“喜劇王”と呼ばれたチャールズ・チャップリン初の完全トーキー作品「独裁者(英:The Great Dictator)」は、メディアの力でとある独裁者を痛烈に批判した風刺コメディです。
監督および脚本、製作、加えて1人2役を務めあげ、その才能が遺憾なく発揮されています。
作品情報
- 作品名:独裁者(The Great Dictator)
- 上映時間:2時間5分
- ジャンル:コメディ
- 製作国:アメリカ
- 公開年(日本):1960年
あらすじ
第1次大戦末期、トメニア国の兵士として戦線に出ていたユダヤ人の床屋チャーリーは、戦傷によりすべての記憶を失ってしまう。戦後、トメニアは独裁者ヒンケルが支配する国となりユダヤ人迫害を開始。そんな中、激変した状況を知らない床屋のチャーリーが退院し、ゲットーに帰ってくる……。
(引用元:映画.com「独裁者」)
こんな人におすすめ!
- 風刺作品が好き
- ブラックコメディ、わかりみ深い!
- チャップリンの本気が見たい……
- 実はチャップリンがイケメンだということを知っている
スタッフ・キャスト
- 監督/脚本/製作:
– チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin) - メインキャスト:
– チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin)⇒ 床屋のチャーリー(Charlie)/独裁者のヒンケル(Hynkel)役
– ヘンリー・ダニエル(Henry Daniell)⇒ ガービッチ(Garbitsch)役
– ジャック・オーキー(Jack Oakie)⇒ ナパロニ(Napaloni)役
– レジナルド・ガーディシュナー(Reginald Gardiner)⇒ シュルツ(Schultz)役
– ビリー・ギルバート(Billy Gilbert)⇒ ヘリング(Herring)役
– ポーレット・ゴダード(Paulette Goddard)⇒ ハンナ(Hannah)役
「独裁者」注目ポイント
独裁者を笑い飛ばすことで痛烈に世の中に訴えかけたチャップリン。完璧主義としても知られているチャップリンが、パントマイムで培ったきれいな所作と表現力をあますところなく見せつけてくれます!
サイレントとトーキーの融合
チャップリンといえばサイレントのイメージが付きものですが、本作では初の完全トーキーに挑戦。とはいえ、要所要所に入れられるスラップスティックな動きはまさにサイレントとトーキーの融合と言っていいでしょう。
さすがパントマイムのプロ! 所作がいちいちきれいなんですね。指先ひとつから感情が伝わってくるような、面白いのにどこか見惚れてしまう魅力があります。
独裁者を痛烈に笑い飛ばす!
独裁者(=ヒトラー)をあえて笑い飛ばすことで痛烈に批判した本作。
例えば地球儀(どう見ても風船)をもてあそぶようなダンスを繰り広げたり、近隣国の独裁者ナパロニ(=ムッソリーニ)の椅子を自分より低く設置したり、銃の試し撃ちで発明者自身を実験台にしたりとコメディタッチで描かれた多くのシーンからは、自尊心の高さと支配欲の強さ、残虐なまでの幼稚性が感じられます。
ヒトラー自身も2、3回ほど本作を鑑賞したあとで、上映禁止にしたそうです。なお、当時ドイツと同盟を結んでいた日本でも上映されることはなく、いよいよ公開されたのは終戦15年後の1960年になってからでした。
そっくりな2人の人物
独裁者として名を馳せたヒトラーと、喜劇王としてメディアの力で世の中を変えようとしていたチャップリン。一見正反対にも思える2人ですが、チョビ髭に黒髪、小柄な体躯とルックスには相通じるものがありました。
実際、映画「独裁者」の中で登場するチャップリン(床屋と独裁者の2役)は、衣装以外の変化がありません。そのままでもイメージどおりだったんでしょうね。
なお、実は生まれた日もたったの4日違い(チャップリンのほうが4日早い)の2人です。
“ハンナ”に向けた言葉
ハンナ役を演じたポーレット・ゴダードはチャップリンの3番目の妻!
最初こそがさつな感じの見た目をしていますが、床屋のチャーリーに髪の毛を整えられたあとの美しさといったら言葉も出ないほどです。
ところで、チャップリンの素顔がイケメンだということを知っている人はどれくらいいるでしょうか? ひょうきんな動作とチョビ髭にばかりつい目が行ってしまいがちですが、顔はやたら整っているんです。
それがわかるシーンが「独裁者」の中にもあります。ハンナを椅子に座らせて、見つめ合って微笑むシーン。チョビ髭はあるけれど……笑顔が素敵! たった1、2分の場面ですが、このシーンだけでも何度も観返したいくらいです(素顔はインターネットでも出てきますので、気になった人は調べてみてくださいね)。
ちなみに、ハンナとはチャップリン最愛の母の名前です。本当のラストで遠くにいるハンナに向けられた「ハンナ、聴こえるかい?」からはじまるワンシーンは、きっと精神を病んでしまった亡き母への思いが表れているのでしょう。感動。
歴史に残る6分間の大演説!
本作の中で特筆すべきなのは、なんといっても6分間の大演説!
世紀の大演説とも言わしめた記憶に残る6分ですが、構想の段階でこのシーンはありませんでした。ところが、「これでは独裁者に対する思いが表現しきれない」とのことで台本を変えたんだそうです。
6分間、ヒンケルに扮したチャーリー(チャップリン)が映り続けるカット割りのない見事なシーン。
時折聴衆を見渡す仕草も見受けられますが、そのほとんどの時間をカメラ(=映画を観ている人たち)に向けて力強く訴えかけるために使っています。
「独裁者」を観た感想
チャップリンを語るうえで、「モダンタイムス」や「伯爵夫人」、「キッド」などの数ある名作に並び、「絶対に観ておかなければいけない作品のひとつです。
先述のとおり、6分間の大演説が実に素晴らしい!
なにが素晴らしいかって、別にね、難しいことはひとつも言っていないんですよ。ただ平和を訴えかけているだけ。ただ自由について説いているだけ。ただ希望を語っているだけ。
でもどこか、心にズドンとダイブしてくるものがある。しかも名前を変えているとはいえ、実在の人物を政的に批判する(しかもコメディで)のは簡単にできることではありませんよね。喜劇はまさにチャップリンの武器と言えるでしょう。
このワンシーンだけでも、チャップリンの演技力がわかります。そこに続くハンナへの言葉。
すごいと思いながらもコメディタッチで描かれた内容にクスクスきていたのに、ラスト数分で泣かされます。チャップリンがいかにファシズムに危機感を覚えていたかということですね。
映画単体でも十分楽しめますが、チャップリンの過去を改めて見返してみるとなかなか興味深いものがありますよ!
コメディだからこその作品
本作で語られたような内容が話題をかっさらっていったのは、喜劇王のチャップリンが手がけた作品だからこそ。これが単純に、よくある社会風刺をきかせただけの真面目な映画だったなら、ここまで注目されることはなかったのではないでしょうか。
心から平和を望んでいたチャップリン。今観てもハッとくるものがありますね。
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。