会話劇やB級映画が好きな人におすすめしたい映画「サークル」。
人がバンバン死んでいくデスゲームですが、血が飛び交うような描写はまったくないので、グロテスクな表現が苦手な人でも落ち着いて見られるでしょう。
複雑なように見えて単純な、あるいは単純なように見えて複雑な人間の心理が見どころです。
作品情報
作品名 | サークル | 原題 | Circle |
上映時間 | 87分 | ジャンル | サスペンス |
製作国 | アメリカ | 監督 | アーロン・ハン |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
あらすじ
暗い部屋の中、突如として目を覚ます50人の人々。
アメリカに居を構える彼らは、サークル状に立たされていた。
突然始まったゲーム……それは、2分ごとにひとりずつ処刑されていくというものだった。
「なぜ、この顔ぶれだったのか」「いったいなんのために、誰が始めたのか」
何ひとつとしてわからないまま、強制的に進行するデス・ゲームだったが、「次の犠牲者(になるべく人間)を投票で選べる」ことに気がついた彼らは、生き残りをかけて争うことになる。
登場人物
この中で唯一の妊婦。「誰が生き残るべきか?」論争に巻き込まれ、何度も危機的局面を迎える。
この中で唯一の子ども。「誰が生き残るべきか?」論争に巻き込まれ、何度も危機的局面を迎える。
この作品唯一(?)の良心とも言えるべき存在。中盤あたりから、妊婦と少女(ケイティ)を守る動きに出る。コミュニケーション能力があり、話の回し方がうまい。
映画「サークル」の注目ポイント
訳もわからないうちに始まるデス・ゲーム。極限状態に追い込まれた人々が、いったい何を思い、誰を選ぶのか……。見ごたえ抜群の作品です。
ルールがシンプルでわかりやすい
作中では、ゲームマスターのような人は出てきません。
つまり、ゲームに(強制)参加をしつつ、ルールを把握していかなければならないということになりますが、これがまたシンプルなので、非常にわかりやすい。
基本的なルールは下記の通りです。
・処刑される者は投票によって選ばれる。
・自分への投票は不可。
・誰も投票しなかった場合は、ランダムに選ばれる。
・(自分が立っている)円から出た場合は、失格(死)。
・隣の人に触れた場合も、失格(死)。
・同票の場合は、再投票。
いろいろあるように見えて、意外と単純なつくりになっています。
会話劇&NO主人公を楽しめる人向け
本作最大の特徴のひとつが、こちらの作品はすべて会話劇で成り立っているということです。
常に棒立ちになっていなければならないというゲームの性質上、画面に大きな動きはありませんが、異なる考えを持った人々が激しく(時に冷徹に)議論を交わしていきます。
また、主人公がいないというのも、大きな特徴のひとつ。
というより、正確には「みんなが主人公」といったところでしょうか。「誰を犠牲にするか?」「誰が生き残るべきか?」を論じる際、テーマによって中心となる人物も異なります。
無論、こういった場において、大きく声を上げることはつまり、悪目立ちすることにもなるわけですが、それが吉と出るか凶と出るかは本人次第。
誰が何を考えて、どんな発言をしているのか、考えながら見ると面白いですよ!
社会問題に鋭く切り込む!
「誰が生き残るべきか?(=誰を切り捨てるべきか?)」を考えるとき、人は図らずも、大多数とは違う少数派(マイノリティー)を排除しようとします。
本作において、議題(テーマ)として持ち上がったのは下記の内容でした。
・人種(黒人から、あるいは不法滞在者から犠牲になるべき)
・社会的地位(無職の人間から、あるいは年収によって犠牲者を選ぶべき)
・犯罪歴(犯罪者から犠牲になるべき)
・家族構成(子どもがいない人から犠牲になるべき)
・LGBT(同性愛者から犠牲になるべき)
などなど。
何を人間の価値とするかは人それぞれですから、非常に難しい問題ですね。
このように「目に見えるもの」でなんとか判断しようとするキャラクターたちですが、なんだかんだで「性格に問題がある人たち」から退場していくのが、またなんとも言えないところです。
また、中盤から終盤にかけて、たびたび議題に上ってくるのが「妊婦か子ども(ケイティ)を残すべきだ」という意見。社会的に「保護されるべき弱者」と考えられているということなのでしょう。
心理戦が熱い
会話劇で進むデス・ゲームということからもわかる通り、こちらの作品では「生き残りたい人たち」の心理戦が白熱します。
というのも、誰に投票するのかは好きに選べるのですが、誰を選んだのかは自分以外の人には見えないようになっているんですね。
つまり、「みんなでこの人を選ぼう!」と決めていたのに、いざ投票するときになったらまったく違う人を選ぶこともできてしまうわけです。
もしかしたら、自分が選ばれるかもしれない。
参加者たちは常にそんな恐怖を抱えながら、「死」以外での途中退場は認められない状況の中、疑心暗鬼になっていく様も、見どころのひとつになっています。
映画「サークル」を見た感想
思いのほか、面白かった。
その一言に尽きますね。
自分も長く外国で暮らしていたからか、自分のアイデンティティーについてよく考えることがあったのですが、改めて「自分の価値はなんだろう?」と考えさせられました。
とりあえず、雰囲気的には「CUBE」と似ている感じ。
ただ、ばったんばったん人が死んでいくのは同じ(50人もいれば当然)でも、本作の場合は「死に方」にフォーカスを当てているわけではないので、処刑される人は一様にビームに撃ち抜かれるだけ。
それも、倒れた姿が出てくるくらいで、血が出ている描写はありません。スプラッター的なグロテスクな場面が苦手でも、最後まで安心して(?)見られるはずです。
そして、世の中には「言ったもん勝ち」という考えがありますが、こちらの作品ではまったくの逆! なにしろ、強い反感を持ち、(「誰を犠牲にすべきか」と)激しく糾弾したキャラクターはもれなく悪目立ちしてしまうのですから。
声を上げたほうが不利になる。
これがこのゲームの面白いところ。
しかし、それがわかっているはずなのに、声を上げる人は上げるんですよね。
「若者に比べて、先の長くない老人を選ぶべきだ」
「不法滞在者のせいで現地の人たちの仕事がなくなるから、消えるべきだ」
「無職の人間は社会のお荷物だから、いなくなるべきだ」
と……これはおそらく、普段の生活ではわざわざ主張したりしないけれども、自分の考えは間違っていないし、他の人間もそう思っているはずだという自信があるからこその言動なのでしょう。
客観的にそう思える言動をするキャラクターも複数名(いや、半数以上?)いるのですが、本人たちはまったくそう思っていない。
むしろ、自分に同意しない「みんな」がおかしいと感じているんだろうなあ、と。
悪い意味で目立ちすぎて、他の参加者たちの反感を買い、「あっ」と気がついたときにはもう遅い。せっかく自分の意見を主張して、「(自分にとっての)死んでもいい人間(=無価値な人間)」を排除しようと思ったのに、最後の最後になって自分のほうがいつの間にかマイノリティーになっていたことに気がついた、という感じでした。
中盤、次の犠牲者になりたい「ボランティア」を募り始めるのも、また、それに手を上げる人間がいるのも、興味深いところです。
ただ、ラストはおそらく……いや、絶対、賛否両論に分かれるはず。
個人的にも、内容がなかなか良かっただけに、最後の最後の展開に力が抜けてしまいました。「うわああああああ!? なんでえええええ!」と叫びたくなった。もちろん、悪い意味で。
「目が覚めたらデス・ゲーム」という時点でファンタジー感はありますが、さすがにぶっ飛んだラストシーンでは突然のSFが登場。
人間の深層心理を突き詰め、社会問題を提起し、見ている人たちの心に何かを訴えかけるような内容……を、ラストシーンでぶん投げたっ!
いやあ、びっくりした。
実にびっくりしました。
まさかあんな終わり方があろうとは。どんでん返しとはまた違った驚きを実感したい人にはおすすめですね。賛否は分かれそうですが。
ルールと言い、システムと言い、子どもにでも理解できる程度にはシンプルなので、もっと深い内容の映画が見たい人には不向きかもしれません。
映画「サークル」が好きな人におすすめの作品
映画「サークル」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
● 「キューブ」(1997)
● 「トゥルース・オア・デア ~殺人ゲーム~」(2017)
● 「ハンガー・ゲーム」(2012)
まとめ:デスゲームより心理戦が好きな人に
たくさん人が死ぬのに、人が死ぬ瞬間にはあまり焦点を当てていない不思議なデスゲーム映画。デスゲームそれ自体というより、社会問題に興味がある人や心理戦が好きな人に向いている作品と言えるのではないでしょうか。
ラストについては好き嫌いに分かれるかもしれませんが、それ以外は◎!
構成も87分とわりと短めに作られているので、忙しくてなかなか映画が見られないという人は、ぜひ一度チェックしてみてくださいね。
※本記事は2022年12月時点の情報です。