新感染 ファイナル・エクスプレス(字幕版)
大迫力のゾンビ映画といえば、どうしてもハリウッドのイメージが強いかもしれませんが、韓国発の「新感染 ファイナル・エクスプレス」もいまや大人気の作品です。
シチュエーションスリラー要素も組み込まれているので、より緊張感が増しています。
本記事は2024年01月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | 新感染 ファイナル・エクスプレス |
原題 | 부산행 |
ジャンル | パニック、ホラー |
監督 | ヨン・サンホ |
上映時間 | 118分 |
製作国 | 韓国 |
製作年 | 2016年 |
レイティング | G |
おすすめ度 | ★★★★★ |
あらすじ
ソウルでファンドマネージャーとして働くソグは、一児の父でありながら仕事に明け暮れる毎日を過ごしていた。娘のスアンはもちろん愛している。だが、共に過ごす時間が少ないので、接し方もわからなくなっていた。そんなとき、スアンが釜山にいる別居中の母親(妻)に会いに行きたいと言うので、高速鉄道に乗って向かうことにしたのだが……。
登場人物
(敬称略)
ソ・ソグ(演:コン・ユ)
ファンドマネージャーとして働く一児の父。仕事に明け暮れるあまり、娘との時間が取れずにいる。基本的には自分第一主義の人間。
ソ・スアン(演:キム・スアン)
ソグの一人娘。父親のことを愛しているが、離れて暮らす母親を恋しく思っている。
ユン・サンファ(演:マ・ドンソク)
ソグたちと同じ列車に乗っていた乗客。
ユン・ソンギョン(演:チョン・ユミ)
サンファの妻で妊娠中。サンファと共にソグたちと同じ列車に乗っていた。
ミン・ヨングク(演:チェ・ウシク)
野球部員の仲間たちと共に、ソグと同じ列車に乗っていた男子高生。
キム・ジニ(演:アン・ソヒ)
ヨングクの同級生の女子高生。ヨングクに想いを寄せ、積極的にアピールしている。
ヨンソク(演:キム・ウィソン)
ソグたちと同じ列車に乗っていた男性。小心者で、自己中心的な性格。
列車の運転手(演:チャン・ソギョン)
名前こそ出てこないが、ゾンビが溢れ返ってひどいことになっている中、ひたすら列車を走らせたヒーロー。
ホームレスの男(演:チェ・グィファ)
運転手同様、名前は出てこないものの、中心的な登場人物のひとり。本作においてドジっ子な役を担っており、臆病な性格だが、優しい一面もある。
映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」の感想
映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」の感想です。ハリウッド映画並みの大迫力なゾンビ映画。シチュエーション的な要素が含まれているのも◎でした。
すべての生き物が感染?圧倒的な絶望感
私は基本的に「『新感染 ファイナル・エクスプレス』は最高のゾンビ映画だよ!」な立場の人間なんですが、あまり語られていない(?)こととして、冒頭で鹿が感染している描写があるんですよ。
ゾンビ映画にありがちな、まだゾンビの存在が一般に広く知られていないときの「ここから始まりますよ……」のシーン。
いや、待って。
怖くない?
なにが怖いって、これ、動物にも感染するの?
従来のゾンビ映画で考えると、これって基本的には人間だけが感染するものじゃないですか?(例外はある)人間が感染して(正常な)人間を襲う、みたいな構図。
これがもし動物にまで感染するのであれば、軍を動かして戦えばいいみたいな単純な話じゃなくなりますよね。まさか、この世界線で、都合よく「動物の中だと鹿だけが感染する」というわけではないでしょうから。
動物ゾンビが人間を襲うとしたら、たぶんもうどこに逃げても駄目だよ……と思ってしまいました。圧倒的絶望感&無力感。
進化を遂げてきたゾンビ映画
世界初のゾンビ映画(「恐怖城」)が誕生したのが1932年だと考えると、ゾンビ映画の歴史ってもう90年以上もあるわけで、かなり長いんですよね。
それこそ、最初は仮死状態の人間を操っているのがゾンビというもので、「生きる屍」……つまり、現代ゾンビのイメージを作ったのは、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(だと思います)。
やがて、みなさんお馴染み「バイオハザード」が出て、もうここまで来るとド派手なアクションもセットでついてくるという感じ。
んで、多様化してきたゾンビがついに全力疾走するようになり、あの手この手で人間を滅ぼそうとしてきました。
本作に登場するのも、ダッシュしまくるパワー系ゾンビです。
いや、もうこれ、自分だったらと考えると、逃げられる気も戦える気もしないですね。たぶん、ゾンビ映画にたまに出てくる、恐怖に耐えきれず自ら退場するタイプの人間です。
この先、ゾンビみたいなのが出てこないことを祈る。
……と、それはともかくとして、ソグたちが逃げるようにして乗った列車を全力疾走で追いかけてきたり、ガラス扉をガンガン叩いたり、迫力がものすごいことになっていました。ガラス一枚挟んだ向こう側に大量のゾンビがいる状況とか、怖すぎる。
シチュエーションスリラーすぎて恐怖
まあ、そもそもゾンビ映画自体、シチュエーションが限定されるものではあるんですが、本作のなにがすごいって、ゾンビとの戦いのほとんどを一台の列車の中で完結させてしまうところ。
もちろん、外の世界もゾンビが蔓延しているという状況だし、厳密に言えば列車の外でもなんやかんやあることはあるんですが……。
ソグたちVSゾンビという構図の多くが、列車内の出来事に限定されている。
本作を初めて鑑賞したとき、「走ってる列車の中なんて、どこにも逃げ場ないやん! 詰んでる! この時点でみんなもう詰んでるよ!」と思ったものですが、普通なら完全にアウトな状況です。
「これで映画一本分もたせられるのか」なんて余計な心配までしましたけれども、全然大丈夫でした。
あの狭い空間をどう突破していくか。
かなり見ごたえがありました。
格好良すぎるマ・ドンソク
本作に登場するキャラは、良い意味でも悪い意味でも良かったですね。
特に、マ・ドンソク。というか、マ・ドンソク演じるサンファ。
見た目はいかつくて、どう見てもちょっと道を踏み外しちゃった系の人なのに、強いし度胸はあるし、実は優しいし。ギャップ萌えすぎる。
一度はソグに見捨てられかけるも、いざ立場が逆転したときは迷わずソグを助ける潔さには惚れ惚れします。
まあ、ソグには幼い娘がいること、ぎくしゃくしながらも娘を愛しているのがわかっていること、自分の奥さんが妊娠していることなども関係しているのでしょうけれども。
なんていうか、絶対に守ってくれそうな安心感がありますよね。
丁度良い娘との距離の縮まり方
仕事一筋で、娘を放置しがちな決して善人とは言えないソグ。
序盤では「自分さえよければ他はどうでもいい」「自分が勝ち残るためには他人を蹴落としても構わない」みたいな典型的な自分第一主義でしたが、仕事を失う以前に、人生が終わるかもしれない瀬戸際になってやっと、一番に守らなければいけないものを実感した感じでしたね。
「娘(家族)を守るために仕事をする」だったはずが、いつの間にか順番が逆になっているパターン。
ただ、ソグの場合、最初から仕事を優先してしまっている自覚がありそうだったので、最優先しなければいけないこと(人)を完全に見失っているわけではなかったみたいです。
この絶妙な塩梅の設定が、ソグを命懸けで娘を守る父親とするのに良かったのでしょう。
例えば「誰がお前に飯を食わせてやってると思ってるんだ!」みたいなモラハラ親父だったら、映画の上映時間内に巻き返すのが難しすぎるし、そういう父親ならさっさと娘を捨ててひとり逃げそうでもある。鑑賞者の心情的にも、今さら感があるというか、モヤッと感につながってしまうでしょうしね。
なので、命懸けで娘を助けるぐらいには愛しているが、仕事にかまけていたら、いつの間にかどう接していいかわからなくなってしまったというのが非常に丁度いいなと感じました。
あと、最初こそ娘に同情的だったサンファが、ソグに対して理解を示し始めるのも◎。
人間の嫌なところをギュッと詰め込んだ乗客
このような極限状態にあっては、当然めっちゃ悪い奴も登場します。
「自分だけ助かればいい」という人間が。
……その点では初期ソグと似たようなものなんですが、ソグには娘がいた分、まだ助け合いの心が生きていたように思えます。娘はソグにとっての良心そのものだったのでしょう。
このめっちゃ悪い奴が本当にイライラする……のは、流石の演技力ですね。
そして、このめっちゃ悪い奴に感化されて動く、基本的には善も悪もなく人の指示に従うだけの乗客たち。いざ緊急事態が起きたとき、現実世界でもこの手の人は多いと思います。
正しいかどうかにかかわらず、声が大きい人についていってしまうタイプの人たち。
そして、声が大きくなればなるほど(人数が増えれば増えるほど)、自分たちとは違う人たちのことを排除するのに罪悪感を覚えなくなるんですよね。本作においてはそれが顕著に表れていて、とても良かったです。
集団心理って怖い。
もちろん、そのめっちゃ悪い奴にも、それはそれで魅力があります。
緊張感爆発のカメラワーク
この作品、カメラワークがめちゃくちゃ良いです。
ゾンビが集団で追いかけてくるときの緊迫した雰囲気を最大限に生かすカメラワークになっている。まさにギリギリの攻防という感じが伝わってくる。
正面からだったり上空からだったり、そのときそのときでベストなカメラワークになっていて素晴らしいです。
感動するゾンビ映画
アクションやパニックものでも、最後に感動シーンを持ってくる作品は少なくないと思うんですが、本作はその上を行っています。
号泣。
ゾンビ映画で、ここまで感動する作品はなかなかないと思いますね。
ソグの娘に対する愛情がひしひしと伝わってきます。娘を守りたいという気持ちも。儚く、美しい終わりだったと思います。
そうだよな、と。
(一部を除いて)多くの人は「自分の子どもが生まれた(初めて会った)瞬間」を喜び、愛しい気持ちになるものだよな、と。
まあ、ここらへんは、自分の今いる環境によっても感想は変わるでしょう。
自分に子どもがいるならその瞬間を思い出すでしょうし、子どもがいなければ「自分の親もこうして喜んでくれたのだろうか」と思いを馳せるでしょうし。
どちらにしろ、なんだか優しい気持ちになるラストでした(たぶん、見方は人それぞれ)。
映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」が好きな人におすすめの作品
映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 非情宣言(2020)
- FLU 運命の36時間(2013)
- ヨンガシ 変種増殖(2012)
- ソウル・ステーション パンデミック(2016)
まとめ:ハリウッド映画並みのダイナミックさ
韓国映画を観たことがないという人でも、この作品をきっかけに観るようになったという人も多いのではないでしょうか。
それぐらいの良作です。
ハリウッド映画並みのダイナミックな演出を用いた作品で、脚本も完璧。突っ込みどころがないわけではありませんが、とにかくマ・ドンソクが格好良いので観てほしいですね。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 95% AUDIENCE SCORE 89%
IMDb
7.6/10