やばい。やばすぎる。
観終えたあとにそんな語彙力皆無の陳腐な感想しか思い浮かばなくなる作品があります。それが新進気鋭の映画監督、阪元裕吾氏が生み出した「ハングマンズ・ノット」。
登場人物がほぼサイコパスという救いの欠片もないストーリーですが、その支離滅裂さに最後まで目が離せない内容となっています。
作品情報
- 作品名:ハングマンズ・ノット
- 上映時間:87分
- ジャンル:サイコホラー/スリラー
- 製作国:日本
- 公開年:2017年
あらすじ
コミュ障で心に闇を抱えた孤独な男・柴田と、田舎でくすぶり暴力衝動を発散させ続けるヤンキーの影山兄弟。出会ってはいけない2組が出会ったことから事件が勃発し、周囲の人間を巻き込んだ情け容赦ない殺し合いに発展していく。
(引用元:映画.com「ハングマンズ・ノット」)
こんな人におすすめ!
- B級映画っていいよね!
- スプラッターな映像もどんとこーい!
- 「問題作」という言葉に惹かれる
スタッフ・キャスト
- 監督:
– 阪元裕吾 - 脚本:
– 阪元裕吾/吉井健吾 - メインキャスト:
– 吉井健吾 ⇒ 柴田役
– 安田ユウ ⇒ 影山シノブ役
– 松本卓也 ⇒ 影山アキラ役
「ハングマンズ・ノット」注目ポイント
最初に言っておきます。「ハングマンズ・ノット」は救いもなにもない、まさに胸糞映画とするにふさわしい作品です。そのはずなのに、次から次へとひっきりなしに訪れる怒涛の展開と視点の入れ替わりに最後まで目が離せません。
ヤクザ兄弟VSストーカー
なんといっても、まず注目してほしいのはメインのキャラクターとして登場する役者3人の怪演ぶりです。
誘拐、婦女暴行に違法薬物、殺人……と、あくどいことはすべてやりつくしたチンピラ顔負けの影山兄弟に、話したこともない女性を彼女だと思い込んでいる大学生ストーカー柴田。
基本的にこの3人をメインに物語が進んでいきます。
血があちらこちらに飛んでいき、首も飛ぶ。怒り狂うサイコパス影山兄弟に、無邪気な笑みを浮かべるサイコパス柴田。サイコパス同士の盾のない殴り合い。
難しい役どころだったかと思いますが、真に迫った3人の演技は本物です。
内容自体はぶっ飛んでいるものの、性格に難ありということ以外、影山たち不良の雰囲気も大学では友達がいない(本人はいると思っている)おどおどした柴田の雰囲気もやけにリアルで、「あ、こんな人いるよね」とスッと物語の中に入っていけます。
賞の受賞経験あり
好き嫌いに分かれる作品ではありますが、阪元裕吾監督といえば「カナザワ映画祭2017」の自主映画公募企画「期待の新人監督」でグランプリを受賞した期待の新星です。
加えて、出演俳優賞も受賞しています。
まだまだ若いので、今後の活躍に期待大ですね! きっと想像もつかない新たな問題作を続々と生み出してくれることでしょう。
微塵も感情移入できない
おそらく普通に生きていれば一生交わることのなかったであろう影山兄弟と柴田ですが、とにもかくにも違うベクトルでサイコパスが強すぎます。誰にも感情移入できない映画なんて珍しいのではないでしょうか?
ただし、“良い意味で”。
感情移入できないからこそ3人の次の行動が予測できないし、今度はなにをしてくれるんだろうと目が離せなくなってしまうんですね。
現代社会に鋭く切り込む描写
例えば、煽り運転や痴漢。こういった行動は犯罪(もしくはそれに近い行為)にほかなりませんが、加害者側の理由なんてせいぜい「ムシャクシャしたから」「なんとなく虫の居所が悪かった」「ついやってしまった」と、それくらいのものでしょう。
理由のない暴力は現実世界にもたしかに存在します。
「ハングマンズ・ノット」も同じ。作中で暴れまくる彼らに明確な理由など存在しないんです。
やられたからやり返す。未成年だから大丈夫。正当防衛だから問題ない。
さすがにここまでのサイコパスはなかなか探しても見つからないと思いますが、被害者側からすればなんの理由にもなりえないことがきっかけで巻き込まれるのですからたまったものではありません。悪を正当化しようとしたり、悪を悪だとすら認識していない無邪気な悪――なんだか現代社会にも相通じるものがありますね。
常に閲覧注意
基本的にほとんどのシーンが閲覧注意になります。ただし、グロテスク(あるいはスプラッター)といっても血が飛び交うだけで、例えば内臓や骨といったリアルな描写はまったくありません。安心してくださいね(?)!
それでもやはり最初から最後まで延々と続く殺人劇に、観終えたあとはドッと疲労感を感じることでしょう。鑑賞するタイミングには気を付けたほうがいいかも? 無論、ひとりで観ることをおすすめします。相手が同じ趣味でなかった場合、けっこう気まずい雰囲気になりますよ。
「ハングマンズ・ノット」を観た感想
こう言ってはなんですが、ただの友達がいないちょっと寂しい大学生というだけなら、身に覚えがあるというか同情的になれるというか……こういう人いるよね、で片付けてしまえるような平凡な人なんです。柴田は。
だけれども、ひょんなことから武器を手に入れてしまった。思えばこれがすべてのはじまりでした。
たまにありませんでしたか? 普段は大人しくて人との関わりかたも下手な子が、他人にはよくわからないきっかけで突然暴れ出したりすること。
柴田はまさにあのタイプと言えます。そもそも最初からわかりやすくストーカー行為(自覚はない)をする人間です。常人には一番理解の及ばないキャラクターですね。
柴田がどの程度クレイジーなのかというと、アルバイト先のコーヒー店で客に絡まれた際、突然カウンターから身を乗り出しヘッドロックをかましたうえで「殺したほうがいい」などと吐き捨て、自分のほうが警察に捕まってしまうぐらいです。
ちなみに、ヤンキーでありながらサイコパスの素質も併せ持つ影山兄弟は日常的に非人道的なことを繰り返しているものの、柴田と比べるとまだちょっぴり人間臭さが残っているように思えるから不思議。この2人に関しては、最後の最後まで熱い展開が繰り広げられることになります。
また、途中途中、不謹慎な笑いを予兆なくぶっこんでくるあたりもさすが阪元裕吾監督。期待の新鋭といったところでしょうか。賛否両論あるのもうなずけます。
個人的には最後の終わりかたがなんとも秀逸だなと思いましたね。もしかしたら最後が一番ドキッとしたかもしれない。それにしても、終始浮かべられた柴田の前髪の奥に隠れた無邪気な笑みは不気味でした。絵面の雰囲気的にはちょっとミスミソウに似た感じ(ミスミソウの記事参照)。
ちょうどいい長さだから飽きがこない
長編映画にしては87分とやや短めに作られているということもあって、飽きがくる前に観終えることができます。結局のところ似たような状況で無差別に、あるいは意図的に殺人が繰り返されるだけの話なので、これ以上尺が長ければきっとどこかのタイミングでマンネリ化してしまったかもしれませんね。
シンプルな話だけれど、飽きさせない。阪元監督の素晴らしい技量が垣間見える部分です。今後も新しい作品には大きく期待できる、次につながる作品でした。
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。