
ファーザー(字幕版)
「ファーザー」の感想です。
映画「羊たちの沈黙」(1991)で知られるアンソニー・ホプキンス主演の作品なんですが、いやあ、もう、すごかった。これしかない。自分の中にグサグサと刺さりまくりました。
本記事は2025年06月09日に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
ワンフレーズ紹介
どれほどの不安が押し寄せようとも、これが現実なのだ。
作品情報
タイトル | ファーザー |
原題 | The Father |
原作 | フロリアン・ゼレール |
ジャンル | ヒューマン、ミステリー、サスペンス |
監督 | フロリアン・ゼレール |
上映時間 | 97分 |
製作国 | イギリス、フランス |
製作年 | 2020年 |
公開年(英) | 2021年 |
レイティング | G |
個人的評価 | ★★★★★ |
あらすじ
ロンドンで一人暮らしをする81歳のアンソニー。アンソニーは認知症を患い、記憶力の低下が顕著に見られるようになってきていたが、娘のアンが手配した介護人を「腕時計を盗んだ」と言って拒否してしまう。困惑するアンは、しかし新しい恋人と過ごすため、パリに行くとアンソニーに告げる。だが、その直後、アンソニーの目の前に、アンと結婚して10年以上になるという夫が現れて――。
主な登場人物
(敬称略)
アンソニー
(演:アンソニー・ホプキンス)
ロンドンのフラットで一人暮らしをする81歳の男性。認知症を患い、記憶力が低下しつつあるものの、娘のアンが探し介護人を拒否してしまう。
アン
(演:オリヴィア・コールマン)
アンソニーの娘。認知症の父のために介護人をつけようとするも、アンソニーはそれを拒否。しばらくの間は、アンが面倒を見ることに。
映画「ファーザー」の感想
映画「ファーザー」の感想です。わかっていたことなんですが、アンソニー・ホプキンスがすごすぎました。圧倒的存在感。
アンソニー・ホプキンスが素晴らしすぎる
まず、主人公のアンソニーを演じるアンソニー・ホプキンスがとにかく素晴らしい作品ですね。もうこの一言に尽きる。
……いや、知っていたけど。知っていたけども!
改めてこの人の才能を見せつけられた。そんな感じがしました。
ちなみに、アンソニー・ホプキンスはこの作品で、第93回アカデミー賞の主演男優賞を受賞しています。映画「羊たちの沈黙」(1991)以来、2回目の受賞ですね。
不安、混乱、苦悩、戸惑い
劇中に終始漂う不安や混乱、苦悩、戸惑い。
これらは全部アンソニーが感じているものです。アンソニーを見ていると、つい彼に同調してしまいそうになる。ああ、これは苦しいなって。
かと思えば、ふとした瞬間に娘のアンの気持ちになったりもする。なぜなら、鑑賞している自分も誰かの娘であり、誰かの息子であるから。演出がリアルすぎて「私ならどうするだろう?」を自然と頭に思い浮かべてしまうんですよね。
アンが、おそらく元気だったであろう時の父と写った写真を見るシーンなんか、もうね。私たちはこの映画に出ているアンソニーしか知らないわけだけど、アンからしたら、父が元気だった時代のほうが長いはず。それが、まるで子どもみたいに手が掛かるようになっていく様を見るのは、きっと相当につらいことだったでしょう。
現実を突きつけられる
でも、これは誰にでも起こり得る現実なんですよね。だからこそつらい。
それは家族や親族などの身内かもしれないし、もしかしたら自分かもしれない。老いには勝てず、いつか誰かに面倒を見られる側になっていく。
アンソニーに起きた出来事は決して他人事ではなく、将来の自分。
この現実を忘れるなと言われているような気がしました。誰にでも訪れるからこそ、老いも死も特別なものではないと。けれど、そこに不安を感じるのはみんな一緒なんだよとも。
アンソニーの性格
まあ、言ってもアンソニーは非常に厄介なご老人でしたね。
あんなに一生懸命面倒を見ていたアンに対して「下の娘に比べて……」と貶すような言い草でしたし、じゃあ下の娘が気に入っているのかと言うと、機嫌が良いときは「会いたい」みたいなことを言っているのに、コロッと不機嫌になったときには「何もないのに笑う愚かな娘」というようなことを平気で言ったりする。
そんなちょっと困った老人。
でも、これが単純にただの性格として切り捨てられないのが、認知症の厄介なところだとも思います。ひとくちに認知症と言っても、大人しかった人が攻撃的な性格になったり、アグレッシブな性格をしていた人が大人しくなったり、タイプはいろいろみたいですよね。冒頭「介護人が腕時計を盗んだ」と訴えていますが、認知症の人が何かを「盗んだ」と言う話は結構耳にします。よく聞くのは「お金を盗んだ」とかかな。
我々にはアンソニーが(認知症を患う)以前からこんな性格だったのかはわからないけれど、「こんな嫌なことを言われてまで、我慢して面倒を見る必要はないのでは?」とも言えない。この辺、難しいところです。
誰も悪くない
ひとつだけはっきり言えるのは、本作においては誰も悪くないということ。
アンの夫は「早く施設に入れたほうが良い」と言って、アンとの間にピリッとした空気が流れていましたが、あれも夫もアンも決して悪くない。アンが、できるだけ自分の父の面倒を見たいと考えるのも当然のことだし、妻の父に嫌な態度を取られてまで、しかも父本人にとっては娘である自分の妻を貶されてまで、家に引き取りたいと思う配偶者はなかなかいないでしょう。
いたとしても、それは元気だった頃に相当仲が良かったとかでないと。
まあ、正直、一部「えっ?」っていうシーンはあったんですが、あれもアンソニーの記憶なので事実とは異なることかもしれないし。
悪人がいないからこそ、みんな頑張っていてもこの状態なんだというのがつらくもあり、切なくもあります。常に細い糸がピンと張っているような感じで、どこかでひとつバランスが崩れたら一気に全部駄目になるんだろうなと思わせる怖さがありました。
ゆっくりと受け入れるしかない
たとえアンソニーのように認知症を患わなくとも、死というのは、人間、遅かれ早かれいつかは辿る道。
その途中で、あがいてみたりもするけれど、これは本人が受け入れるしかないことなんだろうと思います。……いや、でも、人間だから仕方ないよと言われても、いざ自分の順番になったときに私はすっぱり受け入れることができるだろうか。
そんなことも考えさせられる映画でした。
映画「ファーザー」が好きな人におすすめの作品
映画「ファーザー」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- I am Sam アイ・アム・サム(2001)
- 君だってかわいくないよ(2015)
- 永遠の僕たち(2011)
まとめ:サスペンス味のあるヒューマンドラマ
ちょっぴりサスペンス味のある、ともすれば若干のホラー味さえ感じられるヒューマンドラマでした。
ストーリーや演出が素晴らしかったのはもちろんなんですが、アンソニー・ホプキンスの才能をまざまざと見せつけられた作品でもありました。
本当にすごい人なんだなって。
Rotten Tomatoes
Tomatometer 98% Popcornmeter 88%
IMDb
8.2/10
Filmarks
3.9/5.0