フレドリック・バックマンの同名ベストセラー小説を原作にした「幸せなひとりぼっち」。世界的ヒットを記録し、第89回アカデミー賞では外国語映画賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされました。
ホラーやアクションのようにハラハラする展開はありませんが、なんとなくホッとするハートウォーミングな作品です。
作品情報
【作品名】幸せなひとりぼっち(En man son heter Ove/A man called Ove)
【上映時間】116分
【ジャンル】ヒューマン、ドラマ
【製作国】スウェーデン
【製作年】2015年
あらすじ
愛する妻を亡くしたオーヴェは、絶望の先に自死することを選ぶ。もういない優しい妻、何もない自分自身、馬の合わない隣人たち。――希望はどこにもなかった。ないはずだった。
向かいの家に、パルヴァネ一家が引っ越してくるまでは。
融通のきかない老人オーヴェの罵声をものともしないパルヴァネ一家が次から次へとトラブルを持ち込んでくることで、頑なになっていた心が次第に溶けはじめる。
キャスト
ロルフ・ラッスゴードやバハー・パールなど、実力派の俳優が出演している本作。ちょっぴり暗いながらも時折『ジョーク(?)』がたまりません。
ロルフ・ラッスゴード(オーヴェ役)
偏屈な老人ロルフを演じたのは、スウェーデン出身の名優ロルフ・ラッスゴード。スウェーデンの最南部のスコーネ地方にある都市マルメで演劇学校に通った彼は、近年では映画「ソニア ナチスの女スパイ」(2019)や「ブリット=マリーの幸せなひとりだち」(2019)などの作品に出演しています。
バハー・パール(パーヴァネ役)
子どものころにスウェーデンに移住したという、イラン出身の女優バハー・パールが演じるのは、押しが強いトラブルメーカーでありながらも、なんだかんだオーヴェに寄り添うパルヴァネ。映画「オペレーション:ラグナロク」(2018)に出演しているほか、監督しても活躍中です。
フィリップ・バーグ(オーヴェ青年期役)
若かりしころのオーヴェを演じるのは、ストックホルム出身の俳優フィリップ・バーグ。「幸せなひとりぼっち」のほか、映画「Evil」(2003)や「The Ketchup Effect」(2004)などにも出演しています。
イーダ・イングヴォル(ソーニャ役)
オーヴェの回想で奥様ソーニャを演じるのは、イーダ・イングヴォル。ミステリな雰囲気でため息が出るほど美しかったですよね! 「幸せなひとりぼっち」のほか、映画「Up in the Sky」(2016)や「For Better or Worse」(2014)などにも出演しています。
「幸せなひとりぼっち」の注目ポイント
近年、世界から注目を浴びているスウェーデン映画。ゴールデンビートル賞で主演男優賞と観客賞を受賞した「幸せなひとりぼっち」は、北欧映画に馴染みがない人でも観やすい作品です。
北欧映画らしい色づかい
北欧映画といえばアイコニックでキュートな色づかいのものが多い印象ですが、「幸せなひとりぼっち」は作品の内容上、やや暗めのタッチで描かれています。
ただし、それであっても北欧映画!
青を基調とした家の数々はなんとも可愛らしく、レトロでセンスの良い趣を忘れていません。スウェーデン映画らしい色づかいやライティングに、グッと引き込まれること間違いなし。
日本でも人気の北欧家具や雑貨も要チェックですよ!
ハリウッドでもリメイク映画化
スウェーデンで公開されて以降、爆発的人気を誇る「幸せなひとりぼっち」。
日本でも身近なご近所トラブルが描かれていたり、スウェーデンで増えてきている社会問題に触れられていたりと、注目すべき点が盛りだくさんです。
そんな「幸せなひとりぼっち」ですが、現在なんとハリウッド映画化のための準備中!
主演および製作は「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994)や「ターミナル」(2004)でお馴染みのトム・ハンクスです。
原作は2012の同名小説
原作はフレドリック・バックマンによる2012年の同名小説で、200万部を超えるベストセラーになっています。
こんなに売れた小説をもとにしていると失敗しそうなものですが、「幸せなひとりぼっち」は原作小説がありながらも見事大きな成功を果たした稀なケースと言えるでしょう。
キャラクターたちの人間性
本作の最大の魅力はなんといってもキャラクターそれぞれの持つ個性や人間性!
たとえば主人公のオーヴェは頑固で偏屈な老人ですが、それだけではなく押しに弱かったり意外と優しいところがあったり。パルヴァネは図々しいばかりの女性かと思いきや、オーヴェに寄り添えるだけの思いやりがあったり。
彼らを見ていると、「この人はこう!」と簡単に決めつけるのは良くないなというのがよくわかります。
「幸せなひとりぼっち」の感想
原作を読んだことはありませんが、まあ、良い話!
ストーリーの運びかたが実にうまいですね。
物語がはじまったばかりのオーヴェといえば、まわりにいたはずの隣人を顧みることもせず、規則やルールを盾に冷たく当たってばかり。パルヴァネ一家が引っ越してきた当初でさえ、挨拶に来たパルヴァネに対しまるで「関わるな」とでも言いたげな態度。
「ああ、いるよね、こんな偏屈なおじいさん!」と思うところではあるけれど、主人公として見たときに共感できる点はほとんどありません。
同時に、ここからいったいどんな話になるんだろう、と想像できないラストにグッと引き込まれるのを感じます。
そう、視聴者が最初に覚えるのは不快感なんです。映画というのは少なからず主人公に共感させてナンボなところがありますから、こういった作品は珍しいですよね。
ところが、話を追っていくにしたがって「オーヴェという男はどんなふうにして生きてきたのか」「家族とのつながり」「家族とそれ以外ということの認識」といった事実が明かされていきます。
偏屈すぎるあまり近隣住民にも煙たがられるオーヴェですが、その根底には父親の存在があったり、ソーニャとの運命的な出会いと記憶があったりと、その行動すべてにけっして『理由がない』わけではないんです。
自分に正直に、そして我儘に生きているように感じられるオーヴェ。
でも実は、心の内に他人には理解されづらい生きづらさを抱えている寂しい人。
オーヴェの偏屈さは何度も理不尽に見舞われてきた末に身についたものであって、わざと他人を遠ざけたいわけではなかったということですね。ソーニャのような愛ではないけれど、パルヴァネが持つ優しさや苛烈さが必要だったということでしょう。
特に印象的だったのが、終盤に救急車で運ばれるシーン。
道のど真ん中に倒れ込み、意識朦朧とする中ですら規則にのっとって救急車を通さないようにする当たり、オーヴェという男の人柄が窺えます。
優しい気持ちになれる
評価 | |||
キャスト | ★★★★☆ | 脚本 | ★★★★★ |
演出 | ★★★★☆ | 音楽 | ★★★☆☆ |
総合 | ★★★★☆ |
最初こそ抵抗を感じるオーヴェの性格も、物語が進んでいくにしたがって、まるでオーヴェの過去を追体験しているかのような感覚が味わえます。
「幸せなひとりぼっち」という一見矛盾したタイトルに納得できてしまうほど、最終的には優しい気持ちになれる作品です。
※本記事の情報は2021年4月時点のものです。