
侍タイムスリッパー
「侍タイムスリッパー」の感想です。
友人に強く勧められていたんですが、結局タイミングを逃したままだったこの作品……。地上派で放送されることになって、やっと観ることができました!
主人公にめちゃくちゃ感情移入した(笑)。
本記事は2025年07月21日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
会津藩士・高坂新左衛門。――これからは斬られ役として今を生きる。
作品情報
あらすじ
幕末の京都にて。会津藩士・高坂新左衛門は密命を受け、長州藩士と刃を交えることになった。戦いが始まったその時、雷鳴が響き渡る。雷に打たれた新左衛門がふと目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。芝居だと知らぬまま迷い込んでしまったセットから追い出され、途方に暮れる新左衛門だったが、江戸幕府が100年以上も前に終わったことを知り愕然とするのだった――。
主な登場人物
(敬称略)
高坂新左衛門
(演:山口馬木也)
会津藩士。長州藩士を討つよう密命を受けるも、刃を交えている最中に雷に打たれ、現代に飛ばされてしまう。目が覚めると時代劇撮影所だった。
山本優子
(演:沙倉ゆうの)
撮影所監督。撮影の最中に迷い込んできた新左衛門を別現場の俳優だと勘違いし、セットから追い出すも、その後再び関わり合うことになる。
西経寺住職
(演:福田善晴)
寺の門前に倒れている新左衛門を発見。以降、新左衛門を記憶喪失だと思い込み、居候を許し、面倒を見ることに。
住職の妻・節子
(演:紅萬子)
西経寺の住職の妻。
殺陣師・関本
(演:峰蘭太郎)
斬られ役を集めた団体「剣心会」の殺陣師。新左衛門に指導をつける。
風見恭一郎
(演:冨家ノリマサ)
大物俳優。元々は時代劇俳優として活躍していたものの、この10年、時代劇からは離れていた。再び時代劇に出演するということで会見を開く。
映画「侍タイムスリッパー」の感想
映画「侍タイムスリッパー」の感想です。友人が熱烈に! おすすめしてくれていた作品。緊張と緩和のバランスが非常にいい作品だと思いましたね。
ちゃんとコメディー
本作は、冒頭、会津藩士・高坂新左衛門がとある長州藩士を討たんとすべく、闇に紛れているところから始まります。
観る前からコメディー要素が多分にある作品だとは知っていたので「えっ、これがどうやったらコメディーになるん!?」と思ったんですが、現代に飛ばされてからはなかなか面白かったですね。こう、クスッとしてしまう描写が要所要所に散りばめられている感じ。
だけどシリアスなシーンも
だけど、内容的には当然シリアスなシーンも多いです。
個人的に一番グッと来たのは、西経寺住職夫妻にショートケーキを出されるシーン。ちょっと正確な言い回しまでは覚えていないのですけれど「これは今、誰でも食べられるのか」「高価なものではないのか」と尋ね、「その辺で買ったものだから誰でも食べられる」と聞かされると、染み入るような声で「こんなうまい菓子を誰もが口にできる豊かな国になったのか」と。
それと同様に、ただの塩むすびを「食べるのがもったいないぐらいに美しい」と言いながら食べるシーンもありました。
そう、豊かな国になった。あの頃(江戸時代末期)の日本よりもずっと。
これは普段、我々が意識しない感覚じゃないでしょうか。最近ケーキがちょっと高いなと感じたりコンビニのおにぎり値上がりしてない? と思ったりすることはあっても(笑)、滅多に手に入らないものとまでは思いませんしね。昭和時代を生きた人が「あの頃に比べると……」と言うことはあっても「江戸時代に比べると豊かになったよね」などと普段から口にする人はいない(と思う)。
このあたりの歴史にはあまり詳しくないんですが、江戸時代って飢饉が多かったイメージがありますし、幕末にもなるとこうした争いが激化していただろうから、飢餓で苦しむ人も多かったんじゃないかな。そんな中、方法は違えど日本を変えようと戦ってくれた先人たちがいたからこそ、今の日本がある。
白米や菓子でなくとも、そこに「食べ物がある」ことに疑問を抱かずにいられることに感謝しなければならないのだなと感じました。
主人公の気持ちを思うと複雑
ただ、主人公の気持ちを思うと非常に複雑でした。
重ねて言いますが、私はあまりこのあたりの歴史に詳しくないので、的外れなことを言っていたら申し訳ないなと思いつつ。
まず、会津藩って佐幕派ですよね。つまり幕府の権威を維持しようとする派閥。ここ、物語上かなり重要なポイントだと思っていて。白虎隊の悲劇とかはとても有名ですけれど。
で、結局新政府軍を前に敗れている(ですよね?)。そう、敗れているんですよね。
新左衛門は日本がよりよい国になるはずだと信じて頑張っていた人だと思うから、140年経った日本で、あのあとに会津藩が敗れ、幕府までなくなり、それなのに日本が当時よりずっと豊かな国になっていたと知ることのなんと残酷なことか。普通なら「自分たちが命懸けでやってきたことはなんだったのか」になりますよ、ほんと。「自分たちである必要はなかったのか」って。
高坂新左衛門は優秀な男
でも、そういうのを全部飲み込んで「よかった」と思える(たぶん思っていた)新左衛門はやっぱり真の侍だったんだなって。「自分たちが勝っていればもっといい国になっていた」とかも言わない。現実逃避をするでもなく、粛々と事実を受け止める感じでした。
っていうか、新左衛門って現代に飛ばされてパニックになる描写とかも特になかったですよね。撮影所で特殊メイクをした人たちにビビり散らかしたりしてはいたけど(笑)。
時代を飛び越えて来てしまった。
こういうタイムスリップって、例えば今自分の身に起きたとしたら、そういうフィクション作品が世に出回っているのもあって、混乱しつつも「もしかして?」ぐらい考えられそうなものだけど、江戸時代にそういう作品や知識があったとは思えないから、なんだかんだでピンと来てしまった新左衛門って相当優秀で柔軟な考えを持った人だったんだろうなと思うなど。
とはいえ、殺陣師の関本さんに刀の振り上げ方を指導されて、「そういうもんかあ」みたいな感じで素直に従う新左衛門には「さすがに柔軟すぎやろ!」と笑ってしまいました(笑)。
ご都合主義は見なかったことに(これがいい)
また、本作にはご都合主義な点もある程度あるんですが(個人的な感想として)。
例えば、新左衛門が黒船来航のチラシを見つけた時。
普通なら、文字のこととか紙質のこととか「なんじゃこれ!?」ってなりそうなものなんだけど、その辺には特に引っ掛からずでしたね(当然、そんなことよりも内容に驚いたというのはあるでしょうが)。
こういう、ある種ご都合主義にも見える部分が私は好きでした。昔と今で違うこと(つまり新左衛門がこれから適応していかなければならないこと)はたくさんあるはずだけど、しっかり見たいものだけを見せてくれているというか。
新左衛門にとって過去のことではない
また、我々にとっては140年前のことでも、新左衛門にとっては「いま」のことなんだなとも思います。決して過去のことなんかではないと。
やっぱり、使命感を持って会津藩士として生きていたはずなのに、密命をこなすことはできず、自分にはもはや手が出せない場所から倒幕がなったという事実を知らされ。佐幕派が敗れたと知ったからこそ、自分ひとり生き延びてしまったという思いもあったはず。
侍というアイデンティティーを持っていた新左衛門の気持ちを思うと、非常に苦しいところです。そも、生粋の侍自体今の日本にはもういませんしね。しんどい。本当にしんどい。
その新左衛門がアイデンティティーを失わず、自分の最後の責務は何かと向き合った時に導き出したのが「斬られ役をする」ということだったんでしょうね。もしかしたら、死んでいった仲間たちに対する贖罪でもあったのかも、なんて密かに思ったりしています。自分は何もなせないまま、斬られることなく生き残ってしまったから。
終盤の殺陣のシーン
終盤の殺陣のシーンは真に迫っていて格好良かった。
撮影スタッフとまったく同じ反応をしてしまいました(笑)。息を呑んで見守るという。新左衛門の他にぶつけようもない悔しさや憤り、悲しさなどがギュッと詰まっている感じがして、もうね。
切なくなります。
映画「侍タイムスリッパー」が好きな人におすすめの作品
映画「侍タイムスリッパー」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 碁盤斬り(2024)
- カメラを止めるな!(2018)
まとめ:面白さとシリアスのバランスが◎
クスッとしてしまうシーンの中に突然訪れるシリアスな場面。
このバランスが非常によかったです。
戊辰戦争での会津藩を文字情報として知っていたので、新左衛門の登場からずっと切なかったんですが(笑)。まあ、個人的にはラストはあまり好みじゃなくて、友人が熱烈に勧めてくれたほどはハマり込めなかったんですけれども。
でも、面白かったです。
Rotten Tomatoes
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IMDb
7.2/10
Filmarks
3.9/5.0