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短編集「ジャイロスコープ」伊坂幸太郎著|あらすじ・感想

ジャイロスコープ_タイトル 短編集


ジャイロスコープ (新潮文庫)

伊坂幸太郎さんがデビュー15年目という記念すべき節目に発行した、初の文庫オリジナル短編集。相変わらず、伊坂ワールドが炸裂しまくっています。

最後に収録されている書下ろし作品「後ろの声がうるさい」は読みごたえ満点!

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あらすじ

助言あります。スーパーの駐車場にて“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件の“もし、あの時……”を描く「if」。謎の生物が暴れる野心作「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。

(引用元:ジャイロスコープ裏表紙)

こんな人におすすめ!

  • ミステリーが好き
  • 作中の会話はテンポが良くなくっちゃ!
  • 突拍子のない話でも素直に受け入れられる
  • 考えながら理解したい
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「ジャイロスコープ」注目ポイント

収録されている話のほとんどは、文芸誌や小説誌などで発表されたものです(※1)。最後の「後ろの声がうるさい」のみ、書下ろし作品となっています。

※1:本書収録に際し、改稿を行った。

丁寧かつ細かい伏線回収

伊坂さんの話ってどれも大変面白いものばかりなんですが、短編ともなると特に、そこかしこに張られた伏線が難解すぎてわかりにくかったりするんですよね。本書もその代表格と言えると思います。

正直、本書においては相応の読解力が求められるかもしれません。

時系列がバラバラだったり(時系列がバラバラだという事実すら、終盤になってわかる)、バタフライエフェクト的に、まったく関係ない人のミスが他の誰かを守ったり……。

伏線といっても、話によっては「あるのか? ないのか?」程度の微々たるものだったりするので、おそらく、好き嫌いに分かれる短編集かと思われます。

伊坂ワールド(空想と現実の融合)

伊坂ワールド炸裂!

伊坂さんが描く作品の特徴として挙げられるのは、まずなんといっても空想を現実としてしまうところ。例えば本書に収録されている「ギア」では謎の生物“セミンゴ”が登場するわけですが、実際にそんな生物が存在するわけではありませんよね。

でも、「ギア」の世界では当たり前のように“セミンゴ”がいて、暴れまくっている。通常であれば違和感を覚えるところですが、伊坂さんの手にかかれば、“空想”を“現実”にしてしまうことができるんです

書下ろし短編「後ろの声がうるさい」

「浜田青年ホントスカ」や「ギア」、「if」などの作品とは違い、本書に収録された他6作品のまとめといった意味合いに近い短編です。

ちなみに、本書に収録されている7作品は下記のとおり。

  • 浜田青年ホントスカ
  • ギア
  • 二月下旬から三月上旬
  • if
  • 一人では無理がある
  • 彗星さんたち
  • 後ろの声がうるさい

それぞれがそれぞれにまったく異なったジャンルの作品で、最後に「後ろの声がうるさい」できっちりしっかりまとめ上げているのはさすが伊坂さんとしか言いようがありませんね。

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「ジャイロスコープ」を読んだ感想

「後ろの声がうるさい」以外の6作品はそれぞれ独立した短編なので、物語としてのつながりはありません。1作品1作品、違ったベクトルで面白いのが魅力の本書。ぜひ読んでみて!

浜田青年ホントスカ

「助言あります」、「協力いたします」。

まず、相談屋ってなんだって話ですよね。これも伊坂さんらしい“空想と現実の融合”です。ありそうでない空想的な設定だけれど、読者は不思議と納得してしまう。

はっきり説明されているわけではありませんが、タイトルの「浜田青年ホントスカ」は、「人生本当スカばっかり」と浜田青年の口癖「本当っすか」から来ているのかなと。

これもまた、2転3転する流れが面白いですね。倫理観丸無視なのに、それはまあ置いといて、と思えるのがすごい。

ギア

“セミンゴ”ってなんだ。なんなんだ。

作中で容姿や能力の説明がなされていく中で、読者としてその姿を想像するわけですが……。ひとつまた情報が手に入るたびに、「ああ、そういうことね!」「そっちか!」と頭の中でパーツを組み立てていく作業が楽しい短編。

途中、「イギリスのロックバンドが“my metallic semingo”という曲を歌った」との表記があり、あまりに当たり前のようにスルーされるものだから、思わず本当にそんな曲があるのかと調べてしまいました。たぶん、ない。

他にも、たった数十ページの中でセミンゴに関する情報がこれでもかというぐらいに出てきます。荒々しいタッチで描かれた作品ではあるけれども、もしかすると他の6作品(「後ろの声がうるさい」除く)の中では一番わかりやすいかもしれません。

ちなみに、セミンゴはシリーズものです。

二月下旬から三月上旬

個人的に、一番理解しづらかったのがこの作品。

ただただ難解。

「ギア」が動の物語だとしたら、「二月下旬から三月上旬」は静の物語です。いい意味で受け身的、とでも言ったらいいのでしょうか。

どの時代のどの日も、「戦前」で、「増税前」だ。どちらも終わりがない。

(引用元:ジャイロスコープ「二月下旬から三月上旬」P136)

こうあるように、戦争の話が出てきます。

この戦争が時系列を紐解くキーのひとつになっているんですね。短編なのに、読み進めるにしたがって人ひとりの人生を見届けたかのような満足感を得ることができます。

伊坂さんいわく、

時間の経過をいじくって、多重人格ものをからめてみたんですが、

(引用元:ジャイロスコープ「十五年を振り返って 伊坂幸太郎インタビュー」P292)

とのことです。

if

もしあのときこうしていれば……。

無駄なことだとわかっていても、人はついたらればを考えてしまうものです。

内容はバスジャック事件についてですが、こういう類の“もし、あの時”話って、ハッピーエンド、バッドエンド、両方考えられると思うんですよね。でも、どちらにしろ結末は予想しやすいっていう。

ところが、ここを裏切ってくるのが伊坂ワールド!

伏線、というより、伊坂さんの思うがままにミスリードされた感が半端ない。してやられた、でも痛快! と思える作品です。

一人では無理がある

先述のとおり、バタフライエフェクト的に、とある人のミスからめぐりにめぐって他の誰かが救われるというお話。やはり伊坂さんって、どう見ても関係ない人たちの間に新しい接点を作り出すのが本当にうまいですよね。

とはいえ、伊坂さんの話の作りかたや構成のしかたを知っている人からすれば、この程度のファンタジックな話は慣れ親しんだものかと思われます。

どちらかといえば、伊坂ワールド初心者におすすめしたい作品。突拍子のない展開ではあるんですが、割とすんなり受け入れやすい設定です。

彗星さんたち

文体って不思議なもので、本を読めば作者が男性なのか、それとも女性なのか、だいたいわかったりするものなんですよね(もちろん、その限りではありませんが)。

でも「彗星さんたち」――この作品においては、まるで女流作家が書いているかのように柔らかな文体が使われています。それがまた作品を通して優しい印象を与えていて、少しユニークな登場人物たちを応援したくなる。

他の作品のように伏線じみたものはあまりありませんが、エンターテインメントとして楽しめるお話です。「誇りを持って働く人たちの格好良さ」を描いています。

後ろの声がうるさい

上記6作品のキャラクターたちがそれぞれ登場します。

こういうのって、こう、昔観ていたアニメやシリーズものの映画の主人公級キャラが、新シリーズの最終回で一挙集結! みたいな。とりあえず、気分が盛り上がりますよね。

例えば、「浜田青年ホントスカ」からは稲垣さん、「ギア」からはまさかのセミンゴ、「二月下旬から三月上旬」からは坂本ジョンなど。他にも、「if」のバスジャック事件の真相が明らかになったり、「一人では無理がある」の話が出てきたりします。「彗星さんたち」ももちろん登場!

すべての話を網羅しているだけでなく、伊坂さんらしくしっかり丁寧に伏線を張って、気持ちのいい終わりかたをしてくれました。

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インタビューまで見逃せない

「後ろの声がうるさい」で完結……かと思いきや、そのあとの「十五年を振り返って 伊坂幸太郎インタビュー」も実に読みごたえがあります。

それぞれの物語の裏話だったり、各話に込めた思いだったりを赤裸々に語ってくれていて、作品だけではなかなか読み解けない伊坂さんの人間性に触れることができますよ。

※本記事の情報は2020年11月時点のものです。

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