女神の継承
ジャパニーズホラーならぬ、アジアンホラー。
じっとりした不気味な怖さがありつつも、ジャンプスケア要素もしっかり取り入れている陰湿な感じ(褒め言葉)のホラーでした。
親と観ると気まずくなるシーンががっつり含まれているので要注意。
本記事は2024年04月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
ワンフレーズ紹介
救いを求めるな!土着の神様が良心的とは限らない。
作品情報
タイトル | 女神の継承 |
原題 | 랑종/The Medium |
ジャンル | ホラー |
監督 | バンジョン・ピサンタナクーン |
上映時間 | 130分 |
製作国 | タイ、韓国 |
製作年 | 2021年 |
レイティング | R18+ |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
土着の女神「バヤン」に取り憑かれた霊媒師ニムを取材するため、タイ東北部にある小さな村を訪れたドキュメンタリーチーム。祈祷師ニムの一族は霊媒として代々その身にバヤンを宿し、その役割を継承してきた。ある日、ニムの姪であるミンが深刻な体調不良に見舞われているとして、心配したミンの母親(ニムにとっては姉)が、ニムに相談を持ち掛ける。ミンが新たな継承者として選ばれたのではないかというのだ。
▼DVD▼登場人物
(敬称略)
ミン(演:ナリルヤ・グルモンコルペチ)
祈祷師ニムの姪。人材派遣会社で働いている若い女性で、精霊や女神など、超自然的な現象に対しては懐疑的な様子。体調不良に襲われたことをきっかけに、人格も変わっていく。
ニム(演:サワニー・ウトーンマ)
ミンの叔母で、祈祷師。代々バヤンを宿してきた家系のひとりで、継承者として選ばれた。
ノイ(演:シラニ・ヤンキッティカン)
ミンの母親で、ニムの姉。ミンが原因不明の体調不良に見舞われているのを見て、バヤンに後継者として選ばれたのではないかと、妹のニムに相談する。
マニット(演:ヤサカ・チャイソーン)
ニムの兄で、ミンにとっては叔父。
サンティ(演:ブーンソン・ナクプー)
ニムの同業者(祈祷師)の友人。
映画「女神の継承」の感想
映画「女神の継承」の感想です。ひと昔前は世界で「日本の映画」といえば「クロサワ」か「ホラー」かでしたが、今やアジアンホラーもめちゃくちゃ怖い。
「哭声/コクソン」の続編として構想
本作は、韓国発ホラー「哭声/コクソン」でメガホンを取ったナ・ホンジン監督が原案・プロデュースを担当した作品です。
そう、ナ・ホンジン監督の原案・プロデュース(二回目)。
なぜここを強調したかというと、「そりゃ(「女神の継承」だって)良い作品になるに決まってるやん!」と思ったからというのもそうなんですが、当初はどうやら、「哭声/コクソン」の続編として構想されていたらしいからですね。
当初は『哭声/コクソン』の続編として構想されており、ファン・ジョンミンが演じた祈祷師・イルグァンの物語をナ・ホンジン監督が思いついたことからプロジェクトがスタート。その構想は、タイの祈祷師をモチーフとすることで本作に受け継がれているという。
(引用元:『哭声/コクソン』の続編として構想された祈祷師スリラー『女神の継承』日本公開が決定 ナ・ホンジン氏が原案・プロデュースを担当|SPICE)
「哭声/コクソン」でもそうでしたが、祈祷シーンが本当に好きです。
調べてみると、やっぱり祈祷シーンには一定のこだわりがあったようで、
監督のバンジョン・ピサンタナクーンはタイの祈祷文化を深く知るため、1年かけて30人以上の祈祷師と会い、専門家の力を借りながら本作の世界観を作り上げた。
(引用元:観客を別次元へと導く、祈祷ホラー「女神の継承」儀式シーンのメイキング公開|映画ナタリー)
とのこと。
作中の祈祷シーンで使われている小道具は、事前に行った取材で目にしたものばかりだとか。
▼Blu-ray▼モキュメンタリー形式のPOVホラー
本作を観てまず思ったのが、
モキュメンタリー形式にして大正解!
ということ。
モキュメンタリーとはつまり、内容そのものはフィクションであるものの、あたかもドキュメンタリーであるかのように見せかけた作品ということです。
本作も、撮影班の人たちが、祈祷師のニムを取材に行くという体で話が進んでいきます。
なので、モキュメンタリーであり、POVでもある。
小さな村の中で親戚付き合いがあるからか、それとも世代の違いか、意外とみんな本音でぶつかり合っていないことが明らかになります。
例えば、一番の被害者であるミン。
母にも叔母にも何も言わないけれど、撮影班の人たちが取材した感じを見ると、精霊やら女神やら、そういった超自然的な存在(現象)については懐疑的な雰囲気でしたね。
世代を経るごとに、信仰心が薄くなっていく。
まあ、当然といえば当然のことなのかもしれません。
昔は村の中だけで簡潔していたことが、ミンをはじめ若者たちはどんどんと外の世界へと出て行き、さまざまな背景を持った人と交流することで自分なりの価値観を身に付けていく。
特に派遣会社で働いていたミンなどは、仕事を求めてやって来る人たちと接する機会が多かったのもあり、「神様(女神)がいるのだとしたら、こんなに大変そうな人たちが溢れ返っているの、おかしくない?」と思ったとしても、不思議ではありません。
現実的な祈祷師・ニム
世界的に見ると、日本人の宗教観ってちょっと特殊ですよね。
「代々葬式は真言宗に則ったものだから仏教徒に違いないけど、家系がそうだってだけで、自分は宗教とかよくわからない」みたいな人が多いんじゃないでしょうか。
変、というのとは少し違うけれども、特に欧米とかではあまり見ないスタイル。
なんなら、宗教に関わる事件などが過去にあったせいで、宗教の話題には抵抗感があるという人も多いのではないでしょうか。日本で「新興宗教」とか言われたら、ちょっと「おっ」って思うよね。
なので、祈祷師とかも微妙に胡散臭く感じてしまう。
でも、本作で祈祷師として出てくる中心人物のひとり、ニム。
彼女は代々女神「バヤン」の依代となっている家系の後継者になったわけだけど、取材した内容を見る限り、しっかり地に足がついた、現実的な思考の持ち主であることがわかります。
なににでも対応できるとは言わず、例えばガンなどの病気を治癒するのは無理だとはっきり線引きしていました。
他の作品に出てくる祈祷師と違うのは、このあたりだなと感じましたね。
精霊や女神の影響力が及ぶ範囲
経血がだらだらと滴り落ちるところから始まり、深刻な体調不良に見舞われていくミンですが、さて、精霊や女神の影響を受けているのはミンやニムといった、依代家系の人たちだけなのか、というところですね。
んなわけなくない?
撮影クルーにしても、思わず「おいおい」と突っ込んでしまいたくなるような描写が多々ありました。
まあね、言っても「撮りたいものを撮りたい人たち」ですから。そりゃあ、自分たちの都合の良いように流れを引き寄せたいところはあるでしょう。
でも、自分たちの身が危険な状況で?
自分たちの仕事にそれほど誇りを持っているんだと言われたら、それまでなんですけども、私にはどうもそうは思えませんでした。
なので、ある種、撮影班たちの人やその他の人々も、精霊や女神の影響を受けていたと考えます。
そうなると、どこからどこまでが影響されての行動だったんでしょうねえ? というのを考えるのがまた面白い。
神様を信じるかということ
私は常々考えていることがあります。
そもそも神様の基準が人間と同じなわけないよね?
と。
善悪の基準って、まず国によっても違いますよね。
なのに、神様と人間が同じであるはずがない。
ミンの人生が壊れていくかのような体調不良も、女神バヤンの後継者に選ばれたからではと言われると、「なんか……バヤンって……(遠い目)」となりますが、バヤンの選出方法には独自の基準があるのかもですし。
それだけで一概に「バヤンは神様だから、ここまで酷いのはおかしい」とは考えてはいけないと思うんですよね。いや、まあ、本当にだいぶ酷いけど。
信仰心が揺らいだから? 信仰心が薄かったから?
「だからバヤンが怒ったんだろう」というのも、人間の価値観で物事を図っているに過ぎない。そういう意味では、バヤンが神様である限り、どんな考えを持っているかなんて代弁は誰にもできないわけですね。
悲惨な目に遭う動物や赤ん坊
ちなみに、動物(ワンちゃん)と赤ちゃんが酷い目に遭うので、苦手な人は要注意です。
赤ちゃんは「あ、今酷い目に遭っている!」とわかるだけで、画角には入りません。あと、ワンちゃんについては、酷い目には遭うものの、(確か)最後のほうに「撮影するにあたり、実際に動物たちを酷い目に遭わせたわけではありません」みたいなテロップが出たと思います。
ホッと一安心ですが、そのようなシーンがあるというのは頭の隅に置いておいたほうがいいでしょう。苦手な人は特に!
映画「女神の継承」が好きな人におすすめの作品
映画「女神の継承」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 哭声/コクソン(2016)
- レック(2007)
- トンソン荘事件の記録(2020)
- ラスト・エクソシズム(2010)
まとめ:部屋を暗くして観たいアジアンホラー
タイの蒸し暑さがこちらにまで伝わってくるような、じっとりしたアジアンホラーです。
「哭声/コクソン」のナ・ホンジン監督が原案・プロデュースを担当しただけあって、しっかりした怖さに仕上がっています。
おどろおどろしい演出はもちろん、ジャンプスケア要素も散りばめられているので、部屋を暗くして観ると怖さ増し増しになりますよ!
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 81% AUDIENCE SCORE 73%
IMDb
6.5/10