「口笛はなぜー、遠くまで聞こえるのー」
日本には知らない人はいないというぐらい有名なアニメのOPです。「子どもに見せたいアニメ」と言われる作品ですが、原作は海外の児童文学。
本場のスイスで撮影された「ハイジ アルプスの物語」は一見の価値あり!
作品情報
- 作品名:ハイジ アルプスの物語(原題:Heidi)
- 上映時間:111分
- ジャンル:ファミリー/アドベンチャー
- 製作国:スイス/ドイツ
- 公開年:2017年
あらすじ
アルプスの山の大自然に囲まれ、頑固だが優しい祖父と暮らす少女ハイジは、ある日、大富豪のお嬢様クララの話し相手として都会のフランクフルトへ連れて行かれる。足が悪く車椅子生活を送っているクララは、明るく元気なハイジに励まされ、次第に元気を取り戻していくが、一方でハイジは祖父のいるアルプスの山が恋しくなり……。
(引用元:映画.com「ハイジ アルプスの物語」)
こんな人におすすめ!
- 今、圧倒的に欲しているものは元気だ!
- 癒やし、求ム……
- アニメ「アルプスの少女ハイジ」のファンです
- 原作を読んだことがある
キャスト・スタッフ
- 監督:
– アラン・グスポーナー(Alain Gsponer) - メインキャスト:
– アヌーク・シュテフェン(Anuk Steffen)⇒ ハイジ(Heidi)役
– ブルーノ・ガンツ(Bruno Ganz)⇒ アルムおんじ(Alm-Öhi)役
– イザベル・オットマン(Isabelle Ottoman)⇒ クララ(Clara)役
– クィリン・アグリッピ(Quirin Agrippi)⇒ ペーター(Peter)役
– カタリーナ・シュトラー(Katharina Schüttler)⇒ ロッテンマイヤー(Rottenmeir)役
– ペーター・ローマイヤー(Peter Lohmeyer)⇒ セバスチャン(Sebastian)役
「ハイジ アルプスの物語」注目ポイント
「ハイジ アルプスの物語」の原作「アルプスの少女ハイジ」は、1880年代にスイスの作家ヨナンナ・シュピリが執筆した児童文学。それから100年以上が経過する現在でも、世に名を残す傑作として知られています。
厳選された俳優陣
驚くべきことに、主人公のハイジを演じたアヌーク・シュテフェンとペーター役のクィン・アグリッピは撮影時、まったくの素人だったと言います。
理由は、役柄的にこの2人はスイスジャーマンを話せなければならなかったから。
アルムおんじ役のブルーノ・ガンツはスイスジャーマンを学び、クララ役にはプロの子役を採用したそうです(※1)。
子役の演技力
先述のとおり、演技に関してはハイジとペーターはずぶの素人。しかも子役。にもかかわらず、なかなか良い仕事をしてくれるんですね。
ペーターの知らない人に対する警戒心や不愛想な感じもうまく表現されているし、ハイジのつらい環境にありながらも強く明るく生きていく性格もそのまんま。
加えて、さすがプロの子役というべきか、イザベル・オットマンも見事難しい役どころのクララを演じきっています。
登場人物たちのイメージ
アラン・グスポーナー監督はインタビューの中で、「(『アルプスの少女ハイジ』の)高畑監督のアニメへの影響やオマージュはあるか」との質問に、
ヴィジュアル面で多くの影響を受けています。私の中のハイジの姿は、髪が短くていつも笑っていて、高畑監督のアニメのイメージそのものです。キャスティングをしている時に、あらためて気付いたのですが、ペーター、ロッテンマイヤーさん、おんじにしても、自分の中にあるのは、すべて高畑監督のアニメのキャラクターでした。
と答えています。
本作を観ればわかるのですが、どのキャラクターも日本人が思い浮かべるペーターやハイジのイメージとそっくり! 違和感がなさすぎて、インタビュー記事を読むまでは原作がスイス発祥だったことをすっかり忘れてしまっていたぐらいです。
スイスの児童文学を日本でアニメ化し、スイスの実写版映画作品がそれに影響を受ける。逆輸入みたいな構図で面白いですね。
撮影場所へのこだわり
スイスといえば美しい湖畔や木々の生い茂った草原――そう、まるで映画「サウンド・オブ・ミュージック」のような光景を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
もちろん本作の要所要所で映される光景が素晴らしいことに変わりはないのですが、とはいえ、グスポーナー監督はできる限り原作に忠実にロケ地を選びたかったとのことで、作中では岩がごつごつを頭を覗かせていて、穀物も育たないような厳しい自然環境が表現されています(※1)。
そこを走り回るハイジ。それが何度つまづいても折れない、元気で前向きな彼女らしさです。
当時の社会情勢
最後、ハイジは自分の夢を口にします。でも、それは原作ともアニメとも違う映画オリジナルのシーン。
同年代の子どもたちには笑われてしまいますが、当時の社会情勢を考えるとある意味当然のことなんですね。1880年代といえばまだまだ社会の中で女性の立ち位置が弱かった時代。
そんな中、ハイジは自身の夢(それも他の人とは少し違う)をはばからず口にするだけでなく、作中では常に自由奔放に自分の意思にしたがって行動しています。「これからは女も好きなように生きていい」そんな意図が込められていそう。
なお、ハイジが夢を口に出したのは原作の作者への敬意を払うためでもあったようです(※1)。
「ハイジ アルプスの物語」を観た感想
ハイジ役のアヌーク・シュテフェンが可愛すぎる。
素人じみた(実際素人なんだけれども)感想を述べれば、もうその一言に尽きます。
垢抜けないながらも素朴な愛らしさを惜しみなくあふれさせ、「ああ、うんうん、わかるわかる。メロメロになっちゃうよね……!」と同居開始早々デレを発揮したアルムおんじに共感の嵐(こればかりは2時間も尺がないので仕方ない)。
でも、この素朴さももともとは素人だったと聞いて納得。むしろ素人だったからこそ、真っ直ぐで勢いのある演技ができたのではないかなと思うところです。
あと、じっくり観察してほしいのはペーター。表情から雰囲気から仕草から、なにからなにまでアニメ版ペーターにそっくりです。もちろん顔も。
子役2人にも撮影前に高畑監督の「アルプスの少女ハイジ(アニメ)」を観てもらったらしいので、その影響も少なからず関わっているのかもしれませんが、それにしたって似すぎです。
2時間弱という映画ならではの制限がありながらも、ペーター、ハイジ、クララ、アルムおんじなど主要キャラたちの成長を見事に描き切った本作。
足が不自由で孤独なクララが一番難しい役どころかと思いきや、実は自身の感情をうまく伝えられない意固地で子どもっぽいペーターも、強さだけでなく孤独や寂しさを併せ持つハイジも、“人間嫌い”のアルムおんじだってかなりレベルの高い演技を求められたのではないでしょうか。
それに、ハイジの明るさに当てられて、アルムおんじをはじめとするセバスチャンやロッテンマイヤーといった“大人たち”の感情、行動が変わっていくのも見どころのひとつ。
子どものころに「早く大人にならないかな」と思うことは多いものですが、いざ大人になってみてわかるのは「大人も人間なんだよな」ということですよね。当たり前だけれど。
だから大人には大人の、子どもには子どもの事情があって、たとえハイジの過去がどれほど“可哀想”なものであれ、大人たちもそれぞれの大事なものを守るために必死だったり、憐れみを覚えつつ、ハイジのことは後回しにしなければならなかったり。
アニメ版に負けず劣らず、観る年齢によってだれに感情移入するのか、そしてストーリーをどのように読み解くのかが変わってきそうな作品です。
頭を空にして楽しめる
注目したい点や歴史背景を鑑みて考えさせられる部分が多く見受けられる本作ですが、とはいえ、本質は子ども向けのほんわかストーリー。なにも考えずただのエンターテインメントとして家族で楽しめるのも魅力のひとつです。
ハイジ(もしくはアヌーク・シュテフェン)には、周囲の人たちを笑顔にしてくれる力がありますよ!
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。