
人間の時間(字幕版)
「人間の時間」の感想です。
嫌いじゃない。
嫌いじゃないんだけど、最初から最後までとにかくずっとしんどいことが続くので、メンタル面に要注意な映画。日本勢からはオダギリジョーと藤井美菜が出ています。
本記事は2025年10月20日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
俳優さんたちの覚悟に感動。
作品情報
タイトル | 人間の時間 |
原題 | 인간, 공간, 시간 그리고 인간 |
ジャンル | ヒューマン、ファンタジー |
監督 | キム・ギドク |
上映時間 | 122分 |
製作国 | 韓国 |
製作年 | 2018年 |
公開年(韓) | 不明 |
レイティング | R18+ |
個人的評価 | ★★★☆☆ |
あらすじ
恋人のタカシと共にクルーズ旅行に参加したイヴ。その船には有名な議員の親子や、柄の悪いギャングな男たち、船内の土を集めている謎の老人など、さまざまな人たちが乗っていた。しかし、その日の夜、船の上では地獄のような光景が繰り広げられるのだった――。
主な登場人物
(以下、敬称略)
イヴ
(演:藤井美菜)
恋人のタカシと共にクルーズ旅行に参加した女性。芯があり、自分の信じた道を突き進む性格。
アダム
(演:チャン・グンソク)
クルーズ旅行に参加していた議員の息子。傲慢な父親に思うところはあるが、逆らいきれずにいる。
タカシ
(演:オダギリジョー)
イヴの恋人。正義感が強く、見て見ぬ振りができない性格。
アダムの父親
(演:イ・ソンジュ)
有名な議員で、野心家。傲慢な性格で、国民のことを見下している。
ギャングのリーダー
(演:リュ・スンボム)
柄が悪い男たちをまとめる男。同乗した議員におもねる。
謎の老人
(演:アン・ソンギ)
船内で土を集める謎の老人。
映画「人間の時間」の感想
映画「人間の時間」の感想です。……なんだろう。「しんどい!」意外の感想が思いつかない。神秘的な雰囲気があって、内容の割に「まあ、観られたな」という感じではあるのだけど。
しんどいのオンパレード
ここまでですでに何度も言っていますが、とにかくしんどい映画です。ずっとしんどい。ただただしんどい。救いはない。緊張と緩和とか何それ美味しいの? レベル。
恥ずかしながら、キム・ギドク監督の作品はほとんど観たことがないのですけれど、これを観るとちょっと怖くて他の作品はまあいいかなあという気分になる(笑)。調べた感じ、制作過程で少し問題があった方のようですが。
でも、才能自体は本物だったんでしょうね。きっと。
しんどいレベル(鬼)
で、どれぐらいしんどいかというと、藤井美菜演じる主人公のイヴが、ひどい目に遭ったことによるパニックで自ら身を投げそうになるんですが、それを無言で締め落とす謎の老人を見て「緩和」に感じて思わずフフッと笑ってしまうぐらいです(不謹慎)。まあ、実際はイヴではなく、何がなんでも口を開かないおじいちゃんが面白かったわけですが。なお、こういった無言劇はキム・ギドク監督の得意技らしい。
でも、このシーンで気が緩むなんて鬼ですよ、鬼。絶対に笑っていいシーンじゃないのに。人間、絶え間なく続く緊張感には耐えられないんだなあって改めて思いました。
このひどい目に遭うのも、淡々と描かれているのがまた心にくるんですよね。なんの罪もない女性が複数の男たちにレ……(略)されるシーンが長々と描かれているので、本当に要注意。精神面において余裕があるときに観たほうがいいと思います。
たぶんファンタジー
とはいえ、鬼レベルにしんどいお話なのに、個人的には「不快だししんどいけど、まあ観られるな」という感じではありました。というのも、これ、たぶんファンタジー。
例えば、オダギリジョー演じるタカシや韓国勢が普通に会話をしていたりするので。通訳なしで、韓国語と日本語で違和感なく。この時点で「ある種のファンタジーな世界なんだ」と感じたので、そのあとの地獄も不快感増し増しでなんとか乗り切りました。
ただ、チャン・グンソクはしっかり韓国語と日本語を使い分けていたので、この辺は疑問が残るところでもあるけれど。アダムが日本語を話せる前提でチャン・グンソクを起用したのかな。
アダムとイヴ(とノアの箱舟)
また、アダム(チャン・グンソク)とイヴ(藤井美菜)という名前からうすうす察してはいましたが、まあ、そういうことですよね。ファンタジーな世界観であるうえに、宗教色もだいぶ濃い。アダムとイヴ、それからノアの方舟をモチーフにしたのかなと考えていますが。
なので、いまいちストーリーがわかりづらい。シンプルに暴力的なのだけど、わかりづらい。そういう部分がありました。
シャマラン監督の映画「ノック 終末の訪問者」(2023)を観た時にも思いましたけど、宗教色が濃い映画は考察のしがいがありつつも、やっぱりいまいち理解しづらいところがありますね。自分が宗教に疎いだけに。
かなりの暴力性を含みながら、それでも「まあ、観られる」レベルにまで持ってこられたのは、どこか神秘的な雰囲気があるからというのもあると思います。そうじゃなきゃ、到底目も当てられない地獄が繰り広げられているだけということになってしまったと思う。
社会の縮図
加えて、社会の縮図を見せられているような苦しさもありました。
劇中、焦点が当てられるのは複数のグループのみだけれど、終盤の展開を見る限り、乗船していた客はそれなりにいたみたい。
(あえてこの言い方をすれば)下々の者には発言権がなく、容赦なく排除されていく。議員が頂点にいて、それにおもねる者が幅を利かせるようになる。このおもねる者がギャングだったりもして、互いに互いを利用しているような状況。待遇が違うとはいえ、議員と同じ船に娼婦たちまでもが乗っている。
世の中はこうして回っているのだということを突き付けられているような気がしました。実際「上の者は下の者に譲らなければならないでしょう!」(おぼろげ)みたいなセリフがあったり、そうした社会的メッセージを含んでいるものとも思われます。
誰にも共感できない
とはいえ、登場人物の誰にも共感できないので、ただただ苦しいだけの時間が続く2時間という感じはしました。
まあ、内容から考えると、共感できなくて良かったというところはあるかもしれませんが。共感というか、感情移入してしまう(できてしまう)と本当につらいと思う。そういう映画。
不自然な演技(に見える)
あと、オダギリジョーの演技が非常に不自然に見えて「演技力があってとても好きな俳優さんなのになぜだろう?」と思っていたんですが、これ、もしかしたら日本人キャラの性格として違和感があるからかなと思ったんですよね。
というのも、船上で、議員一行が豪華な食事をしているシーンがあるんですけれど、なんの前触れもなくオダギリジョー演じるタカシが彼らの前に進み出て「なんであなたたちの食事はこんなに豪華なんですか! 部屋も全然違うし! 納得いかない!」みたいに声を荒げていて。
日本人の傾向として、こういうことを初対面の人にいきなり突き付けるかな? という感じがします。
ある程度不満には思うかもしれないけど、相手は議員だし、まさか同じ金額で乗船しているとは思わないし、自分たちと同じ待遇にしろ! とまでは抗議しないような気がして。
その後、先述した「上の者は下の者に譲らなければならないでしょう!」(おぼろげ)みたいなことも主張していて、一種のノブレス・オブリージュのようなものを求めているのかなとは思いましたが、ここはさすがに複雑な気持ちになりました。これ、上の人たち(施す側)が自ら言うから良いのであって、下の人たち(施される側)が強要することじゃなくない? と。
これを下の人たちが言うようになったら、上の人たちは譲りたくなくなるよなあとも思う。こういう主張には際限がないし、上の人たちが下の人たちに譲り続けなければいけないなら、「上に行けば行くだけ搾取される」みたいな構図になって、上の人たちに意欲がなくなりそのうち国自体が貧しくもなりそう。
ただ、劇中の議員のような「下の者は俺の言うことを聞いていればいいんだ!」みたいな人間ばかりになっても困るから、このあたりは難しい塩梅なんでしょうね。
このオダギリジョーの演技が不自然に見えたのは、私のイメージする一般的な日本人とはちょっと違っているからなんでしょうが、韓国人は「不公平だ」「平等・公平に扱われていない」と感じたものに強い反発心を感じるということなのかな。時にそうした主張をするのも大事なことだとは思うので、良い悪いではなく、この強烈な反応が日本人としては一般的でないなと感じました。
っていうか、この作品の出演した役者さんたち、内容が内容なだけに相当な覚悟がいったんじゃなかろうかと思う。特にチャン・グンソクと藤井美菜(娼婦役の人たちも)。
映画「人間の時間」が好きな人におすすめの作品
映画「人間の時間」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 哭声/コクソン(2016)
- ある優しき殺人者の記録(2014)
映画「人間の時間」の動画配信サービス
※記事執筆時点での情報です(2025年10月20日)。レンタル作品等も含まれます。
Netflix | U-NEXT | Amazon Prime Video | Hulu | Ameba TV | FOD |
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まとめ:精神的に余裕があるときに
面白いか面白くないかで言ったら、個人的には面白かったと思う(笑えるという意味ではなく、興味深いという意味で)。
そして、最後まで一言も発しない謎のおじいちゃん。劇中でも言及されていたような気がするけれど、たぶん、神。
Rotten Tomatoes
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IMDb
5.8/10
Filmarks
2.8/5.0