
教皇選挙(字幕/吹替)
「教皇選挙」の感想です。
もうね、ずーっと観たかった作品。
でも、内容が内容なだけに、ちゃんと気分が乗ったときに観たいなあって思っていたんですよね。そしてついに! 観ることができました。
考えさせられるし、面白かった!
本記事は2025年09月16日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
次の「世界一有名な人」は――。
作品情報
タイトル | 教皇選挙 |
原題 | Conclave |
原作 | Conclave/ロバート・ハリス著 |
ジャンル | ヒューマン、サスペンス、ミステリー |
監督 | エドワード・ベルガー |
上映時間 | 120分 |
製作国 | アメリカ、イギリス |
製作年 | 2024年 |
公開年(米) | 2024年 |
レイティング | G |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
心臓発作のため、ローマ教皇が死去した――。その死を悼む間もなく、首席枢機卿のローレンスは次代の教皇を決定する「教皇選挙(コンクラーベ)」を執り仕切ることになる。有力候補は数名。渦巻く陰謀の中、教皇選挙が開催されるのだった――。
主な登場人物
(敬称略)
トマス・ローレンス
(演:レイフ・ファインズ)
首席枢機卿。「教皇選挙(コンクラーベ)」を執り仕切ることに。自身の信仰に揺らぎを感じている。
アルド・ベリーニ
(演:スタンリー・トゥッチ)
バチカン教区所属の枢機卿で、リベラル派。ローレンスの友人でもある。
ジョセフ・トランブレ
(演:ジョン・リスゴー)
カナダ・モントリオール教区所属の枢機卿で、保守派。前教皇が死去する前に会っていたという疑いがある。
ゴッフレード・テデスコ
(演:セルジオ・カステリット)
ベネチア教区に所属する枢機卿で、保守派。伝統主義者でもある。イタリア出身で、英語は理解しているものの、基本的にはイタリア語で話すことを貫く。
ジョシュア・アデイエミ
(演:ルシアン・ムサマティ)
ナイジェリア教区に所属する枢機卿。初のアフリカ系教皇の座を狙っている。
ヴィンセント・ベニテス
(演:カルロス・ディエス)
アフガニスタン・カヴール教区に所属する枢機卿で、メキシコ出身。枢機卿に着任したばかりだったため、誰にも存在を知られていなかった。
シスター・アグネス
(演:イザベラ・ロッセリーニ)
集まった枢機卿たちのための宿泊施設の運営責任者で、修道女。
映画「教皇選挙」の感想
映画「教皇選挙」の感想です。「面白くてびっくりしたー!」「最後まで気が抜けない!」みたいなお話でした。
教皇選挙=コンクラーベ
本作のタイトルにもなっている「教皇選挙」。
もうね、まったく知識がない状態から入ったんですが、これを「Conclave(コンクラーベ)」と言うらしい。
a meeting of cardinals (= Catholic priests of high rank) at which a pope is elected:
ということで(Cardinal=枢機卿)。
「Conclave」は「Cum(共に)」+「Clavis(鍵)」というラテン語が由来となっているようです。「鍵と共に」という意味ですね。
このあたりの成り立ちや歴史を調べてみると、結構面白かったです。記事などをザッと読んだだけですが。
公式サイトをチェック!
また、本作を鑑賞する前にしておいて良かったと思ったことがありまして。
それは、公式サイトをチェックしておいたということ。これね、本当に良かった。映画の公式サイトっていつかなくなるものなので、本作の公式もいつまで運営されているかわからないんですけれども。
ここに、ネタバレなしの相関図や用語解説が掲載されていて、非常にわかりやすかったです。
特に後者。個人的に海外暮らしが長かったこともあって、キリスト教徒の友人はまあまあいるんですが、でもこういう直接的な宗教のお話だといまいちピンと来ない感じもして。そもそも詳しくもないですし。「ローマ教皇を決めるお話だからカトリックだな」「カトリックとプロテスタントの違いってなんだっけ?」「教会の見た目が違うということぐらいしかわからない……」「偶像崇拝するか否かとかもあった気がする」という程度の知識しかなく。
まず、馴染みがないので「枢機卿」「教皇」と言われても「???」状態でしたね。いや、「ローマ教皇」がカトリックのトップだということはわかるんですけど。「枢機卿?」みたいな。
ちなみに、カトリックでは「神父」、プロテスタントでは「牧師」と言うらしい。英語で「神父(牧師)っぽい人」のことを「priest」「pastor」って2通りの呼び方があるなあ、と気がついていたくせに、使う機会なんて滅多にないからと(誰かとの会話の中で聞くだけなら「ああ、あの立場の人ね」と理解はできていたし)その違和感を調べもせずにいて申し訳ない気持ち。ちなみに「priest」が「神父」で「pastor」が「牧師」でした。
この「教皇? 枢機卿?」という(おそらく)かなり初歩的な疑問から始まる私たちのために、公式サイトは「教皇とは」「枢機卿とは」みたいな用語解説を載せてくれていました。この作品自体は「それを知っているのなんて当たり前体操すぎる(笑)」みたいなテンションで始まるので。
もちろん、観ていくうちに「教皇はトップで、枢機卿はきっとこんな立場の人なんだろうな」という想像はできるんですが、用語をチェックしておいたほうがすんなり頭に入ってくるというのはありましたね。ありがたや。
レイフ・ファインズの存在感
そして、まあ。
主人公のローレンス枢機卿を演じたレイフ・ファインズの存在感ったらもう! っていうか、「『ハリー・ポッター』の『名前を言ってはいけないあの人』役のお方ではないですかー!」って(たぶん「炎のゴブレット」以降)。あとはウェス・アンダーソン監督による「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」(2023)にも出ていましたね、そういえば。
にしても、本作はレイフ・ファインズを主演に据えたからこそのあの仕上がりだったと言っても過言ではないような気がしますね。
「コンクラーベ」を執り仕切ることになったローレンス氏は、板挟みが非常にしんどそうでした。ストレスで胃潰瘍になりそう。
枢機卿たちの人間味
個人的に、常々疑問に思ってきたことがあって、それは「どの宗教かということにかかわらず、熱心な信者はその信仰心が揺らぐことはまったくないのだろうか」ということ。キリスト教は一神教だけれども、「神はこんなことを言っているけれど、本当にそうだろうか」と悩むこととかないのかなって。
でも、本作では、首席枢機卿でもある主人公のローレンス自身が信仰心に悩みを抱えているという役柄でした。「カトリックの中でも教皇に次ぐ高い地位を持つ枢機卿でも時にこうなるんだ!」とちょっとびっくり。
他の枢機卿たちも、宗教の人たちだから清廉潔白ということはなく、「誰が教皇になるんだ」ということで常にどこかで揉めに揉めている(笑)。そこには当然嫌な雰囲気の人がいたりもするんだけど、みんな人間味があって良かったです。
確信は寛容(団結)の敵
で、そうして自身の信仰心に悩みを抱えているローレンス枢機卿の(説教中に放った)言葉が、個人的に一番刺さりました。
確信は寛容の敵(Certainty is the deadly enemy of tolerance)
確信は団結の敵(Certainty is the great enemy of unity)
また、キリストでさえ十字架の上で「神よ、なぜ私をお見捨てになったのか」と叫んだとも。……この説教は本当にすごかった。
一見「寛容」って宗教っぽいワードチョイスではあるけれど、正直宗教の実態って「確信」に近いものがあるんじゃないかと思っていたんですよね。神様を強く信じるってそういうことでしょ? って。で、おそらくそう思っている人も多い中、ローレンスはあえてこの話をした。
で、思ったんですけど。
「確信は寛容の敵」「確信は団結の敵」って、宗教にかかわらず、生きている限りどこででも目にする光景だなと。人が他者に対して一番攻撃的になるのは「自分は間違っていない」「自分(の考え)こそが正しいはずだ」という思考に陥ったときだと思うから(つまり確信)。
SNSでも、自分の正当性を主張したいばかりに「お前は間違っている(なぜなら正しいのは自分だからだ)」と他者を攻撃してばかりの人なんて、そこら中にいますもんね。むしろ、頭のどこかに少しでも「自分の考えは合っているのか」という疑いを持っている人のほうが、他者の意見に寛容だし耳を傾けることもする。
確信は寛容(団結)の敵。
誰かに文句を言いたくなったとき、誰かの意見に反射的に反論したくなってしまったとき。そんなときにはぜひ心の中に浮かべたい言葉でした。
みんなが怪しく見えて……
というか、終始雰囲気が暗すぎて、みんながみんな怪しく見えてしまいました(笑)。
演出の仕方がうまかったんでしょうね。
トランブレ枢機卿が、前教皇の死の直前に実は会っていたという証言が出てきたり。今まで誰にも知られていなかったベニテス枢機卿が突然現れたり。ローレンスの親友だと思っていたベリーニ枢機卿が突如として攻撃的になったり。
ちなみに、ベリーニ枢機卿を見て思ったことは、人は自分の心の中に潜んでいることを他人に言ってしまいがちということ。なんていうか、自分で意識していなくとも「(自分がそうだから)相手もそう思っているに違いない」と思い込むみたいな。
中盤は割と「誰が何をしているの?」という感じで、このサスペンス要素もまた良い仕事をしていました。
宗教(?)の矛盾
でもって、皮肉たっぷりのラストがとても良かった!
皮肉的かつ、核心を突いているというか。
私自身は宗教的なものにあまり詳しくないので、偉そうなことは言えないんですけれども。それに加えて、原作は未読だし、あくまでも映画を観て「ん?」って思っただけなんですけれども(的外れなことを言っていたら申し訳ない)。
ある枢機卿が、病気のために手術をしたと言いながらも、そう言った口で「神の御業を変えることは罪である」みたいなことを言う。自分は宗教観に詳しくないので、カトリックの人たちからしたらそこには明確な線引きとかがあるかもしれないんですけれど、個人的には「生きるため(病気のため)に体にメスを入れるのはよくて、その他の理由なら駄目ということ?」って思ったんですよね。
でも、病気のためというのは完全に人間サイドの理由だよなって。神の御業と言うなら、病気になったことですらそうなんじゃないかと思いますし。病気になったことも神の采配として、手術などしないで受け入れるべきなんじゃないのって。
そこに宗教の矛盾? 件の枢機卿の矛盾? を感じました。自分に都合が良いことばかりを神のため、神のせいにしていないかと。
今、問われている
本作の題材となっているのは「教皇選挙」なので、当然、本作のラストにはある枢機卿が教皇へと選出されることになります。そして、そのラストについてどう思うかは観た人次第、というか、かなり賛否両論を呼ぶところだと思うのだけど。
「え、この人が教皇になっていいの?」と思ってしまうなら、一度「多様性とは何か」を考えたい……と思う反面、自分もそちら側の感想を持ったんですよね。
ただ、それは多様性云々の話ではなく、単純に件の枢機卿が嘘をついていたから。少なくとも「誰にも聞かれなかったし」というスタンスであったことは間違いない(そもそもあんな疑いを持つわけもなく)。そんなあの枢機卿が、ほんの少しの野心もなかったかというと疑問が残るという感じでした。
あの枢機卿だって、結局のところ清廉潔白ではないよと。
あの人が教皇になったところで、カトリック教会内の伝統や雰囲気は大きく変わることはないのだろうなと思わせられるラストに思えました。
映画「教皇選挙」が好きな人におすすめの作品
映画「教皇選挙」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 2人のローマ教皇(2019)
- ベネデッタ(2021)
- 修道士は沈黙する(2016)
まとめ:何が正しいかわからなくなる
本作を観て、いろいろ考えることはあるものの、最終的には「何が正しいんだろう」と思ってしまうような内容でした。
昨今、「多様性」が叫ばれていますが。逆に「多様性を受け入れない人を受け入れない」社会になりつつあるとも感じていて。それはそれで、ある意味「寛容でない社会」であるような気がするんですよね。
結局、何が正しかったのか。考えれば考えるほど泥沼に嵌まっていくような、そんな映画でした。
Rotten Tomatoes
Tomatometer 93% Popcornmeter 86%
IMDb
7.4/10
Filmarks
3.9/5.0