児童書「ぼくとニケ」は、子猫の“ニケ”と2人の子どもたちが織り成すハートフルで心温まる物語。
読書感想文の課題になることがある本作は子どもが読むと勉強になるのはもちろん、大人にとっても大事な「何か」を思い出させてくれる一作です。
また、2019年には「第65回 青少年読書感想文全国コンクール」小学校高学年の部の課題図書にも選ばれています。
※本記事の情報は2023年10月時点のものです。
作品情報
タイトル | ぼくとニケ |
著者 | 片川 優子 |
ジャンル | 児童書 |
出版社 | 講談社 |
発売日 | 2018/11/16 |
ページ数 | 226ページ |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
あらすじ
幼馴染みの仁菜が「飼ってほしい」と、玄太のもとに瀕死の子猫を連れてきた。子猫は捨て猫だったらしい。その日から玄太は、仁菜に「ニケ」と名付けられた子猫を家族同然のように可愛がっていくことになる。しばらく学校に行けていない仁菜が、家で飼えない子猫を拾ってきた理由とは……。
児童書「ぼくとニケ」の感想
児童書だと思ってあなどっていると、うっかり泣かされてしまうかも! 泣きたくなるほど優しくて、家族を大事にしたくなる――そんな物語です。
読書感想文になるべくしてなった作品
通しですべてを読んだ感じ、まさに小学校高学年の読書感想文にはうってつけの作品でした。
子どもと動物って、小学生ぐらいの年齢の子どもの読書として考えると、相性がとても良いですよね。
動物を飼い、世話をしていくことで子どもたちが人間として成長していく。児童書や絵本にありがちなテーマではありますが、本作「ぼくとニケ」はそこをさらに深く掘り下げた内容となっています。
思春期ふたりの絶妙な関係
小学校高学年~中学生あたりって、考えてみればとても微妙なお年頃ですよね。
世の中ではそれを思春期とも言います。
ちょうど男女の違いが明確になってきて、それまでは性別関係なく親しくしていたのに、なんだか急にそれが少し気まずいことのように思えるようになる。
それが学校ともなれば、同級生にからかわれることさえあります(理不尽)。
さらに、自我がより強くなってきて、大人の言うことに反論したくなる年頃でもあるでしょう。周囲に対して「恥ずかしい」と強く感じるようになるのもこれぐらいのときでしょうか。
「ぼくとニケ」では、そんな玄太と仁菜の関係が絶妙な距離感で描かれています。
子どもたちの成長
子どもは子どもでも、玄太と仁菜ほどの年齢(小学校5年生)になると理解力はしっかりあるんですよね。だから、多少難しいことに思えても、噛み砕いて説明すれば決してわからないわけではない。
玄太の両親がそれを踏まえて、玄太と仁菜のふたりを「幼い子ども」ではなく、しっかりひとりの人間として考えている感じに、とても好感が持てました。
実際、ニケは仁菜が拾ってきた子猫で、瀕死状態だったのは確かに可愛そうなのかもしれませんが、仁菜は自分の家でニケを飼うことができず、玄太に助けを求めたわけです。
それは一見良いことのように思えますが、自分で飼えないのに可愛そうだからと子猫を拾ってくるその行為は、ある意味無責任と言えるのではないでしょうか。
命の尊さと、責任。
それを学ばせてくれる作品でした。
身近な大人の考えがすべてではないと教えてくれる
子どものころは、自分の親が絶対だと思いがち。
小学生ぐらいの年齢だと、もっとも身近にいる大人は親なのですから、仕方ないことですね。自分の幼いころを思い出しても、結構思い当たることがありますし。
でも、大人になってみてわかるのは……大人だからといって、必ずしも完ぺきではないということです。
仁菜の母親は、家で犬を飼っているのに、仁菜が子猫を拾ってきたときには頑なに「飼えない」と言います。理由は「猫が嫌いで、家でプードルを飼っているから」。
まあ、確かに納得するに事足りる理由といえば理由ですが。
でも、そこで仁菜の意思を尊重する気はあまりなく、「駄目なものは駄目」というふうに、独断的な部分が目立つんですね。
玄太とその家族のように、意見が対立したとき、話し合える関係性であればよかったのでしょうが……残念なことに、仁菜は家族がいても寂しいという孤独感を抱えていた。だからといって、必ずしも仁菜の母親が悪いというわけではなく。
つまり、大人でも、伝え方を間違えたり、適切な行動ができなかったり、時に意固地になってしまったり、はたまたどうしていいかわからなくなってしまったりと、ミスすることはたくさんあるし、それはある意味当たり前なのだろうなと感じました。
まとめ:自由には責任がつきもの
人には「動物を飼う自由」がありますが、それには当然責任がついてきます。
生き物の飼育だけでなく、なにをするにも自由がある反面、自由には責任が伴うことを知っておかなければなりませんね。
「ぼくとニケ」は、テーマ自体はありきたりと言えるでしょう。でも、命の尊さや責任の重さについてなど、そのテーマをもっと深く掘り下げてくれる素敵な作品でした。
あと、元気なニケがとても可愛い。
※本記事の情報は2023年10月時点のものです。