少し前に「Black Lives Matter(ブラック・ライヴス・マター)=黒人の命を守れ」運動がニュースで取り沙汰されました。アメリカを発端として、フランスや日本でも同様のムーブメントが起きています。
中には人種差別的な表現があるとして、クラシック映画の名作「風と共に去りぬ」が配信停止に追い込まれる事態に陥ったことも。
本作においても、「人として生きる」「平等に生きる」とはどういうことか。そんなことを考えさせられる作品です。
本記事は2020年06月に執筆されました(2023年12月更新)。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | 最強のふたり |
原題 | Intouchables |
ジャンル | ヒューマン、コメディー |
監督 | エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ |
上映時間 | 112分 |
製作国 | フランス |
製作年 | 2011年 |
レイティング | PG12 |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
あらすじ
スラム出身の黒人青年・ドリスは、生活保護の申請に必要な(就職活動の)不採用通知を目的に、事故で全身麻痺になった大富豪・フィリップの介護者を探すための面接を受ける。だが、フィリップは彼を採用することにした。生まれも育ちも価値観もまったく違うふたりだったが……。
登場人物
(敬称略)
フィリップ(演:フランソワ・クリュゼ)
不慮の事故により全身麻痺になってしまった大富豪。
ドリス(演:オマール・シー)
スラム出身の黒人男性。生活保護を申請するために(就職活動の)不採用通知が必要なので、フィリップの介護要員としての面接を受けた。
映画「最強のふたり」の感想
映画「最強のふたり」の感想です。スラム出身の青年と大富豪の男性、健常者と障がい者、黒人と白人などさまざまな面で正反対でありながらも、徐々に絆を築いていくふたりの話。
対照的なふたり
あらすじにもある通り、主要人物は介護者を探している大富豪のフィリップと生活保護を受ける目的で面接に落ちるためにやってきたドリス。
もちろん、そのほかにもフィリップとは血のつながらない養子として引き取った娘だったり、その彼氏だったり、はたまたドリスの義家族だったりと、なかなか濃いキャラクターがそろっています。
特に主要キャラであるフィリップとドリスは何もかもが対照的です。
白と黒という肌の色はもちろんですが、例えば経済的余裕(大富豪のフィリップと、貧困家庭に育ったドリス)や家族構成(養女と使用人に囲まれて過ごすフィリップと、義理とはいえ弟や妹がたくさんいるドリス)、身体的問題(全身麻痺のフィリップと、ときに乱暴すぎるほどの健康体であるドリス)、人柄(生真面目なフィリップと、楽観的なドリス)など。
それなのに、変なところでふたりとも臆病だったりするんですね。
その場面や状況は毎回違うんですが、フィリップが臆病風を吹かせているときはドリスが笑い飛ばし、ドリスが臆病になっているときはフィリップが励ますという、まさに「最強のふたり」と言わしめるだけある名コンビです。
対照的だからこそ、けれど互いに完璧にはなれないからこそ、足りない部分を補っていく。欲を言えば、ラストシーンあたりではもう少し感情の描写を丁寧に見せてほしかったな、というところです。
生活保護申請のために不採用通知
面接保護申請のために不採用通知をもらいにいくというあたりは、日本人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、実は海外では結構よくある話です(国による)。
私が以前いた国でもありました。
で、本当に働く気はないけれども、生活保護を申請するために面接を受ける……というドリスみたいなパターンもそこそこある(それが問題になっている)。
いやいや、不正受給じゃん?
まあ、そうなんですよね。
普通に考えて、生活保護というのは病気などで働けない、あるいは働く気があっても仕事先が見つからず、頼る相手もいないからやむを得ずもらうもの。その認識は、ほとんどの国で変わらないと思うんですよ。
ところが、中にはそもそも働く気すらなく、最初から生活保護の申請に辿り着いてしまう人がいるのも確かです。こうなると、ほとんど不正受給のようなもの。
ただ、ドリスの場合は(おそらく)立場がもっと微妙で、黒人、あるいはスラム出身の人間として差別されてきた過去があるから、もはやまともに生きようとも思っておらず、そんなドリスだからさらに周囲の差別感情を煽ってしまい、なかなか仕事にもありつけなかったという感じに見えます。
要は「しっかりお話してみれば、悪い子じゃないんだけど……」という人ですね。
実際、介護のことなどひとつもわからないはずなのに、戸惑いながらもフィリップの面倒を見ていますし、それどころか友人として対等に接していますし。
これはある意味、楽観的であり、知識がないからこその対応でしょう。
普通に面白い内容
ここであえて「普通に」と表現したのは、個人的にずば抜けて「感動した!」「スタンディングオベーションを送りたい!」というほどの衝撃は感じられなかったから。
テーマの割にそこまででもないなと。
まあ、私はもともと映画などで泣くほうではないので、ここらへんは人によると思いますが。
でも、面白いことに違いはありません。やや中だるみしていた感じはありますが、そのだるんとした感じもフランス映画っぽいと言えばフランス映画っぽい(良い意味で)。
とにかく、フィリップと出会ってからのドリスの真っ直ぐさにはこう、胸打たれるものがあります。子どもが頑張っているのを見守る母親のような心持ちになる。
……これが母性本能?(トゥンク)
ある意味スポ根
あえて言葉にするなら、障がい者と健常者であるのにもかかわらず、ドリスもフィリップも真っ向勝負。一歩も引くことなくぶつかり合うのがすごい。
ドリスはフィリップを全身麻痺の障がい者でなく、自分と対等な立場の人間として接します。もちろん、フィリップも。
ドリスのことを黒人でもなく、スラムで育った貧乏人でもなく、自分のほうが裕福だからと下手に侮ることもなく。
ドリスはフィリップを、フィリップはドリスを対等な人間のひとりとして考えているのが印象的でした。ふたりはそのことに関して意識しているわけではないでしょうが、おそらく、これまで「人と違う」ことで多かれ少なかれ嫌な思いをしたことがあるからこその対応だと思います。
互いの尻をたたき合いながら切磋琢磨していく様子は、もはやスポ根といっても過言ではありません。
ベースは実話
本作は実話に基づいたストーリーになっています。
いいですよね。
ドリスの(言い方は正しくないかもしれませんが)無知さゆえの誠実さというか。
一歩間違えれば単なる無礼なお馬鹿さんなんですけれども、差別どころか特別扱いさえしないフラットな物言いが、フィリップにはぴったりハマったということなんでしょうね。
クスッと笑えるコメディー要素
クスッと笑えるコメディー要素を多分に含んでいるのも、この作品の魅力のひとつですね。
全身麻痺の人間が物珍しいあまり、まるで新しい玩具を見つけた子どものようにフィリップの身体で遊んでしまうだなんて、なんとなく日本だと賛否両論飛び交うような気もします。
一応、ブラックジョーク……の一種のような感じなんでしょうかね。
見た人がドン引きするところまで含めての、コメディーということでしょう。
絶対に観たいリメイク版
さまざまな賞を受賞し、世界的に高い評価を得た「最強のふたり」。
これがなんと、2019年にはハリウッドでリメイクされています。おおよそのストーリー展開は似ているものの、登場人物の背景に若干の違いがあったりはしますので、両方観てみるのもいいかもしれませんね。
フランス映画とハリウッド版だとどう違うのか。国による文化背景なども顕著に表れそうな部分です。
ちなみに、タイトルは「THE UPSIDE 最強のふたり/人生の動かし方」です。
映画「最強のふたり」が好きな人におすすめの作品
映画「最強のふたり」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- ドキュメンタリー 最強のふた(2011)
- 思いやりのススメ(2016)
- グリーンブック(2018)
- サンバ(2014)
まとめ:不器用な男たちの真の友情
臆病な性格以外、なにもかもが対照的に見える男たち。生まれも育ちも、生き方も、年齢も人種も、性格さえ違うふたりなのに、なぜかとっても不器用なのが愛しくすら感じられます。
フィリップが求めていたものとドリスが求めていたもの、それがうまい具合にガッチリはまり込んだのでしょう。
互いについて深く知っているわけではないのに、まるで親友のようなドリスの振る舞いが徐々に頑なになっていたフィリップの心を溶かしていく。そんなほんわかした気分を味わえる内容となっています。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 87% AUDIENCE SCORE 71%
IMDb
8.5/10