ペンギン・ハイウェイ
石田祐康監督初の長編劇場アニメ。
初めての長編作品とは思えないほどのクオリティーでした。とはいえ、結構ぶっ飛んだ? ファンタジーっぽい? 突拍子もないストーリーではあるので、好き嫌いには分かれると思います。
どことなく自分の小学生時代を思い出すような、懐かしさのある物語でした。
本記事は2024年04月に執筆されました(2024年07月更新)。すべての情報は更新時点のものです。
ワンフレーズ紹介
キラキラした夏休み前のノスタルジックな空気感。
作品情報
タイトル | ペンギン・ハイウェイ |
原作 | ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦著 |
ジャンル | アニメ、ロマンス |
監督 | 石田祐康 |
上映時間 | 117分 |
製作国 | 日本 |
製作年 | 2018年 |
レイティング | G |
個人的評価 | ★★☆☆☆ |
あらすじ
小学4年生のアオヤマ君は、日々、世界について学んだことをノートに記録している男の子。「自分は頭が良く、そのうえ真面目で勤勉なので、将来は偉い人になるだろう」と自分自身を評価し、何事にも冷静に向き合っている。しかし、そんなアオヤマ君の現在の興味は、通っている歯科医院のお姉さんにあった。お姉さんについての学びや疑問は尽きることがない。だが、もう少しで夏休みというある日、なんの前触れもなく、住宅街にペンギンたちが現れたのだった……。
登場人物
(敬称略)
アオヤマ君(声:北香那)
小学4年生の少年。真面目で勤勉、正義感は強いが押し付けることは好まず、自分が間違っていたと思えばすぐに反省する。日々、疑問に思ったことや学んだことをノートに記録している。
お姉さん(声:蒼井優)
アオヤマ君が通う歯科医院のお姉さん。美人で、どこかミステリアスな雰囲気。アオヤマ君のことを「少年」と呼び、可愛がっている。
ウチダ君(声:釘宮理恵)
アオヤマ君のクラスメイトで、ちょっぴり内気な男の子。研究のため、アオヤマ君と一緒に探検隊を組織している。
ハマモトさん(声:潘めぐみ)
アオヤマ君のクラスメイトで、頭が良く、勝気な女の子。チェスが得意。森の奥で見つけた謎の球体について、アオヤマ君と共同研究をすることに。
スズキ君(声:福井美樹)
アオヤマ君のクラスメイトで、ガキ大将的存在。他クラスメイト2人を従え、絶対服従の「スズキ君帝国」を組織している。
アオヤマ君のお父さん(声:西島秀俊)
アオヤマ君に学びのノートを与えた人。時折、アオヤマ君は日々学んだことを報告し、父親からの指導を受けている。
ハマモトさんのお父さん(声:竹中直人)
大学の研究所で働いている。ハマモトさんの研究への熱心さはこの人譲り。ハマモトさんの頭の良さを認めている。
ペンギン(声:久野美咲)
アデリーペンギン。海に面しているわけでもない住宅街に突如現れ、住民たちを困惑させた。
映画「ペンギン・ハイウェイ」の感想
映画「ペンギン・ハイウェイ」の感想です。なんだかちょっぴり懐かしくなるような、胸が苦しくなるような、そんな気分が味わえる作品でした。
ファンタジーすぎるストーリー
ちょっと変わったところはあるものの、普通の小学生アオヤマ君が送るなんの変哲もない毎日。
真面目に学び、時に遊び、でもって、自分とは違う「お姉さん」に興味があるお年頃。
そんな中で突如として現れたペンギンたち。
ん? って感じですよね。同感です。観ている側の多くが同じように「ん?」と思ったことでしょう。それくらい突拍子もない展開でした。
住宅街とペンギンって、まったく結びつかないですし。
ファンタジーすぎる展開なので、最初は結構置いてけぼりを食ったような感じになります。まあ、困惑度合いで言えば、登場人物たちもまったく同じように感じているんでしょうけれども。
ちなみに、ペンギンを登場させた理由については、原作者の森見登美彦氏曰く、
また、「向こう側に何か存在があって、一生懸命調べても、結局到達できない」というイメージや、「理解できない不思議な存在とどう向き合うか」という視点は、ちょうどその頃に読んだ、スタニスワフ・レムの「ソラリス」という小説に大きく影響を受けていていますね。
(引用元:原作者:森見登美彦さんインタビュー 映画『ペンギン・ハイウェイ』|キャリタス進学)
とのこと。
スタニスワフ・レムの「ソラリス」は、ソ連出身の映画監督アンドレイ・タルコフスキー氏による「惑星ソラリス」(’72)として映画化もされています(タルコフスキー作品なら「僕の村は戦場だった」(’62)とか「アンドレイ・ルブリョフ」(’66)とかもおすすめ)。
魅入ってしまう繊細かつ美しい映像
とにかく映像が綺麗です。
素晴らしい作画。
こう、キラキラしい感じで、小学生の純粋な眼差しを通して世界を見ている気持ちになれるというか、とてもピュアな気持ちになれる映像でした。
大人になると世界のいろんな嫌なところを見てきたからか、(映画や小説など何かに触発されてということ以外には)よほどのことがなければ感動したり世界が輝いて見えたりすることはないですよね。……もちろん自分は違うという人はいるでしょうけれども、少なくとも私はそうです。
ふと懐かしさを覚えるあの夏の空気
本作を観てまず感じたのは、なんか懐かしいなあということ。
絶妙な既視感。
でも、じゃあこんな経験があるのかというと、当然そんなものはないわけで。
ただ、小学生の頃、謎に感じていたあの夏の空気感がひしひしと伝わってきました。一瞬で終わってしまうんだけれども、一生このまま終わらなければいいな、みたいなキラキラ感。
つまり、突拍子もない話でありつつも、アオヤマ君には共感できるところも多い。
そのあたり、石田監督はこう語っています。
石田 アオヤマ君が見ている世界の、美しさや楽しさ。年上お姉さんへの憧れ。知ることの喜び。この3つの柱の全てに共感を覚えざるを得ないんです。
(引用元:映画『ペンギン・ハイウェイ』監督 石田祐康さんインタビュー|ウルトラジャンプ)
アオヤマ君が見ている世界って、美しくてなんだか楽しそう。
だけど、(思い出は美化されるものでもあるし)小学生の頃過ごした夏休みって、まさにそんな世界だったような気がします。つまり、アオヤマ君の目を通して、過去の自分の世界を再び見ているような感覚になれるわけです。
スズキ君の行為はギリアウト
アオヤマ君の考えは素敵だな、しっかりしているな、と思う反面、個人的にはスズキ君の行動に不快感を覚えてしまいました(根本的にただ悪い子じゃないというのはわかる)。
「ガキ大将」と先述しましたが、普通に生粋の(?)いじめっ子。
アオヤマ君のことが気に食わないからと自販機に縛り付けたり、挙句、プールで水着を脱がせたり(結果、アオヤマ君は真っ裸のままみんなの前に出ることになった)。
これ、達観したところのあるアオヤマ君だったから乗り切れたり、ほとんど気にしていない様子だったりしたけれど、多くの子にとってはトラウマになるような出来事ですよね。
私だったら無理。泣くどころか、ショックすぎて涙も出ないかもしれない。
「素直になれなくて、自分の気持ちを持て余すあまり、アオヤマ君を気に食わない奴だと錯覚して八つ当たりしているだけで、根は真っ直ぐな良い子(悪い子じゃない)」みたいな描かれ方をしていますし、それもとってもわかるんですけれども、それを鑑みたとしたって……ギリアウトじゃない? と。
ハマモトさんの小学生らしさ
日々世界のことを記録に残している一風変わったアオヤマ君に比べると、まあ、普通の小学生女子という感じのハマモトさん。
でも、私はハマモトさんも正直苦手だった(ごめんなさい)。
自分の感情に正直で、勉強ができるという意味では頭は良いけれども、勝気で我が強く、強情。
うん、それはいいんですよ。
嫌なことは嫌と、好きなことは好きとはっきり言えるのってすごいことですよね。大人になっても意外と簡単なことではありません。
でも、私の場合はですけれども、昔から感情に任せて声を張り上げたり怒鳴ったり、ましてや手を上げたりする人がめちゃくちゃ苦手だったので。
いくら小学生らしいとは言っても、昔(それこそ小学生くらいの頃に)苦手だと思っていたタイプの人が、そのまま飛び出してきたような感じがしてちょっとドキドキしてしまいました。
純粋に人を好きになるということ
日々、真面目に取り組んでいるのに、お姉さんに会うとおっぱいのことばかり考えてしまうアオヤマ君。
性的な目で見ているわけじゃなく、自分とは違う体に興味を示しているという感じでした。毎日のように「世界とはなにか」を考えているアオヤマ君ですから、余計目についたのでしょう。
自分が女なので、そういう目で見られていないとわかっていても、目の前の幼い少年が自分の胸のことを一生懸命考えているとしたらちょっと嫌だなと思いつつ、でも、監督が言っていたように「年上のお姉さんへの憧れ」(上記参照)みたいなものもわかるし、なんだか不思議な気持ちになりました。
「お姉さん」「少年」呼びも、現実にはほとんどないからこそいいですよね(「お姉さん」はあるでしょうが)。
でね、私がとってもいいなあって思ったセリフがあって。
なぜお姉さんの顔を見ていると、うれしい感じがするのだろう。
ここです。
ハッとさせられました。
大人になったら忘れてしまいがちなことだなと。
恋愛とかそんなの関係なく、好きな人、大事な人が出来るとはこういうこと。人を好きだと思うのに、そしてその人をどれほど大事かということに、子どもも大人も関係ない。
相手の顔を見るだけでうれしいと思える。
それって最上級の愛情であるような気がします。
泣きたくなるような衝動
で、この作品ですごいなと思ったのが、迸る疾走感。
なんていうんですかね。
こう、内側に押し込めた感情を一気に解放させられるような疾走感のあるアニメーションで、今や失われてしまった当時の純粋さを懐かしく思ったり、あの頃のキラキラした世界を思い出したりと、なんだか泣きたくなるような衝動に駆られました。
「あの頃に戻りたい」のとはまたちょっと違う、ただ過去を懐かしんで微笑ましく思ってしまう感じ。
訳がわからないことに向き合うこと
「ファンタジーすぎる」とは先述したことですが、実際、ペンギンなんて出てこなくても、世の中には訳のわからないことが溢れ返っています。
自分の理解が及ばないこと。正しいか間違っているかにかかわらず、自分の常識とはかけ離れたこと。今までに経験してこなかったこと。
そういうふうに、自分の理解できない事象に出合ったとき、どう向き合うか。
放置してもいいし、アオヤマ君たちみたいに自分なりに調べて、研究して、結果を出そうとするもいい。そして、それで結果が出ないということがあってもいい。
自分の目の前に「ペンギン(訳のわからないこと)」が立ちふさがったら、どう対応しよう?
大人になった今だからこそ、そう訊ねられている感覚になりました。まあ、実際はそれが何かによる、っていうところでしょうけど。
勇気付けられているような、そんな不思議な気持ちになりましたね。
映画「ペンギン・ハイウェイ」が好きな人におすすめの作品
映画「ペンギン・ハイウェイ」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 雨を告げる漂流団地(2022)
- 泣きたい私は猫をかぶる(2020)
- 未来のミライ(2018)
- 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(2017)
まとめ:あの夏を思い出したいときにぴったり
誰もが一度や二度、経験したことがあるであろう「あの夏」。
小学生の頃に感じる夏(夏休み)特有のあのキラキラした空気感はいったいなんなんでしょうね。思い出すだけで懐かしい気持ちになります。
そんな当時の気持ちをもう一度体験できる、爽やかな作品でした。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 100% AUDIENCE SCORE 76%
IMDb
7.1/10