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絵本「思い出した訪問」エドワード・ゴーリー著|あらすじ・感想

思い出した訪問_タイトル 絵本


思い出した訪問

「不幸な子供」や「ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで」など、一見おどろおどろしくて残酷な絵本を描くことで知られるエドワード・ゴーリー(Edward Gorey)。

数ある作品の中でも比較的読みやすい作品となっている本書(「思い出した訪問」)ですが、エドワード・ゴーリーらしさはしっかり残っています。

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あらすじ

一度だけ会った奇妙な老人との約束を思い出した女の子がまさにそうしようとしたことで老人の死を知る―人生の悲哀をゴーリー風味に味つけした大傑作。

(引用元:TSUTAYA「思い出した訪問」

こんな人におすすめ!

  • 今までエドワード・ゴーリーの作品を読んだことがない
  • 大人向け絵本を探している
  • 共感? え? 物語にそれは求めてませんけど?
  • 淡々とした話が好き!
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「思い出した訪問」注目ポイント

1965年に出版された本書は、他作品であるような(その限りではないですが)後味の悪さはありません。ちょっとした切なさともの悲しさがダイレクトに伝わってくる、繊細な一作となっています。

“子どもが死なない”安心感

まず、子どもが死なない安心感。これは大きい。

先述の「不幸な子供」や「ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで」といった作品で見られる“理不尽な子どもたちの死”の描写はありません。

作中に出てくる唯一の“死”といえば、少女(ドゥルシラ)が出会った老人が亡くなっていたということを紙の上で知るときのみ。けっして誰かが不幸になるお話ではないので、リラックスして読むことができます。

冒頭から感じる不穏な空気

とはいえ。とはいえ、ですよ。

さすがエドワード・ゴーリー。ただの“切ない物語”で終わらせないあたりが、すごいところです。

まず、冒頭で描かれている黒々とした(あるいは荒々しい)波だったり、巨大な黒い絵画だったりと、雰囲気はなにか仄暗いものを予感させるかのように陰鬱

そもそも、馴染みのない土地で親がドゥルシラ抜きでどこかに出かけてしまうというあたり、しかもその理由をドゥルシラが知らないあたり、不穏な空気がただよっていますよね。

またちょっとした不幸が積み重なっていくのでは、みたいな。

スクリム=ショー嬢の名前

もとよりエドワード・ゴーリー作品の中でありきたりな個人名が使われることはあまりないように思うのですが、本書で出てくるスクリム=ショー嬢はなおのこと不思議な名前です。

と、いうのも、スクリム=ショー嬢の表記は「Miss Skrim=Pshaw」。そして、スペルこそ違うものの、英語で「scrimshaw(発音:スクリムショー)」とは「(船乗りが長い航海中に貝殻・鯨骨などに慰みに施した)細工」を意味する単語です。

このお話は主人公のドゥルシラが船で外国に行く(=長い航海)ところからはじまるので、意味深な感じがしますね。

語り手の視点

三人称で語られていくにもかかわらず、基本的には全部ドゥルシラ視点でストーリーが展開されるのも、面白いところ。

たとえば、ふとした表紙にクレイグ氏(老人)が靴下を履いていないことに気がついたり。それから、クレイグ氏とスクリム=ショー嬢の話を聞いて「いろんなことをなしとげた大勢の人の名を……」と言っていたり。

これもおそらく、ドゥルシラからしたらまったく興味のないことだったがゆえに、“いろんなことをなしとげた大勢の人”とひとくくりにされてしまったのでしょうね。

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「思い出した訪問」を読んだ感想

一度だけ出会った老人との“ある約束”を思い出し、けれどもそれがきっかけで老人の死を知ってしまうという、一見シンプルなストーリー。

なのに、どこか含みを持たせるというか、暗雲が立ち込めたような雰囲気なのに、ドゥルシラが真実を知ったときの切なさやもの悲しさといった悲痛な感情がひとつひとつ切り取られて、ひしひしと伝わってくるんですね。

ところどころルビが振ってあるので、子どもにも読める絵本だとは思うのですが……。

内容はどう見ても大人向け

とりわけ難しいわけではないですよ。ストレートに受け取るのであれば、“ただのちょっぴり切ない話”でいいと思います。でも、大人になったからこそ「そうかもな」と思うところがある。

たとえば、一度会っただけの老人の存在を、大人になってからなんの脈絡もなく思い出す――本として読んでいると突然の(あるいは淡々とした)展開すぎて「ん? どういうこと?」と思ってしまいがちですが、現実として考えると、なにひとつ不自然なことはありませんよね。むしろ、自然。

だって、子どものころの思い出って、ふとした瞬間によみがえってきたりするものではありませんか? きっかけは、あったり、なかったり。

それがドゥルシラにとっては老人との出会いであり、別れだったんでしょう。

老人はもしかしたらドゥルシラとの約束が果たされるのを待っていたのかもしれないし、一方で、約束を子どもの遊び程度に思っていたかもしれない。だれもが経験したことだと思いますが、子どもが「大事件だ!」と思うようなことでも、大人にとってはそうでもないということは多いですからね。

大人と子どもの感覚の違いがよく表現されているのも、本書の特徴のひとつでしょう。

たとえば、外国の料理を奇妙と言ったり、階段を“はてしなく続いている”と感じたり、見知らぬ土地で過ごす時間に対する子どもならではの不安感がこういった細部に映し出されているのでは、と思います。

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人を選ばない物語

ストーリ展開そのものについてはややあっさりしているというか、淡々とした印象が見受けられるところですが、人が理不尽に命を落とさないという点では、わりと万人受けするようにつくられた物語になっています。

感情の機微が見事に描写された、珍しく人を選ばない作品です。ちなみに、含みを持たせるのが得意なエドワード・ゴーリー。両親とドゥルシラとの間にもいろいろありそうな雰囲気がただよっているので、それだけでスピンオフ的な絵本がひとつつくれそうです。

※本記事の情報は2020年11月時点のものです。

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