
バケモノの子
「バケモノの子」の感想です。
個人的には、細田守監督作品の中では好きなほうでした。
「サマーウォーズ」(2009)や「時をかける少女」(2006)ほどではなかったかなという印象ですが、「おおかみこどもの雨と雪」(2012)よりは断然よかった!
本記事は2025年12月02日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
人間として人間世界で生まれた少年が、バケモノの世界で成長していって――。
作品情報
あらすじ
蓮(9歳)は、両親の離婚により母親についていくことになったが、その母親も事故で他界してしまう。両親共に失った蓮は親戚に引き取られることになったものの、引っ越しの最中に息苦しさを感じ、逃げ出した。人であふれ返る渋谷の街を彷徨っていた蓮は、熊徹と名乗るバケモノに出会う。一度は見失ってしまうが、バケモノの世界に迷い込んだ蓮は、強さを求めて熊徹の弟子になることにしたのだった。
主な登場人物
(以下、敬称略)
九太/蓮
(声:宮崎あおい/染谷将太)
幼くして両親を失い(父親は離婚で、母親は事故で)、以降バケモノの世界で成長することになる。熊徹の弟子で、熊徹とはよく口喧嘩をしている。
熊徹
(声:役所広司)
熊獣人で、九太の師匠。ひとりで生き抜いてきたため、人に教えるということが上手でなく、九太と共に成長していく。九太のことを大事に思っている。
多々良
(声:大泉洋)
猿獣人で、皮肉屋。最初こそ九太に悪態をついているものの、九太の頑張りを見て次第に目をかけるように。
百秋坊
(声:リリー・フランキー)
豚獣人で、僧侶。熊徹と九太のことを温かく見守る。
宗師
(声:津川雅彦)
兎獣人で、バケモノたちをまとめている長老。もう少ししたら、宗師を引退して神格化する予定。
猪王山
(声:山路和弘)
猪獣人。熊徹のライバルでもある。一郎彦と二郎丸の父親で、師匠。
一郎彦
(声:黒木華/宮野真守)
猪王山の長男。優等生で、いじめられている九太を助けるなど弱い者いじめを許さない真面目な少年。
二郎丸
(声:大野百花/山口勝平)
猪王山の次男。当初、九太のことをいじめていたが、強いものが好きだったため、九太に負けて以降は友人となる。兄の一郎彦のことを尊敬している。
楓
(声:広瀬すず)
九太が人間世界で知り合った高校生。進学校の生徒で、九太に勉強を教えている。
映画「バケモノの子」の感想
映画「バケモノの子」の感想です。いつものことながら、映像はとても綺麗でした。これはやっぱりいいですね。
映像美は◎
先述した通り、映像はめちゃくちゃ綺麗です。
やっぱりね、細田守監督の映画はね、このあたりは間違いないです。安心感がある。
特に東京の夜空を巨大なクジラが泳ぐシーンとか「こりゃあすごいわ……」ってなりました。個人的に「おおかみこどもの雨と雪」(2012)は自分にはちょっと合わなかったんですが、それでも映像に関しては拍手を送りたい気持ちになりましたもんね。
素晴らしいです。相変わらず。
九太と熊徹の成長
それで、ストーリー的な話になりますけれど、子どもの九太が成長するのはいいとして、師匠であるはずの熊徹も一緒に成長していくのがまた感動的なんですよね。これが熊徹のいいところだと思う。
子どもを大事に慈しみ守り育てようとしていた猪王山とは違い、九太を対等に扱っている感じ。まあ、この辺も良くも悪くもかな。猪王山のやり方がいい場合もあるだろうし、熊徹のやり方がいい場合もあるでしょう。
なにより、相手(子ども)の性格による。
九太には熊徹のやり方が合っていたということでしょうね。この2人は喧嘩も多いけれど、相性がよかった。これに尽きると思います。
私は内気で大人に物申せない系の子どもだったので、きっと熊徹のような大人にぶち当たったら、ただひたすら萎縮していたと思う(笑)。だから九太と熊徹でよかった。
闇堕ちする一郎彦
劇中、猪王山の息子である一郎彦がクジラになり、九太に襲い掛かるシーンがあります。「えー!?」って感じですよね。なにしろこの一郎彦、序盤に二郎丸がいじめている九太をすまし顔で助けて以降、終盤近くまでほぼほぼ出番がありません。
個人的には、ここがもったいないなと思うところでもありまして。
本作では一郎彦が闇堕ちする展開になるんですが、そこに至るまでの経緯がすっぽり抜け落ちているんですよね。一応、理由はわかるようになっているけど。でもやっぱり、サラッと流されたぐらいでは感情移入もしづらく、あの優等生だった一郎彦が急変したという印象になってしまいました。
クジラになった理由
で、とある理由から九太を排除しにかかる一郎彦。
人間世界で九太とぶつかり、クジラになります(!?)。これは九太が逃げる際に取り落とした小説のタイトル(「白鯨」)を見たからなんですが、映像は綺麗でもやっていることは可愛くない。渋谷の街が大惨事。
これ、なんでクジラなんだろう? とちょっと不思議だったんですよね。父親と同じ姿を取るなら猪だし、わざわざそんな偶然見つけた小説の真似事をしなくてもって。
でも、九太の友人であり、人間世界で生まれ育った楓が「クジラは自分自身を映す鏡だ」と発言するシーンがあることを考えると、まさにあれこそが一郎彦の心の中だったのでしょう。
人間世界で大暴れするクジラの一郎彦ですが、なんとなく神秘的なというか、美しいと思わせるような姿でいるのって、育ってきた環境により今は心が歪んでしまっているけれど、弱い者いじめを許さない正しさや正義感、ひたむきに頑張る真面目さのある一郎彦が本来の姿だということだと思います。
九太と知り合った頃のまま。
とはいえ、九太が最初読めなかった「鯨」の文字を、人間世界で生活したこともない一郎彦が当然のように読めたのは不自然だったので、このあたりの説明はもうちょっと欲しかったところです。闇堕ちするのも急すぎてついていけない部分もありました。
楓の存在
それから、戦闘に入ってからの楓がちょっぴり邪魔でした(笑)。
あれよくないですよね。もう応戦するしかない状況に来ているのに「やめて!」「逃げよう!」となるのって。そう、よくはないんだけど。
楓がいるからこそ、九太はそれなりの戦い方ができた、つまり自分を投げ出すような戦い方にはならなかったというのはあると思う。楓がいなかったら、正面からクジラに挑んでそうそうに倒れていたような気がしなくもありません。
ただ、そうは言っても楓の邪魔の仕方って結構観る人をイライラさせます。正直、楓が女の子であることがノイズになっていました。楓が九太に好意を寄せていそうなのが「邪魔!」ってなる。バケモノの子のテーマ的に、楓のポジションは全然男の子でもよかったと思う。というか、そちらのほうがきっとよかったんじゃないかな。
アイデンティティーの問題
そして、アイデンティティーの問題。
これは難しいですね。
九太にとって、自分は人間の子なのかバケモノの子なのか。
これについては九太が劇中で言及していましたが、血のつながった親が人間だから人間の子とするか、バケモノに育てられたからバケモノの子とするかと。まあ、別に選ぶ必要はないと思う。思うけど、アイデンティティーって生きるうえでの軸になったりもするから、難しいところです。
例えば、幼い頃の私はアイデンティティーというものを意識したことがなかったんですが、海外に出て以降、日本人としてのアイデンティティーを強く自覚するようになりました。「自分は日本人である」というのは、海外にいる自分にとっては大事なことだったんだなって。
そういう、自分が何者であるかみたいなことって、普段意識することはほとんどないですけど、自分自身の行動だとか考えだとかを支えるうえで必要不可欠なものなんだと思います。それがないとすべてがブレブレになるというような。
自認がバケモノの子であっても、人間の子であっても、それとも「どちらの子でもある」ということでも。このどれだったとしても、九太の中で答えは決まっていた。だから、時にブレてしまっても、最終的には真っ直ぐ立てる。対する一郎彦は自分のアイデンティティーが揺らいでいたがために、こんなことになってしまったのだと思います。
アイデンティティーの問題は根が深いですね。
九太の本名は「蓮」ですけれど、九太にとっては「九太」でいる自分がありのままだったということなのかもしれません。
映画「バケモノの子」が好きな人におすすめの作品
映画「バケモノの子」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- グスコーブドリの伝記(2012)
- すずめの戸締まり(2022)
- ペンギン・ハイウェイ(2018)
- メアリと魔女の花(2017)
映画「バケモノの子」が観られる動画配信サービス
※記事執筆時点での情報です(2025年12月02日)。レンタル作品等も含まれます。
| Netflix | U-NEXT | Amazon Prime Video | Hulu | Ameba TV | FOD |
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まとめ:サクッと観られるアニメ
例えばアイデンティティーの問題だとか、それなりにメッセージ性を含んでいそうな映画ではありましたが、基本的にはエンターテインメント性が高く、サクッと観られる内容になっていました。
楓の登場は若干イラッとすることもあるけど(笑)、それ以外は結構楽しめた。九太と熊徹の関係がとてもいいですね!
Rotten Tomatoes
Tomatometer 90% Popcornmeter 88%
IMDb
7.6/10
Filmarks
3.7/5.0


