコリーは自分たちの力で決着をつけようとする。
最初にやってきたのが新米FBI捜査官たったひとりというあたり、普通だったら「自分たちのこと舐めてんのか? 人ひとり亡くなっているんだぞ!」と憤慨しそうなものですが、「まあ、納得はいかないけどそんなものだよな」みたいなテンションで進んでいくのが、彼らの国に対する不信感を表しているようで、とてもリアルでした。最初から頼ろうとは思っていない……というような。
嫌でも社会的なメッセージ性を感じさせられる内容になっていました。拍手。
良い意味で緊張感とリアリティーを持たせてくれる俳優さんたち、そして製作陣の方々。お見事でした。
映画「ウインド・リバー」が好きな人におすすめの作品
映画「ウインド・リバー」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ボーダーライン(2015)
- モンタナの目撃者(2021)
- サスペクト 薄氷の狂気(2018)
- ミッシング・レポート(2018)
まとめ:犯人に重きを置かない珍しいサスペンス
サスペンス映画といえば、誰が犯人であるかに重きを置くのが一般的だと思うんですが、こと「ウインド・リバー」に限っては犯人の正体はおまけ程度。
被害者遺族の苦しみや無念、インディアン居留地に関する社会問題、そしてそれを取り巻く環境などを皮肉的に表した作品でした。
俳優さんたちの演技もとても良かったです。