
時計じかけのオレンジ (字幕版)
「時計じかけのオレンジ」の感想です。
昔、観たことがあるような気がするけれど、ほとんど覚えていなかった作品。「名作!」と思った記憶しかなかったやつ。
面白いというよりは興味深いなと感じた映画でした。
本記事は2025年12月07日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
いろんな方向から暴力を浴び続ける2時間半。
作品情報
| タイトル | 時計じかけのオレンジ |
| 原題 | A Clockwork Orange |
| 原作 | 時計じかけのオレンジ/アンソニー・バージェス著 |
| ジャンル | SF、ヒューマン |
| 監督 | スタンリー・キューブリック |
| 上映時間 | 136分 |
| 製作国 | イギリス |
| 製作年 | 1971年 |
| 公開年(英) | 1972年 |
| レイティング | R18+ |
| 個人的評価 | ★★★★★ |
あらすじ
近未来のロンドン。クラシック音楽をこよなく愛する15歳のアレックスは、仲間を集め、ホームレスを滅多打ちしたり女性に暴行したりと、暴虐の限りを尽くしていた。しかし、そんなことは永遠に続くわけもなく、ついに警察に捕まってしまう。アレックスには懲役14年の刑が下されるが、収監されて2年、アレックスはとある療法の被験者になることを志願する。そうすれば、刑期が短くなるというのだ。果たしてそれはうまくいき、アレックスは外の世界に戻ることになるのだが、アレックスは暴力的、性的な行為に拒絶反応を示すようになっていて――。
主な登場人物
(以下、敬称略)
アレックス
(演:マルコム・マクダウェル)
若くして、暴虐の限りを尽くしていた男。とある療法を受けたことで刑期は短くなるが、暴力的なことや性的なことを一切受け付けない体になった。
映画「時計じかけのオレンジ」の感想
映画「時計じかけのオレンジ」の感想です。答えのない問題を突き付けられたような、そんな感じのする難解な映画。暴力的ではある。
第一印象は「難しい」
本作を観ての第一印象は「難しい映画だな……」でした。
内容自体はシンプルなんですよ。暴虐の限りを尽くしたアレックス少年が捕まって、被験者になって、外に出て、逆に酷い目に遭ったりしてっていう。
でも、「アレックス酷いな」とか「こうなって当然だな」とか、そういう単純な感想にはなりませんでした。まさにすごい映画を観たという感じで、鑑賞後の余韻がすごかったです。
個人的には、ちょっとロメロ監督の「アミューズメント・パーク」(1973)に雰囲気が似ているなと思いました。ただひたすら暴力を浴び続ける感じが。まあ、本作と違って、あちらはただの理不尽な暴力でしたが。
アレックス=加害者
内容だけ見れば、アレックスはまごうことなき加害者で、例えば仕返しをされたりしても仕方のないことばかりをしてきたんですけれど。
でも、そんなアレックスなのに、中盤以降からは同情的な目で見てしまう。これが本作のすごいところ。
序盤は「アレックス、お前なんてことを!」って思うのに、ストーリーが進むにしたがって「アレックス、可哀想に……」という気持ちが芽生えていく(で、「いや、よくよく考えれば自業自得じゃん?」とセルフツッコミを入れたりもする)。
人間の感情ってままなりませんね。
両親の言動
個人的に特に興味深いなと思ったのは、アレックスの両親の言動。
アレックスが捕まる前は、いたって普通の親といった感じでしたよね。出所後、とんでもないことをやらかした息子を煙たがるのもわからないでもない。
でも、その後、またアレックスの前に現れる。
アレックスが単なる加害者でなく、同時に被害者でもあるという立ち位置になったからか、それとも単純に「自分たちの子だから」と考え直した結果なのか。これがまた絶妙な演出で、冷静に考えるとどちらにも取れるんだけど、アレックスはたぶん前者として認識しているだろうなというのが想像できてしまうんですね。
両親の言動も、アレックスの物事に対する認識も、結局人間なんてそんなものだよと言われているようでした。
やり返してやり返される
理性もなにもなく好き放題生きてきたアレックスがしっぺ返しを食らう。
かなり雑に言うとそんな物語ですが、いわゆるあれですね。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだというやつ。
アレックスにはそれがなかった。
やり返されるわけがないと、なんの根拠もなくそう信じていたような気がします。でも、実際にはそうじゃなかった。
加害者アレックスを前に、かつての被害者は理性を手放して復讐する。それはかつてのアレックスと同じことで、「ここでボコボコにしてもやり返されないだろう」とわかっていたら、人はどこまでも暴力的になれるということなのかもしれません。そこに「自分は正しいことをやっている」「正義の鉄槌を下しているだけだ」という自分こそが正義な万能感が加われば、なおのこと。
いじめの構造に似ている
そして、この「やられても仕方のない奴」というレッテルを貼ること自体は、いじめの構造にも似ているのかなという気がしました。もちろん、アレックスはいじめられっ子なんていうものではないですけれど。
いじめにおいて、いじめる側の人間が「いじめられっ子にはいじめられる原因がある」みたいな言い分を主張することは間々あります。実際には、たとえ原因があったとして、それがいじめていい理由にはならないし、いじめる側が100悪いのにも変わりはないんですが、そういう人はやっぱりいる。
で、人は「やっていい理由」を見つけた途端、普通では考えられないような残酷なこともやってのけたりしますよね。原因があるから、みんなやっているから。そうやってどんどんエスカレートしていく。
アレックスの場合はいじめられっ子なんかではないけれど、でも、いじめの主犯格だった人が、最終的にいじめのターゲットにされるなんていう話も聞きます。度が過ぎた行為はやっぱり怖いし、やりすぎると最後には排除対象になってしまうということなんでしょうね。そこに「正義感」「優越感」が加わると、今までやられていたほうも歯止めが利かず、どんどんエスカレートしていく。
結局人間なんてそんなもの(二度目)。
アレックスのあの表情
ある療法の被験者となったアレックス。
かなり有名なシーンでもある、あの治療中の画が衝撃的でした。おめめバキバキ。
でね、目が閉じられないアレックスのために(?)目薬を差してくれるんですが、いやいやいや、さすがに差しすぎじゃない!? という頻度でポタポタしてくる(笑)。正直、中国の拷問にあったと言われる「滴水刑」を思い出しましたよね。
罪人の額に一滴ずつ水を落とし続けるというあれ。
それを彷彿とさせるぐらいに、あれも拷問的な描写に感じました。上映されていた映画より、むしろあれで精神的におかしくなったのでは? とすら思ってしまう。
生まれか環境か
で、このアレックスは非常に暴力的な人間なわけですけれども、人間の性格を形作るのはいったいなんなのかという部分においても興味深いなと思いましたね。つまり、生まれ持ったものなのか、それとも育ってきた環境なのかということですが。
本作では、どちらかと言えば生まれ持ったものである、しかし環境によって左右される部分もなくはない、というような描かれ方をしていたような気がします。
アレックスの両親は、確かにアレックス出所後からはぎくしゃくしてしまいましたが、そんなに悪い人には見えなかったし。強いて言えば多少の無関心さはあったかもしれないけど、15歳のアレックスのために朝食を用意しておいてくれたり、学校に行く時間だと声をかけてくれたりと、行動としては割とまともな親。
それでもアレックスは悪い友達とつるみ、あんなことをしてしまうのですからね。あの暴力性は先天的な部分が大きいんじゃないかな。どんな環境でも、アレックスは結局あのようになっていたような気がする。
ただ、収監されている間そうだったように、あの暴力性もまったく抑えられないものではないんですよね。きっと。場合によっては取り繕うこともできる(自分に利があると判断すれば、ですが)。取り繕えるということは、一応善悪の区別はついている。となると、環境によっては幾分かマシな人間になっていた可能性もあったのかなと思いました。実際にはそうなっていないので、だからなんだって話ではありますが。
アレックスの生い立ちについてはほとんど描かれないので、アレックスたらしめるものというか、なぜアレックス少年はあのようになってしまったのかというバックボーンを想像する余地が残されていました。
マルコム・マクダウェル
名作とされる「時計じかけのオレンジ」は、マルコム・マクダウェルの存在感が強烈でした。彼がとにかく美しい。これが後半になって、同情心を煽る要因のひとつになっていると思う。そんなキャスティングが素晴らしかったですね。
そう言えば、世の中には、凶悪犯罪者に魅力を感じる人がいると聞きます。どうやらそれを「ハイブリストフィリア」と言うらしいのですが(あまり詳しくはないけれど)、確かにかの有名なテッド・バンディにも多くの女性ファンがつき、実際に獄中結婚までしていたよなと。
マルコム・マクダウェル演じる主人公アレックスは、まぎれもなくそのタイプの人間だったと思います。テッド・バンディと違って弁は立たないと思うけど(笑)。
で、この「時計じかけのオレンジ」は、そういう主人公だったからこそ成り立っているんですよね。これが一切魅力のないただの犯罪者だったら、後半は単純に主人公への「ざまぁ」でしかなく、こうも「難しいな……」と思える雰囲気にはなっていなかったと思う。
マルコム・マクダウェルあってこその「時計じかけのオレンジ」です。
あと、片目(の下)だけにつけまつげをつけているの、めちゃくちゃ好き。意外とオシャレに見えるということもあるんだけど、やっぱり常人とは違うのだと再確認させてくれます。なんていうか、片目だけ、それも下側のみというのが、心のアンバランスさを表しているというか。
映画「時計じかけのオレンジ」が好きな人におすすめの作品
映画「時計じかけのオレンジ」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
映画「時計じかけのオレンジ」が観られる動画配信サービス
※記事執筆時点での情報です(2025年12月07日)。レンタル作品等も含まれます。最新情報はご自身で直接ご確認ください。
| Netflix | U-NEXT | Amazon Prime Video | Hulu | Ameba TV | FOD |
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まとめ:ひたすら暴力を浴び続ける2時間半!
すごい映画でしたね。
久々すぎて「どんな内容だったっけ?」と思いながら観始めましたが、こんなに衝撃的な映像が連続するなんて。もう絶対に忘れません(笑)。
まさに名作! でした。
Rotten Tomatoes
Tomatometer 86% Popcornmeter 93%
IMDb
8.2/10
Filmarks
3.8/5.0


