イヌとイタリア人、お断り!
アラン・ウゲット監督の祖父母が実際に体験したことをモチーフにした、ストップモーションアニメ作品です。
戦時中の過酷な生活や労働環境、身近な人との別離、人種差別など――いろんなものに直面し、けれども諦めず「普通の幸せ」を追い求める人たち。
すごいな、と素直に思います。
本記事は2024年09月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
ワンフレーズ紹介
失っても、前を見て歩き続ける――。
作品情報
タイトル | イヌとイタリア人、お断り! |
原題 | Interdit aux chiens et aux italiens |
ジャンル | アニメーション、ヒューマン、ファミリー |
監督 | アラン・ウゲット |
上映時間 | 70分 |
製作国 | フランス、イタリア、ベルギー、ポルトガル、スイス |
製作年 | 2022年 |
レイティング | 不明 |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
北イタリア、20世紀初頭のウゲッテーラ。そこにはウゲット一族が住んでいた。貧しい生活を送っていたウゲット一族は、より良い暮らしを求め、海外への移住を夢見ていた。一家の主ルイジ・ウゲット(監督の祖父)は、一家と共にアルプスの山々を越え、フランスで新しい生活を始めることに――。
登場人物
(敬称略)
ナレーション(声:アラン・ウゲット)
本編の進行役。
チェジーラ(声:アリアンヌ・アスカリッド)
ウゲット監督の祖母で、ルイジの妻。
ルイジ(声:ステファノ・パガニーニ)
ウゲット監督の祖父で、チェジーラの夫。
映画「イヌとイタリア人、お断り!」の感想
映画「イヌとイタリア人、お断り!」の感想です。基本はストップモーションなんですが、一部実写なところもあって、かなり面白かったです。
実体験がベース
本作は、ウゲット監督の祖父母が体験したことを基に作られたお話、ということですが。
なんでも、ウゲット監督は、本作の主人公でもあったルイジ・ウゲットには会ったことがないらしく、祖母チェジーラから聞いた話がベースになっているみたいですね。
チェジーラとの対話形式になっているのは、なるほどそのためかと。とっても良かった!
んでもって、最後の最後に「作家レヴェッリへ」と敬辞があるので、いったいどんな関わりが……と思っていたんですが、ウゲット監督曰く、
前半部分は、祖母の話だけでは分からないところもあったので、ヌート・レヴェッリがイタリア人の農夫らから聞いてまとめた著作や、集めた資料などをもとにして描いています。
(引用元:労働、戦争、移民――イタリア人家族がたどった苦難の歴史を子孫がストップモーションアニメで描く『イヌとイタリア人、お断り!』アラン・ウゲット監督インタビュー|IGN Japan)
とのこと。
ヌート・レヴェッリは作家ですが、元はロシア戦線に派遣されたイタリア軍の軍人(将校)であり、なんとか生還したあとはパルチザンの指導者となった人物。……らしい。
祖母チェジーラの語りかけ
本作が祖母チェジーラとウゲット監督(孫)の対話形式であることは、先述した通りですが、これがもうね、本当の本当に良かった!
心が温かくなるというか。
最近、特に涙もろいので、祖母と孫の交流一点だけでちょっとうるっときちゃいます。
作中に、チェジーラがウゲット監督の穴開き靴下を繕ってあげるシーンがあって、ウゲット監督が、亡くなった祖母にしてもらったことを思い出しながら作ったのかなとか、亡くなった祖母を思い出して、こんなことをしてほしかったと願いながら作ったのかなとか考えていたら、不思議と心が満たされる思いになりました。
なんて素敵なおばあちゃん。
受け継がれる「手」
本作で特徴的なのは「手」でした。
……手? って感じですが。
基本的にはストップモーションで進行する作品なんですが、要所要所で祖母チェジーラの孫(つまり監督)の「手」が実写で現れるんですよね。
ストップモーション×実写だから、まあまあ不自然さを感じてもおかしくはないはずなんだけど、これがまた意外と良かったなという感想。
本作では、この「手」というのが結構重要なポイントらしくて。
祖父から父、父から孫(監督)へと受け継いだ工作の趣味(才能)が、ここによく現れているんですね、
この(3人の)中で、祖父と孫(監督)は直接会ったことはないんだけれども、しっかり興味の傾向を引き継いでいるのが面白いところ。
私も、亡くなった祖父とは年に一度顔を合わせるかどうか程度の仲だったのに、趣味や興味がほぼほぼ被っていて(あ、映画鑑賞以外!)、母に「不思議ねぇ……」なんて言われたりします。なんなんでしょうね、こういうの。
ちなみに、この「(監督/孫の)手」が、ルイジたちを軽く手助けするシーンなんかもあって、これがいいんだ、また。
「“終わりがない”」
そして、個人的に印象に残ったセリフがこれ。
男のように働き、そして思った「“終わりがない”」
なんというか、とても重みがある。実体験ベースだから、当然ではあるんだけど。
この「終わりがない」って、かなり人を疲弊させる要素だと思うんですよね。「いつまで耐えればいいの?」というやつ。「もし、終わりがなかったら?」を想像してしまう。
「50メートル、ダッシュして!」と言われたら、まあ自分なりに全力疾走するけど、「ゴールは見えないし、どれくらい先にあるかもわからないけど、とにかく最後まで全力で走り続けて!」と言われても、絶対に無理。
他にも、
学校より畑仕事と季節労働が先
という祖母チェジーラの言葉もありました。
戦時中。そりゃあ、勉強より生活中心になるのが当たり前。当たり前なんだけど……今の価値観で考えると、どうしても「子どもにはよく寝て、よく学び、よく食べて、よく遊んでほしいなぁ」と思ってしまいますね。まだ良い時代になった。だけど、戦争をしている国は今もある。
ふとした瞬間のチェジーラの言葉に、胸がギュッと痛くなりました。
その時代、人々のこと
戦時中のことを描いた作品として、若干珍しいのではと思ったのは、戦争そのものではなく、この時代を生きた(貧しい)人たちのことをメインに描いている点ですね。
戦争映画で人が死ぬ、というのは当たり前といえば当たり前なんだけど。
でも、本作の場合、戦場を中心に描いた話ではないので、例えば仕事場で亡くなったり、怪我がもとでじわじわと亡くなったり、病気で亡くなったりする。
この時代、戦争に行かずとも、怪我や病気が原因で命を落とした人はかなり多かったのだろうなと想像します。
ブロッコリー、可愛い(生々しさの軽減)
本作は、一応実話ベースの物語ではあるんだけど、ファンタジー要素も多分に組み込まれています。
例えば、ブロッコリー(実写)が木に見立てられていたりね。あれ、めちゃくちゃ可愛かった。
かなり重たい話をストップモーションにしたり、先述したようにブロッコリーを木に見立てたり、そういうふうに現実からちょっと距離を置くことで、「戦争(またはその時代)の過酷さ」を冷静に受け止めることができる感じがしました。悪い意味での生々しさが、ある程度軽減されているという。
正直、完全実写でこの内容の映画を作ったら、コメディー風にでもしない限り、相当精神的にくると思う。
人間を作るもの
人間を作るのは国じゃない。子供時代よ
これは、本作に登場する、祖母チェジーラの言葉。
実感が伴っていて、なるほどと思わされます。
私は、海外生活が長かったので「人間を作るのは国である」というのもある種真実だとは思っています。国そのものというか、その人が生まれ育った環境とか、慣れ親しんだ文化とか、言語とか、そういうのをすべて引っくるめた「国」。いわゆる、アイデンティティーというやつ。私は日本人です! みたいな。
でも、考えてみれば、確かにその人を形作るもののほとんどって、子ども時代に培われていることが多いんだよなぁと。
特に、四方を海に囲まれた日本とは異なり、欧州のほうでは、陸続きということもあって、例えば「祖父はイタリア人だけど、祖母はオーストリア人。フランス人の母親がドイツ人の父親と結婚したので、今は家族みんなでドイツに住んでいる。私は生まれ育ちがドイツなので、ドイツ人です」みたいなのもありそうだし(当時のことはわかりませんが)、だからこそアイデンティティーはしっかり持ちつつも、「人間を作るのは国よりも子ども時代の経験である」という考えが強くなるのかもしれませんね。
もちろん、チェジーラの考えがすべてというわけではないけれど。
映画「イヌとイタリア人、お断り!」が好きな人におすすめの作品
映画「イヌとイタリア人、お断り!」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 友だちのうちはどこ?(1987)
- ベン・ハー(2016)
- ニューオーダー(2020)
- ジョジョ・ラビット(2019)
まとめ:ちょっとだけ前向きな気持ちに!
基本、戦時中の過酷な生活の話なんですが、淡々と展開していく……以上に、主人公ルイジとその妻チェジーラが常に前向きなので、観たあとはちょっとだけポジティブな気分になれます。
登場人物たちと比べるわけではなく、素直に「もう少しだけ、自分も頑張ってみよう」と思わせてくれるような、そんな内容でした。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER ―% AUDIENCE SCORE 67%
IMDb
7.3/10