多くの名作を輩出してきた花とゆめで連載中の「コレットは死ぬことにした」。
タイトルだけでググッと惹かれるものはありませんか?
「死ぬことにした」――殺伐とした文言なのに、とても温かみを感じるような表紙デザイン。ただのファンタジー作品とは馬鹿にできない、人の生死やその生き方について考えさせられる作品です。
また、ハデスはじめ、アフロディーテやポセイドン、ゼウスなど名だたる神々たちも登場するので、神話が好きな人にもおすすめです。
作品情報
出版日 | 2014/7/18 | 出版社 | 白泉社 |
ジャンル | ファンタジー | 作者 | 幸村アルト |
おすすめ度 | ★★★★★ |
あらすじ
薬師コレットは毎日大忙し。 食事してるときも、寝てるときも、朝から夜までお構いなしで休む暇がない。逃げ場がない……。疲れたコレットがとびこんだのは井戸の底!目が覚めるとそこは冥府…。 なんと冥王ハデス様の治療をするはめになって!? 癒しと恋心がつまった薬師コレットと冥王ハデス様の神話ロマンス☆
(引用元:「コレットは死ぬことにした」公式サイト)
「コレットは死ぬことにした」を読んだ感想
ファンタジー作品って、現実にはないとわかっているからこそ想像力(妄想力)を働かせながら読むのが楽しいですよね。それはきっと大人になっても変わらないはず。
子どもでも読みやすい内容になっているだけでなく、大人になってからもまた別の角度で考えさせられる名作のひとつと言える「コレットは死ぬことにした」。必読です!
さすが冥府ロマンス!
あらすじにおいては「神話ロマンス」とされていますが、一部「冥府ロマンス」と造語ができるほどの人気を擁している「コレットは死ぬことにした」。たくさんあるファンタジー作品の中でも、なかなかショッキングなタイトルですよね。
でも内容はまさにキュンとしてしまう王道ロマンス!
そう、相手が冥府(※1)の王様「ハデス」でなければ……。
こちらが冥王ハデス。主人公の相手なので当然といえば当然ですが、やはり美形ですね。とはいえ、こちらは表紙なので作中では冥王らしく真っ黒な服装をしていることが多いです。キラキラしているのは顔だけ。
ちなみにコレットがこちら。青い服は薬師ご自慢のシンボル!
※1:死後の世界のこと。
現代社会に相通じるものがある
あらすじにもあるとおり、本作のはじまりはすべて「コレットが死のうとした」ことにあります。
村でたったひとりの薬師(医師のような役割も担う)としてひたすら走り回る毎日に心身共に限界がきて、衝動的に井戸に飛び込んでしまうんですね。
時代や世界が違えども、なんとなく現代社会を彷彿とさせる展開です。
コレットは幼少期の経験から人に頼ることを知らず、そばに誰がいようとも基本的には自分でこなしてしまう性格。仕事において、自分にできるのにもたついてしまう人を見て、つい「ああ、自分でやったほうが早いわ!」と自分で自分の仕事を増やしてしまっている人はいませんか?
コレットもハデスも、まったく違う人間だけれど根元のところではそんな人。だからこそ惹かれ合い、人の振り見て我が振り直せというように互いに成長していったのかもしれません。
居場所とはつまり役割?
仕事をしているときの自分。そして、素でいるときの自分。
これが両方同じ! という人ももちろんいるかもしれませんが、おそらく少数派でしょう。それは自分だけでなく、他人に対する感情も同じこと。
たとえば、友人Aに話せることでも友人Bには話しづらいかもしれない。友人に話せることでも、恋人には伝えたくないことかもしれない。その逆もまたしかり。
そんな当然のようでいて、意外と日常のシーンでは気付きにくいことを繊細なタッチで教えてくれるのが本作の魅力のひとつと言えるでしょう。
最初こそ薬師としてハデスと出会ったコレットですが、そのうち「支えたい」という気持ちだけでなく、「ちょっと疲れたときに頑張れと言ってほしい」相手になるんです。この展開の描写がまた絶妙でたまりません。
神様たちも続々登場でドッキドキ!
冥王ハデスに愛の女神アフロディーテ、最高神ゼウス、農耕の神クロノス(ハデスやゼウスの父)、海洋王ポセイドン、神々の伝令神ヘルメス、軍神アレス、知恵・工芸・戦略の女神アテナ……。
クロノスから生まれた神々だけでなく、ほかにも多くの名だたる神々が出てくるこのお話はまさに神話パラダイス!
どの神様も個性が強く、「偉そうでとにかく無茶苦茶(コレット談)」――でも、基本的にはどこかひとに対する優しさを感じさせる柱たちばかりです。
単純にコレットが可愛い
少女漫画を読むのであれば欠かせないこと。
それは単純に、主人公の可愛さ。
といっても、コレットはけっして絶世の美女といえるようなタイプではありません。でも、その真面目さとひたむきさ、前向きさ、人懐こさから人に愛されるタイプです。
そんないつでも一生懸命なコレットがたまに落ち込んだり悩んだりするのを影ながら支える、それがハデス。
過去VS未来の考え方
本作を読むにあたり、欠かせないのが「過去」と「未来」。
「将来はどうするんだ?」「今後どうなりたいの?」と未来について考える人は多いものですが、変えられもしない過去を悔むことを推奨する人はあまりいませんよね。
でも、冥王ハデスがいるのは冥府。死者を生前の行いによって天国と牢行きにふるいわける場所です。他方、コレットは薬師として人を救う、いわゆる誰かの未来をつくりだしてあげる仕事をしています。
この相対性がほどよいバランスで描かれているんですね。
生きることと、死ぬこと。それはどういうことで、どうあるべきなのか。そんな単純な疑問について考えさせられます。
死ぬことからはじまる異色ファンタジー
コレットが過労のあまり衝動的に命を絶とうとすることからはじまるファンタジーは、少々王道とは言いがたいかもしれません。だからこそ、ファンタジー漫画好きにはぜひ読んでほしい一作。
「コレットは死ぬことにした」。
タイトルとは違い、ほんわか人情味あふれる名作です。
※本記事の情報は2022年1月時点のものです。