
ともしび(字幕版)
「ともしび」の感想です。
シャーロット・ランプリング主演。
ほぼほぼひとり演技なのに、1時間半ずっと画が持つなんて本当にすごいですね! 正直、好き嫌いには分かれそうな内容ではあるけど、私はかなり好きでした。
本記事は2025年07月02日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
それでも日常は繰り返される。
作品情報
あらすじ
――夫がある日突然逮捕された。ベルギーの小さな街で夫と共に慎ましく暮らしていた女性の日常は、それでも続いていく。
主な登場人物
(敬称略)
アンナ
(演:シャーロット・ランプリング)
夫がある日突然逮捕される。それ以降も、夫を訪ねながら日々の生活を送っている。
アンナの夫
(演:アンドレ・ウィルム)
ある日突然逮捕されたアンナの夫。息子のことを良く思っていない。
映画「ともしび」の感想
映画「ともしび」の感想です。盛り上がるシーンはほぼほぼないのに、シャーロット・ランプリングのみでこんなに画が持つなんて本当にすごい!
繰り返される日常の残酷さ
夫とふたり暮らし。ある日夫が突然捕まった。
そんな場面から始まるヒューマンドラマ。
本作では、夫が「なぜ」逮捕されたのか説明されません。いわゆる「察してね」というやつ。で、察するところ、多くの人が「児童への性的虐待」だったんじゃないかと感じると思います。被害者の少年の母親らしき女性がアンナの家の前までやって来て、それらしいことを怒鳴っていたから(そこでも性的虐待だとは明言されない)。
それでも繰り返されるアンナ(妻)の日常。
ただひたすらに残酷だなと感じました。
変わったことと変わらなかったこと
繰り返される日常の中、ただ静かに変わったことと変わらなかったことを見せられる感じ。
例えば、アンナが通っていたらしいプール(市民プール的なあれかな?)。そこでは会員証を取り上げられてしまう。夫の罪が児童への性的虐待だとするなら、そのプールには少年少女も多く通っているようだったので警戒したというか、世間体を考えてのことだったのでしょう。
それでも何も言わず、無言で帰るアンナが物悲しい。
陽が落ちかかって、街の明かりがちらほら見えて、周囲の景色が美しいだけになんだかちょっと切なくなる光景でした。
変わらなかったことといえば、家政婦の仕事。雇用主は知っているのか知らないのか、夫が逮捕されたあともアンナを雇い続けていましたね。二コラという少年がいるのにもかかわらず。まあ、普通なら「夫とアンナの罪は別」ということなんでしょうが、気になるのも当然ではあると思う。
二コラ少年とのつながり
その勤め先での二コラ少年とアンナの間には、不思議なつながりがあるように感じました。二コラは盲目の少年なんですが、アンナに非常に懐いていた。そこには家政婦と雇用主の息子という以上の何かがあるような。
たぶん、互いに孤独を抱えていたからじゃないのかなと思いました。
なんていうか、アンナは家政婦なので息子の世話をする必要はないと思うんだけど、雇用主の女性は「アンナがいるからいいや」と思っている節がある。自分が自宅にいるのにアンナに二コラのことも任せっきりだったり。当然、自分が自宅にいても家政婦は利用して全然いいと思う。ただ、二コラ的にはやっぱり寂しさを覚えていたんじゃないかなって。
母親が家にいるのに部屋に籠もりっきりというのは(しかも、やっていることはセッ……(略))。
母親がそのフォローをしてくれていればいいんですが、二コラの様子を見るにそれもなかったんじゃないかなあ。母親が女であるなとは言わないけど、二コラの母親の場合、女である割合のほうがだいぶ大きく見えた。私には。
夫が逮捕されたアンナと、母親に放置され気味の二コラ。
互いに孤独感を抱えるふたりだから、なんとなく気が合ったのでしょうね。
慎ましく暮らしていたのに……
ところで、本作にはセリフらしいセリフがほとんどないのです。まったくないわけではないんだけど、非常に少ない。だからこそシャーロット・ランプリングの演技が光るというところもあるんですが。
夫が逮捕されたアンナの表情はいつも仄暗く、どこか恨みがましく見えるんですよね。
それこそ「自分は慎ましく暮らしていただけなのに、今になってなぜ」とでも言いたげな感じ。だけど、いざ夫に面会に行った時にはとてもうれしそうにはにかむ。
夫曰く「やっていない」ということでしたが、やっているやっていない以前に、平穏な毎日を取り上げられたことに対する怒りがあったんじゃないかと私は思いました。夫にではなく。誰にというわけでもなく。ただそれが自分の身に起きたことに対する怒り。
「あなたのためになんだってした」
アンナが電車に乗るたびにそこで見る光景は、なんだかすべてがアンナに向けられたもののようでしたね。
私が特に「これきついな」と感じたのは、電車の中でアンナが遭遇した修羅場のシーン。女性が男性がいるであろう方に向かって「あなたのためになんだってしたのに!」って叫ぶところです。
これ、まさにアンナの気持ちなんじゃないか?
逮捕前夜、アンナが夫の背中にマッサージをしていたことからもわかるように、たぶん、アンナは夫に尽くしてきたのでしょうね。いろいろと。なのに、夫は捕まってしまった。「あんなに尽くしてきたのに、なぜ?」という気持ちもあったでしょう。
さらに、女性が「最初に言ってよ!」と怒鳴りつけるシーンもありました。これは「いろんな人とヤりたいなら最初にそう言ってよ!(そしたら私だってあんたと付き合ったりしなかったの意)」ということらしいんですが。浮気だか弄ばれたんだかは知らないけど、確かにそれは言いたくもなる(笑)。
でも、アンナもまさにその心境だったでしょうね。「今さらそういうので捕まるとか、酷いよ!」って。「最初から言っておいてよ! だったら結婚なんてしなかったのに!」って。
妻はまったくの無罪か
では、アンナはまったくの無罪だったのかというと、正直これも微妙だなと思っています。
アンナはうっすら夫の罪に気がついていたんじゃないかな。だけどそれを直接確認することもなく(まあ、できないよねとは思う)、証拠となる写真を見つけたあとも沈黙を選んでいる。
それはもはや愛ではなく
その点で「愛とは何か」を問われている作品だなと感じました。
沈黙を選んだアンナの行動は愛から来るものだったのか。
個人的には、「私自身は何もしていないのに」「これ以上酷いことになったら耐えられない」「夫に尽くしたという過去のことまで否定されてしまう」というような保身100%だったと思うけど。もしかしたらほんの少しぐらいは情(愛ではなく)があったのかもしれないとも思う。
人を愛するってどういうことなんでしょうね。夫となると、元は赤の他人なわけですし。
息子に追い返されるアンナ
これは完全な憶測ですが、夫のことを通報したのは息子なのかな? なんてちょっと思ったんですよね。
夫の罪が児童への性的虐待なのだと仮定して。
息子も幼い時は嫌な思いをしてきたんじゃないかなって。直接の被害を受けてきたわけじゃなくても、嫌な目で見られている自覚があったとか。そういうのってなんとなくわかるものですし。
「息子もきっと会いに来てくれるわよ」と夫に言ったアンナ。つまり、捕まって以降は一度も会いに来ていないということ。それに対して、夫は「あいつは許さん!」と憤慨した様子を見せていました。なので、前々から関係が悪かったか、決定的な何かがあったかと考えます。その両方という場合もある。
息子からしたら、自分にも子ができて、「子どもに同じ思いをさせるわけにはいかない!」と行動を起こした可能性は十分にありますよね。
そう考えると、息子がアンナを追い返した理由もなんとなくわかるような気がします。
孫は懐いているようだったから、それなりに良いおばあちゃんだったんだとは思うけど。ずっと息子との関係はぎくしゃくしていた(憶測)。嫌な目で見てくる父親から息子を庇わなかったから。息子が父親の逮捕に関わっているかはわからないけど、その件をきっかけに完全に拒絶されるようになったという流れなら、まああの対応もしっくりきます。
静かに訪れる優しくない世界
とはいえ、息子のあの対応だけを見ると、胸が痛くなりましたね。
なんていうんでしょうか。
孫の誕生日カードにわざわざ「おじいちゃんとおばあちゃんより」と書いたり、アンナが必死に何もなかったかのように振る舞っているあの感じが痛々しくて。保身であれ愛であれ、そうしなければまともに立っていられなかったということなのでしょう。
そういうまったく優しくない世界を描いているのに、なぜか強く惹きつけられる作品でした。
映画「ともしび」が好きな人におすすめの作品
映画「ともしび」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ファーザー(2020)
- 君だってかわいくないよ(2015)
- シビル・ウォー アメリカ最後の日(2024)
- 涙するまで、生きる(2014)
まとめ:……とにかくすごい
もうね、とにかくすごい。
シャーロット・ランプリングが。強すぎた。
ほとんどひとり芝居のようなものだし、劇中で何か特別なことが起きるわけでもないのに、ほんの少しも飽きる時間がないなんて。
最高に好きな映画でした。
Rotten Tomatoes
Tomatometer 82% Popcornmeter 59%
IMDb
5.9/10
Filmarks
3.4/5.0