
オオカミの家
「オオカミの家」の感想です。
チリ産アニメーション映画(ストップモーション)。
ずっと気になってはいたんですが、たぶん(見放題)配信にはおりてきていなくて、かといってレンタルするのをすっかり忘れていた作品。ザ・面倒くさがり。
で、先日YouTubeで3日間限定公開されていたのでテンション爆上がりしました。観たよ! 最高でした。
本記事は2025年09月26日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
オオカミから逃げた先でも結局は繰り返す。
作品情報
タイトル | オオカミの家 |
原題 | La casa lobo |
ジャンル | アニメーション、ホラー、ファンタジー |
監督 | クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ |
上映時間 | 74分 |
製作国 | チリ |
製作年 | 2018年 |
公開年(智) | 2018年 |
レイティング | G |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
チリ南部にあるドイツ人集落(コロニー)で暮らしていたマリア。マリアは美しく、動物にも優しかったが、ある日、ブタを逃がしたとして厳しい罰を受けることになってしまう。それに耐えきれなかったマリアはコロニーから逃げ出した。山の中で2匹のブタと出会い、名前をつけて共に暮らし始める。しかし、やがてマリアの耳に彼女の名を呼ぶオオカミの声が届くようになり――。
主な登場人物
(敬称略)
マリア
(声:アマリア・カッサイ)
チリ南部にある山々に囲まれたドイツ人集落(コロニー)で生活していた美しい娘。ある日、ブタを逃がしたことで罰を受けるが、それに耐えきれず逃げ出した。逃げ込んだ家で2匹のブタと出会い、名前をつけて共に暮らし始める。
オオカミ
(声:ライナー・クラウゼ)
コロニーを脱走したマリアに呼びかける声。
映画「オオカミの家」の感想
映画「オオカミの家」の感想です。以前、SNSで話題になっていた時からずっと気になっていた作品。思った以上に面白かった!
コロニア・ディグニダ
本作のモチーフとなったのは、チリにかつて実在したコミューン「コロニア・ディグニダ」。
正直、この情報を知っているか否かでこの作品に持つ印象が変わってくると思いますね。というか、何も知らない状態で観ると、たぶん「なんのこっちゃ」ってなるお話。それぐらい抽象的。
簡単にでも調べて(といっても、私もWikipediaぐらいしか読んでいないんですが)から観ると、この作品に対する受け取り方が変わります。ただただ怖い。
ちなみに、この「コロニア・ディグニダ」に関する作品は他にもあって、機会があればそちらも観てみたいなと思う程度には興味がそそられる内容でした。抽象的だけど(二度目)。「コロニアの子供たち」(2021)や、エマ・ワトソン主演の「コロニア」(2015)なんかがそうですね。
あの人を彷彿とさせるストップモーション・アニメ
また、本作を観始めてまず思ったのは「ヤン・シュヴァンクマイエル監督っぽい!」ということでした。ストップモーション・アニメだからというわけじゃなくて、なんていうか、こう、人を絶妙に不快にさせる雰囲気(※褒め言葉)というか。
本ブログでも、以前「オテサーネク 妄想の子供」(2000)の感想を書いたりしましたが、人を嫌な気持ちにさせるのが実にお上手で。本作もあの感じに似ていました。何がというわけじゃないんだけど、観ているだけで不快になるというか、不安になるというか。
ちなみに、本作の公式サイトには「アリ・アスターが魅了されたストップモーション・アニメ!」と書かれていて、さらには、
レオン&コシーニャは、まぎれもなく
ヤン・シュヴァンクマイエルとクエイ兄弟の後継者だ。
『オオカミの家』のような作品が作られたことは、
過去に一度もない!
― アリ・アスター(引用元:『オオカミの家』公式サイト)
とのコメントまで。
アリ・アスター監督と言えば「ミッドサマー」(2020)や「ボーはおそれている」(2023)などで知られていますが、あれも不快になるというか、観ていると情緒不安定になるような、そんな雰囲気がありました(なお、私は「ボーはおそれている」を初めて観た時、だんだん不安になってきていったん鑑賞を中止したという過去があります)。
そのアリ・アスター監督に「すごい!」と言わしめる本作。
なるほど納得の出来でした。
3匹の子ブタ
で。
おそらく「コロニア・ディグニダ」の比喩であろう「コロニー」から脱走し、偶然見つけた家屋に(勝手に)居座り、そこで2匹の子ブタに出会うマリア。そんなマリアに呼びかけるオオカミ。
と、こういう設定は「3匹の子豚」を彷彿とさせますね。
「3匹の子豚」のほうでは、母親が3匹の子豚たちに自活をさせるというふうになっていましたが、本作の主人公マリアも自分で生活していかなければならなくなった。つまり、オオカミからするとマリアも子ブタのうちのひとりなんだなあと。3匹目の子ブタ。
そして、逃げ出したマリアは自由になったけれど、結局どうなったのかというお話でした。自由にはやっぱり責任が伴うし、「思っていたのと違った」という場合なんていくらでもあるでしょうしね。家を出てから親のありがたみを実感するみたいな。そう思うと、あのオオカミはオオカミでもあり、(「3匹の子ブタ」で言うところの)母親でもあったのかもしれない。
でも、考えようによっては、マリアは母さんブタであるなとも思う。「3匹の子豚」では、貧しさのあまり子ブタたちを育てきれず、それぞれ自活するようにと言うわけですから。劇中のマリアも、適当な家に勝手に住み着いているわけで、自立できるだけの能力や資産があるわけじゃないので、それなりに貧しい暮らしを強いられているはず。
オオカミに狙われる子ブタでもあり、出会った2匹の子ブタにとっては母さんブタでもあるという。そんな感じ。
洗脳とはそういうこと
そもそも、マリアがコロニーから脱走したのはコロニーに嫌気が差したから。というのも、どうやらコロニーで飼っていたブタを逃がしてしまったらしく、そこで(厳しい)罰を受けるのが嫌だったということのようなんですよね。
まあ、それはわかる。
ただ、マリアは「外は危険だ」などと言い子ブタたちを家から出さないようにしていたり、結局、コロニーで自分がされていたようなことを子ブタたちにしてしまっている感じでした。脱走するということは、マリア自身、本来はコロニーから出るのを許されていなかったということでしょうし。
無意識のうちに、マリアが(コロニー、またはオオカミの)洗脳下にあったことがわかります。
ふと、虐待は連鎖するという言葉を思い出しました。虐待を受けて育った子どもは、大人になり自分の子どもにも虐待をするようになってしまうという。当然、全員がそうというわけじゃないし、中にはその残酷な連鎖から抜け出せる人もいるのでしょうけれど。
「自分がされた時は嫌だと思ったのに、無意識に似たようなことを子どもにしてしまう」という人もいるだろうし、「そもそもそれが当たり前だと思っていた」と、無意識にその環境を引き継いでしまう人もいるだろうなと。
マリアもそんな感じで、コロニーの「厳しさ」を嫌だと思っていたけれど、それが当たり前の環境だったから「中に閉じ込める」という選択肢が出てきたのだと思う。例えば、家庭内で暴力にさらされてきた子どもが、友達と喧嘩をした時に、普通なら「話し合いをしよう」と思うべきところで、「殴る、蹴る」という選択肢を入れてしまうみたいに。マリアの中には「決して外に出さない」という選択肢があったのだなあ。
オオカミの声
あと、劇中で強烈に印象に残ったのは、マリアを呼ぶオオカミの声でした。
なにあれ、めっちゃ怖い。
「マーリアー」って、ねっとりじっとりした声。執拗に追いかけてきて、マリアを手放さない。「逃げられないんだ……」と諦めにも似た気持ちを抱かせてくるような。
言ってみれば、家の中でちょっと姿が見えなくなったペットを呼ぶときのような声なんだけれど、状況が状況なだけに、とてつもなく怖く聞こえるんですよね。たぶん、マリアが逃げたがっているという前提があるからだと思うんですが。
なににせよ、オオカミの声を演じたライナー・クラウゼ氏、GOOD JOBです。本作に圧倒的不穏さを与えていました。
映画「オオカミの家」が好きな人におすすめの作品
映画「オオカミの家」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- イヌとイタリア人、お断り!(2022)
- ストップモーション(2023)
- ミツバチのささやき(1973)
映画「オオカミの家」の配信サイト(サブスク)
※記事執筆時点での情報です(2025年09月26日)。レンタル作品等も含まれます。
Netflix | U-NEXT | Amazon Prime Video | Hulu | Ameba TV | FOD |
× | × | ○ | ○ | × | ○ |
まとめ:好き嫌いには分かれそう
まず、「コロニア・ディグニダ」が元ネタであるという前提を知らないと、そりゃあもう退屈な作品という印象になりそう。そのうえ、特別何か重大なことが起きるわけでもないので、「中だるみー!」って感じにもなりそうでした。
ヤン・シュヴァンクマイエル監督が作る作品とか、ああいったタイプのストップモーションが好きかどうかでも意見が分かれそうなところです。個人的にはとても好みでした◎。
Rotten Tomatoes
Tomatometer 96% Popcornmeter 76%
IMDb
7.5/10
Filmarks
3.7/5.0