怪異と人間の恐怖が対比的に描かれた「怪談喫茶ニライカナイ」。
文章がひとつひとつ懇切丁寧に書かれていて、想像力を刺激するリアルな描写ばかりです。『美しい(ライト)ホラー』が読みたい人におすすめ!
作品情報
出版日 | 2020/7/7 | 出版社 | PHP研究所 |
ジャンル | ホラー・ミステリー | ページ数 | 206ページ |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
おもな登場人物
主人公。怪異にあったことがきっかけで、喫茶店「ニライカナイ」へと迷い込む。以降、『美しすぎる』店主を見つけるために数々の怪異に立ち向かう。
雨宮と同じコンビニでアルバイトをしている女子大生。雨宮と同じく、怪異にあったことがきっかけで喫茶店「ニライカナイ」に迷い込んだ。
喫茶店「ニライカナイ」の店主。漆黒の瞳と烏羽玉の黒髪、中性的な容姿が特徴。蝶々をあしらった着物を着ている。
出版社で働く若者。怪異に出合ったことで浅葱、雨宮と知り合う。以降、雨宮とは協力関係に。お調子者だが真面目な一面もあり、少し無理しすぎてしまうことがある。
あらすじ
東京の臨海都市・綿津岬への引っ越しをきっかけに、怪現象に悩まされるようになった雨宮志朗。ある日彼は、廃墟のような喫茶店「ニライカナイ」に入ってしまう。そこには「お茶のお代に怪談を聞かせてほしい」という風変わりな店主がいた……。店に持ち込まれる怪異の謎が解かれるごとに、人々が怪異に襲われる理由、店主の意外な正体、そして街全体に関わる恐るべき秘密が浮かび上がっていく。文庫オリジナル。
(引用元:「怪談喫茶ニライカナイ」裏表紙)
「怪談喫茶ニライカナイ」の注目ポイント
「『ちょっと怖い』を目指してみました」と言うとおり(本人談)、怖いのが苦手な人でもきっと読めるライトホラー&ミステリー。読書初心者にも読みやすい一作となっています。
読みやすいシンプルなストーリー
基本的に話が入り組むみたいなことはなく、シンプルなストーリーラインとなっています。
話があちこちに飛ぶこともなく、登場人物も少なめ。言葉を言葉のままに理解すればいいので、頭を使わずに読み進めることができる作品。
テーマが『怪談喫茶』ということもあって多少おどろおどろしい描写は入っていますが、漢字さえ読めれば小学生にも受け入れやすい作品なのではないかと。
五感に訴えかける描写
たとえば、
彼が淹れてくれたお茶は、海の香りがした。
お茶を口にした雨宮は、清涼感がさざ波のように身体を駆け巡るのを感じた。(引用元:「怪談喫茶ニライカナイ」P33)
というように、視覚や聴覚、嗅覚などの五感に訴えかけてくる描写が多い印象です。
ストーリー自体はややファンタジーじみたものですが、描写がリアルなので感情移入もしやすい。ただし、怪異と遭遇した際の記述も非常に生々しいので、そこは要注意ですね。
ハッキリしない薄ら寒さ
怪異が怖いのは当然なんですが、作中では怪異とはまた違った恐怖が描かれています。
それは、人です。
都会にあって、街それ自体が独立した場所のようになっている綿津岬。町民同士のつながりが強く、排他的で、独自の文化を持っています。
そんな街で描かれる出来事ひとつひとつが薄ら寒く、正体がハッキリしないおぞましさを感じることになるのです。
「怪談喫茶ニライカナイ」を読んだ感想
物語の運びかたに多少の強引さは否めないものの、非常に読みやすい印象を受けました。
なんといっても物事の描写がとてもきれい。
想像力が爆発しました。
蝶々の着物をまとった美しすぎる店主というのがまた味を出していていいですよね。
ちなみに怪異にあう人は話ごとに違うのですが、そのすべてに雨宮が深く関わってくるので(一ノ瀬の話以外)、雨宮が主人公のように感じられます。
ただし、あくまでも焦点が当たっているのは怪異。
排他的な町民たちとの衝突がありつつ、人が起こした事件に関する謎は解けないままです。うっすら「こういうことだったんじゃないかなあ」と雨宮が考えるだけ。
でも、まあ、そのぼやかした感じがまたいいのでしょう。
喫茶店「ニライカナイ」。
叶うことなら、行ってみたいですね。浅葱に会いたい。
まとめ:夏に読みたいライトホラー
本格的なホラーが苦手な人にも読みやすいライトホラーである本作。得体の知れない不気味さは、夏に読むのにぴったりです。
終わりかたを見て「あれ、これ続きがあるのでは?」と思っていたら、2021年7月には続編が出る予定だそうなので、今後の展開にも期待ですね。
※本記事の情報は2021年5月時点のものです。