メメント(字幕版)
最近だと、映画「オッペンハイマー」などを手掛けたとして知られている(有名作品は他にも数ありますが)クリストファー・ノーラン監督の作品です。「インターステラー」もそのうちのひとつですね。
個人的には結構難解な部類に入る内容だと思ったので、「一度ではいまいちわからなかった……」という人もいるかもしれません。
本記事は2024年04月に執筆されました(2024年07月更新)。すべての情報は更新時点のものです。
ワンフレーズ紹介
10分前、何してたっけ?
作品情報
タイトル | メメント |
原題 | Memento |
原作 | メメント・モリ/ジョナサン・ノーラン著 |
ジャンル | サスペンス、ミステリー、スリラー |
監督 | クリストファー・ノーラン |
上映時間 | 113分 |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2000年 |
レイティング | PG-12 |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
記憶障害により、直近10分の記憶しか維持できないレナード・シェルビー。少し前の記憶が消えてしまうレナードだが、妻を手にかけた犯人を捜すべく奔走する。
登場人物
(敬称略)
レナード・シェルビー(演:ガイ・ピアース)
前向性健忘を患い、10分ほどの短期記憶しか維持できない男。妻を手にかけた犯人に復讐するため、わずかな手掛かりをもとに捜し出そうとしている。
レナードの妻(演:ジョージャ・フォックス)
レナードの妻。何者かの手によって命を奪われる。
テディ(演:ジョー・パントリアーノ)
レナードの手助けをする男。曰く、友人らしい。
ナタリー(演:キャリー=アン・モス)
レナードの手助けをする女。
映画「メメント」の感想
映画「メメント」の感想です。正直、自分は頭が良いほうではない(と思う)ので、かなり難解だなと感じました。にしても、構成がめちゃくちゃうまい。
原作は短編小説「メメント・モリ」
映画「メメント」の原作は、クリストファー・ノーラン監督の実弟、ジョナサン・ノーランの短編小説「メメント・モリ」です。
なお、この案については、
原案のジョナサン・ノーランは、この映画の原案が引っ越しの最中に生まれたことを明かし、「あれは1997年、僕がワシントンでまだ大学生だったころ、当時イギリス に住んでいた兄クリスが、僕とハリウッドに移り住むことを決め、二人でカリフォルニアに車で向かっていた時だった。道中のミネソタ辺りで、話すことがなくなって、映画のアイデア交換を始めたんだ。そのとき、僕は大学の心理学の授業で前向性健忘の話を聞いたのを思い出して、急に新たな映画のアイデアが浮かんだんだ。それが、この作品の原案になったんだよ」と大学の授業もこの映画を作るにあたって、一役買ったことを明かした。
(引用元:クリストファー・ノーランの弟ジョナサン、映画『メメント』の発想は兄との会話のとぎれに…|シネマトゥデイ)
ジョナサン・ノーラン本人がこのように語っています。
「メメント・モリ(Memento Mori)」とは、「自分がいつか死ぬことを忘れるな」「死を忘れるなかれ」という意味のラテン語。
この「メメント・モリ」の意味や使われるタイミングは徐々に変わってきているそうで、最初は戦に勝利した将軍が、同行させた使用人に対して「今日は勝てても明日はわからない」というような警句として、その後は、「生に執着するな」という意味で。
中世になると「死は平等に訪れる」という意味で、そして、現在は「死は平等に訪れるのだから、今この瞬間を生きるように」という意味合いで使われたりしています。
なお、短編小説では「メメント・モリ」となっていたタイトルが、本作ではシンプルに「メメント」となっています。
「メメント(Memento)」は「(過去の体験、出来事などを思い出すために保管しておく小さな)思い出の品」「思い出の種」「記念品」という意味があるらしいので、こちらの意味にも掛けているのかもしれませんね(実際のところは知りませんが)。
10分間しか続かない記憶障害を疑似体験
本作の特徴といえば、その構成にあるでしょう。
一般的な展開と大きく異なり、10分ごとに時間を遡っていくという演出。
たいていは行動が先に来て、そのあとに理由や原因が明かされる(例えば、レナードが走っている→次のシーンで走っている理由の描写がある、というような)。
我々鑑賞者はそれで納得するけれど、レナードの行動を見ているうちは、やっぱり「どうしてこんなことを(しているのか)?」と疑問に思いますよね。
これってつまり、レナードの視点そのもの。
10分しか記憶が続かないというレナードの症状を、疑似体験していることになるわけです。
場面が切り替わったように、突然パッとレナードが「何か」をしている状態になるので、その時点では何が起きているのか本当にわかりません。これが自分だと考えると、かなり不安になるはず。
クリストファー・ノーラン監督の哲学に、以下のようなものがあるそうです。
ノーラン監督:
(引用元:果てしなき“問い”の先へ 映画監督クリストファー・ノーランの世界|NHK クローズアップ現代)
映画の世界は主観的な没入体験によって作られると思っています。観客は頭で理解するよりも、まずは感情で映画を体験するのだと思います。あまりにも知的に訴えかけてしまうと、観客は映画に没入できなくなるのです。映画が効果的なら、夢のような状態に置かれ、別の現実を体験できます。そこから知的な問いが生まれ、観客の体験をさらに豊かにするのです。
ノーラン監督が大切にしているのは、没入体験。
確かに、本作も十分知的な部分はあるんですが、それよりも先に没入体験(つまり記憶障害の疑似体験ができる)が来るのは事実ですね。
時間の使い方が圧倒的なクリストファー・ノーラン監督
いやあ、やっぱりクリストファー・ノーラン監督の何がすごいって……。
時間的演出。
これに限るんじゃないですかね。
時間の演出が圧倒的にうまい。
映画って時間の連続なので、それでいて「短期的な記憶しか維持できない男を主人公に、10分間で区切って、遡っていこう!」なんていう考えがまずすごい。
たとえ原案(原作)が違う人のものだったとしてもですよ。
特に本作の場合、映画の設定上、オチから始まるようになっていますよね。
鑑賞者側が最終的にどうなるか知っている状態で物語を進めていくのって、成功すればいいけれど、失敗したら駄作になりかねないリスクがあるというか、一か十かみたいな評価になりがちなような気がするので、ここをビシッと決めたノーラン監督の手腕といったらもう。
言葉になりません。
「時間の魔術師」とはよく言ったものです。
完全に自分を信用できるのか?ということ
10分間しか記憶がもたないレナード。
そんな状態で、他人が信用できるのか?
優しい顔をして近付いてくる詐欺師がいるかもしれない。他人の振りをしている知り合いがいるかもしれない。「自分の知らない人」に知られているって結構怖い。
でも、じゃあ自分は?
これが本作の面白いところで、他人はもちろんなんですけれども、自分は信用できるのかという。
10分しか記憶が継続しないということは、大袈裟に言ってみれば、過去の自分も他人のようなもの。プライベートな事象について他人に話すとき、自分に都合のいいところだけを抜き取って語ることは往々にしてあるものですよね。
それが自分(未来の自分=他人)に対して起きないとは限らない。
メモやタトゥー、写真などで文字として情報は残しているものの、あえて書いていないことがあるかもしれないと考えたら……つまりレナード自身も「信頼できない語り手」ということになりますね。
ここらへんの演出も本当にうまい!
考察しがいのあるレナードの行動
全体を通して「ふむふむ、難しい話だったなあ」で終われればまだ楽なんですけれども、ノーラン監督はちゃんと置き土産も残していってくれています。
正直、謎は残っている。
まあ、ここらへんはノーラン監督があえてそうしたのだろうと思っているんですが。
ここまで作り込む監督が、「うっかりしちゃった!(てへぺろ☆)」なんていうケアレスミスを犯すわけがない……と思うので。
それは、レナードは果たして本当に記憶障害だったのか? というところです。
いや、うん、こんなことを言い出したら元も子もないんですよ。
でも、レナードの行動は一部おかしなところがありますよね。
例えば、記憶がないはずなのに、タトゥーやメモの情報を迷いなく信じたり。普通、記憶がない状態で体にびっしりタトゥーが彫られていたら、冷静でなんていられなくないですか?
少なくとも「なんじゃこりゃ!?」とはなる。
そのあたりも、レナードは冷静です。
そういったちょっとしたところに違和感を覚えてしまうのも、ノーラン監督の意図するところだったのではと思います。前述したように、レナードはいわゆる「信頼できない語り手」であると如実に語っているんですよね。
没入するとレナードの気持ちに寄り添ってしまいたくなるが、完全には信じるなと。
さて、実際はどうなんでしょうね。
映画「メメント」が好きな人におすすめの作品
映画「メメント」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- TENET テネット(2020)
- リピーテッド(2014)
- セブン(1995)
- 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(2017)
まとめ:没入体験ができる傑作
まるで主人公(レナード)と感覚を共有しているかのような体験ができる名作です。
流石クリストファー・ノーラン監督というべきか、時間の使い方がとてもうまい。口コミの中には「一度では理解できず、二度、三度と観てやっとなんとなくわかった気がする」といった感想も散見されるほどの難解映画。
ボリューム感たっぷりで、しばらく余韻に浸れます。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 94% AUDIENCE SCORE 94%
IMDb
8.4/10