
竜とそばかすの姫
「竜とそばかすの姫」の感想です。
地上波放送で初鑑賞。
映画「サマーウォーズ」(2009)や「バケモノの子」(2015)、「おおかみこどもの雨と雪」(2012)などで知られる細田守監督の映画。
いろいろ誤解を生みそうな映画だなあ、と思いました(実際誤解した)。
本記事は2025年12月08日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
仮想世界の中でなら自由に歌える女の子のお話。
作品情報
あらすじ
自分に自信がなく、俯きがちに日々を過ごす高校生のすず。幼い頃は歌うことが好きだったが、水難事故で母を失ったことにより心を閉ざし、歌えなくなっていた。そんなある日、親友のヒロに誘われ、仮想世界「U(ユー)」に参加することに。「U」では「As(アズ)」というアバターを作り、好きなように過ごすことができる。自分のアバターに「Belle(ベル)」と名付けたすずは、「U」の中でなら自由に歌うことができた――。
主な登場人物
(以下、敬称略)
内藤鈴/Belle(ベル)
(声:中村佳穂)
通称「すず」。幼い頃、水難事故により、母親を目の前で失った。そのことにより心を閉ざし、好きだった歌も歌えなくなっていたが、仮想世界「U」の中では自由に歌うことができる。
久武忍
(声:成田凌)
通称「しのぶくん」。すずの幼馴染みで、想い人。バスケ部に所属しており、女子からの人気も高い。心を閉ざしてしまったすずのことを気に掛けている。
千頭慎次郎
(声:染谷将太)
通称「カミシン」。明るく陽気で、誰に対しても平等に話しかける。ただし、空気が読めないところも。たったひとりのカヌー部員として頑張っている。
渡辺瑠香
(声:玉城ティナ)
通称「ルカちゃん」。明るく優しい学園の人気者。美人で、男子人気も高い。吹奏楽部に所属。
別役弘香
(声:幾田りら)
通称「ヒロちゃん」。すずの親友で、すずを「U」に誘った人物。「ベル」になり、自由に歌うすずをプロデュースしている。
映画「竜とそばかすの姫」の感想
映画「竜とそばかすの姫」の感想です。なんだかぐちゃぐちゃ感が否めない感じの映画でした。詰め込みすぎー!
ヒロちゃんが苦手
まず最初に、と言って書くことでもないような気がするんですが(笑)、とりあえずこれを言いたい。
ヒロちゃんが無理すぎる。
あれ、フレネミーじゃない? と思ってしまった。
母親を目の前で失い、いまだ立ち直れずにいるすずに対して「うじうじしている」と言ってみたり。まあ、これは確かにね、ずっと暗い雰囲気を出されていたらイラッとすることもあると思うので、仕方のない部分もあるとは思うんですけれども。
すずのことを「陰キャ」と揶揄したり、ルカちゃんを気にするすずに対して、ルカちゃんのことをボソッと悪く言っていたり。挙句の果てには、しのぶくんの励ましでとある行動に出ようとしたすずに向かって「すずにそんなことできるわけないじゃん!」と。
ないよ、これ。
こんなことばかり言われたら、私なら友達辞めるけどなと思ってしまった。完全にフレネミー。公式設定として毒舌ということらしいんですが、こういうのは毒舌とは言わないと思う。単純に周りを慮るつもりがないだけ。
なんなんだこの子は! 見ていてだいぶしんどかったです。もうちょっとこう、うまいこと描けたやろと思うけど、細田守監督の描く女の子は苦手なことが多いのでさもありなんという感じでもありまして。
恋愛要素はいらない
あとは、いろんな要素をギュッと詰め込みすぎて、訳わからんことになっている印象もありました。
個人的には、恋愛要素はいらなかった。
正直、ルカちゃんの恋愛シーンなんてほとんど必要なかったと思うし。こういう男子人気の高い女の子が、本当に好きな人の前では挙動不審になっちゃうの、あるあるだし見たいでしょ?(穿ちすぎ?)と言われている感じで、ここもちょっぴり苦手だったかなあ。確かにルカちゃんは可愛いんだけど。
ヒロちゃんにルカちゃんのことを悪く言わせちゃったし、ルカちゃんがのちのちトラブルを解決するのに役立ってくれるので、ここがいがみ合っていると若干ズレが出てくるんだよなあというつじつま合わせにも感じてしまって。なら最初からヒロちゃんをルカちゃんに好意的にさせるか(それでも別に不自然じゃない)、あるいはルカちゃん自体出さなくても成り立っていたんじゃないかとすら思います。
「U」の謎
あと、個人的に気になったのは、すずが「U」の世界にいる間、現実世界のすずはどうなっているのかというところ。
序盤のほうは、「U」から帰ってきたすずが目を覚ます描写も(確か)ありましたし、五感がリンクしているようなイメージだったので、すずがベルとして「U」にいる間は、現実世界のすずは眠っているものだとばかり思っていたんですが。ところが、終盤になると、現実世界で走りながら「U」の中に飛ぶすずが描かれる。え、どういうことー!? ってなりましたよね。
こういう細かい部分が咄嗟に気になってしまう人には、あまり向かない映画かもなと思いました。
誤解を招く48時間ルール
それに「あ、これダメだ」と思ったところもあって。
劇中、児童相談所に虐待を受けている児童の保護を訴えるシーンがあるのですが、
え? すぐにはできない? ルール? 48時間?
というセリフのみが登場するんですよね。
だから、こういったことに詳しくない私は「児童相談所って、通報があっても48時間は動けないの?」と思ってしまったわけです(そういう人は多かったらしい)。それっておかしくない? と。
でも、それは誤解で、実際には「48時間以内に児童を保護しなければならない」ということのよう。なんじゃそりゃ? 言葉足らずもいいところで、あんな切り取り方をされたら、そりゃあそう誤解する人もいるわなというセリフでした。
これ、脚本の致命的なミスだと思う。なんの疑いもなく「児相ってそうなのか……」と思ってしまった人もいるんじゃないだろうか。
児童相談所の無能描写
で、ですよ。
じゃあ「そっかー、48時間ルールなんてものがあるんだ!」と、この48時間ルールを正しく認識したとしてですよ。
この切羽詰まった状況で児相が無理なら、とりあえず警察に通報しなされ! 暴力はすでに振るわれているわけだから! 大人がそろいもそろって何をしているのか!
というか、そもそもの話、48時間ルールがあるとして、緊急性があると通報しても「すぐには無理です」と返してくる児相って、果たして機能していると言えるのか? というのもあります。まあ、今この瞬間にも暴力を振るわれているというレベルなら、もはや児相より先に警察案件なのかな。
厚生労働省は1日、児童虐待を疑う通告から48時間以内に児童相談所などが子どもの安否を確認するルールが守られていない事例が、2018年7月~19年6月に1万1984件あったと明らかにした。同期間の通告全体の7.8%に当たる。
中にはこんな記事があったりもして、映画では問題提起も兼ねているのかなんなのか、児相を無能扱いしている感じが否めません。上記は2019年の記事なので、ある程度改善している可能性はありますが、虐待疑惑の通報って年々増えている印象ですし(ド偏見)、むしろ手に負えなくなっているパターンも想像してしまう。
この描き方は非常によくなかったと思いますね。
すずがひとりで向かう……だと!?
そして、このあとの展開にも超ビビりまくった。
児相が頼りにならないと確信したすずは、被虐待児のもとへ駆けつけます。ひとりで。……え? ひとりで? 女子高生が? 子どもに暴力を振るう男のもとに?
あまりの展開に「???」でした。
いや、そこにすずしかいなかったら(意味のわからない状況だけど)仕方ないと思いますよ。でも、そこにはカミシンもしのぶくんもいたわけでしょ。なんなら、父親とだって連絡が取れる状況にあったわけだし。なぜひとりでそんな危険な場所へ!? 普通の女性は、大の男に本気でボコンとやられたらひとたまりもないですよね。
大人がこんなにいて誰もすずを引き留めなかったのが謎すぎるし、ひとりで行かせるのもよくわからないし。百歩譲ってそんな状況になってしまったのだとしても(?)、ルカちゃんに「すずの母親みたい」と言わしめる程度にはすずのことを気にしていたしのぶくんは「危ないから俺も行く!」とはならなかったんでしょうかね。不自然すぎるような。
極めつけは、くだんの暴力男は立ちふさがるすずを見て、怒りの矛を収めていた。
大の大人(しかも虐待をするような)が女子高生相手に引き下がるなんていうことある? そこで引き下がる男なら、虐待の様子が世界に発信された時点でそうしていると思うのだけど。
現実世界を描いているのに、あまりに現実的でない描写が多々見られたのはちょっと残念だったかな。
警察が機能しなくなると自警団
また、「U」にいるあの自警団みたいな奴らはいったいなんなのか。
警察がいなくなると自警団が生まれる、という言説を耳にしたことがあるんですが、それを思い出しました。警察がいなくなれば、あるいは正しく機能しなくなれば自警団が編成される。けれども、この自警団が暴走し始めると治安がより悪化するという。
まさに「U」の現状のようですね。警察はもともといなかったにしても、自警団がAsの正体を晒し、バリバリ私刑に処そうとしている。俺に逆らうものは罰してやる!(意訳)と。
この自警団は「ジャスティス」という名前なんですけれども、人が一番残酷になるのって正義感がぶつかり合うときですからね(自論)。自分が一番正しいんだと過信しているときほど手に負えないものはない。ジャスティスのリーダーも「自分こそが正義だ」と思っていそうでしたし。
正義を名乗っているからと、必ずしもそうであるとは限らない。
いやしかし、児相も機能していないし自警団も無能だし。こういう世界にならないようにしましょうね、というメッセージ?
水難事故設定は難しい
他にも、母親の水難事故設定もとてもセンシティブな話題だなと感じました。こう、なんていうか取扱注意みたいな。うまく取り扱わないと難しいというか。
すずの母親は目の前で溺れた子を助けるため、救命胴衣を着けて川に入ってしまった。その結果、幼いすずを残し亡くなってしまうわけですね。
劇中にも、そんな母親の行動が非難されたというような描写もありました。
個人的には、これ、美談にしてほしくなかったです。もうちょっと非難されたというところを強調してほしかった。私もこういったことには詳しくないのですが、そんな私でもこれがダメなことぐらいはわかります。その現場にいたらとても冷静でいられないから、こういう行動を取る人はいるだろうねということなのかもしれませんが。
あのシーンは「えっ、助けに行くのなんて悪手中の悪手でしょ!」と思ってしまうので、どうしても水難事故であることが必要なら、すずの口から語らせるとか、観客が一歩距離を置いて観られるような演出にしたほうがよかったんじゃないかと思うんですよね。実際にその現場を見させられるのと、当事者であれ、人の口から聞くのとでは臨場感が違うと思うので。
ザッと調べてみた感じ、こういうときはやっぱり道具を使って助けるか、周囲に助けを求めるかが正しい対処法みたいですね(もちろん然るべき機関に連絡も)。
このあたりの描写が中途半端すぎてモヤモヤしました。
映像&歌は◎
ここまで不満点をつらつら書き殴ってみましたが、映像と歌はとてもよかったです。
映画「おおかみこどもの雨と雪」(2012)や「バケモノの子」(2015)の感想でも書きましたが、さすが細田守監督という感じですね。
細田守監督作品の映像は最高。
本作に限っては歌も素晴らしい。好き。
ちなみに、劇中で「ルカちゃんに似ている」と言われるすず扮するベルですが、髪の色とかも違うしそんなにという感じでした。
映画「竜とそばかすの姫」が好きな人におすすめの作品
映画「竜とそばかすの姫」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 天気の子(2019)
- すずめの戸締まり(2022)
- ペンギン・ハイウェイ(2018)
- 星を追う子ども(2011)
映画「竜とそばかすの姫」が観られる動画配信サービス
※記事執筆時点での情報です(2025年12月08日)。レンタル作品等も含まれます。最新情報はご自身で直接ご確認ください。
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まとめ:ストーリーに無理がありすぎる
あまりにツッコミどころが多すぎて、純粋に物語を楽しめなくなったのが残念なところ。ストーリーに無理がありすぎました。
特にすずがひとりで被虐待児のもとに向かったシーン。
歌と映像を楽しむための映画かなという感じでした。
Rotten Tomatoes
Tomatometer 95% Popcornmeter 94%
IMDb
7.0/10
Filmarks
3.4/5.0


