ブラック・フォン(字幕版)
サスペンス×ホラー×監禁。
誘拐された子どもが監禁され、そこから脱出する道を探すという、テーマとしてはありがちなストーリーですが、そこにホラー要素を組み込むことで斬新なシナリオになっています。
ホラーといっても、必ずしも怖くないというのもポイント。
本記事は2024年03月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | ブラック・フォン |
原題 | The Black Phone |
原作 | 黒電話/ジョー・ヒル著 |
ジャンル | ホラー、サスペンス、スリラー |
監督 | スコット・デリクソン |
上映時間 | 103分 |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2022年 |
レイティング | PG12 |
おすすめ度 | ★★☆☆☆ |
あらすじ
コロラド州に位置するとある街では、子どもの失踪事件が多発していた。そんな街で生まれ育ったフィニーは、気弱でいじめられっ子な少年。唯一、友人と呼べるような関係だった少年も姿を消してしまった。そんなある日、学校から家に向かう途中、フィニーはマジシャンを名乗る男に出くわす。「マジックを見るかい」を声をかけてきた男は、フィニーを黒いバンに無理矢理押し込んだ。次に気がついたとき、フィニーは地下室に閉じ込められていた……。
▼Blu-ray▼登場人物
(敬称略)
フィニー・ブレイク(演:メイソン・テムズ)
主人公の少年。気弱でいじめられっ子な一面があるものの、少年野球ではピッチャーを務めている。
グウェンドリン・ブレイク(演:マデリーン・マックグロウ)
フィニーの妹。毎回ではないが、予知夢を見ることがある。愛称はグウェン。
テレンス・ブレイク(演:ジェレミー・デイヴィス)
フィニーとグウェンの父親。
グラバー(演:イーサン・ホーク)
誘拐犯。
マックス(演:ジェームズ・ランソン)
グラバーの弟。
ライト刑事(演:E・ロジャー・ミッチェル)
児童連続失踪について捜査している刑事。
ミラー刑事(演:トロイ・ルードシール)
ライト刑事の相棒。
映画「ブラック・フォン」の感想
映画「ブラック・フォン」の感想です。小説家のジョー・ヒルによる短編ホラー「黒電話」を映画化したものです。ホラーといっても、ジャンプスケアなどの演出はほとんどありません。
父は偉大なスティーヴン・キング
本作は小説家、ジョー・ヒルによる短編ホラー小説「黒電話(The Black Phone)」を映画化したものです。
内容はともかく、雰囲気がどことなくスティーヴン・キング原作の映画に似ているなあ……と思いきや、かの有名なスティーヴン・キングはなんとジョー・ヒルの父親ということでした。
意識しているのか無意識なのか、まあ、そりゃあ似た部分があっても致し方なし。
雰囲気が似ること自体は悪いことでもないですしね。
モデルはアメリカの歴史に残る恐怖のあの事件
マジシャンを装い近付いてくる誘拐犯のグラバー。
「マジックを見たいか?」と子どもに話しかけ、興味を引いたところで黒いバンに押し込むそのやり口に、どことなく既視感を覚えました。(黒い)風船を持っているから余計に。
風船を持つ男。
イコールピエロ。
遊園地などで配られていることもあって、風船といえば子どもにとって魅力的なアイテムですが、マジシャン(ここではピエロ)が持っているだけで、どことなく恐怖心が煽られる感じがします。
それはたぶん、映画「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」で風船が恐ろしいアイテムとして登場しているからですね。
一説によると映画「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」のペニーワイズもそうでしたが、なんとこちらの作品のマジシャン(ピエロ)も、アメリカの70年代を代表する衝撃的な事件をモデルにしているそう。
ホーク扮するグラバーは、1972年から1978年にかけて33人の青年や少年を殺害し、キラー・クラウン(殺人ピエロ)の異名を持つ実在のジョン・ウェイン・ゲイシーからインスピレーションを得ている。
(引用元:映画ナタリー – 「ブラック・フォン」殺人鬼のモデルとは、イーサン・ホーク「並大抵ではなかった」)
ちなみに、原作における誘拐犯の名前は「グラバー」ではなく「アルバート・クロス」となっているようです。
ジャンプスケアなどの演出はほぼなし
一部を除き、ジャンプスケアなどの心臓を驚かせる演出はほとんどありませんでした。
一部を除きね、一部を除き。
連続して恐怖演出があるわけではないので、ホラーが苦手な人でも観やすい内容かなと思います。ホラーに全振りした作品よりは安心して観られます。
ただ、内容的に死者(幽霊)は当然出てくるので、そこはあしからず。
「ラブリーボーン」に似た雰囲気
完全に個人的な感想ですが、本作を観た時、映画「ラブリーボーン」(めちゃくちゃ好きな映画)の雰囲気に似ているなと感じました。
どこがって?
……なんとなく(申し訳ない)。
まあ、あえて挙げるとすれば、雰囲気そのものですかね。
ホラーはホラーなんだけど、死者の無念さとか切なさ、寂しさみたいなものが雰囲気だけでうまく表現されているというか。
それ以外はまったく異なるシナリオなのに(監禁というところは似ているが)、なぜか「『ラブリーボーン』みたい」と思わせられる雰囲気でした。
相変わらず役に立たない大人たち
先述した「ラブリーボーン」でもそうでしたが、この手の話は基本的に大人は役立たずです(笑)。
本作においても「もうちょっとできることあるやろー!」と思わずツッコミを入れてしまったほど。いくら子どもの言葉に信ぴょう性がないと感じたとしてもですよ。
決して大きくない(大きくなさそう)な街で連続誘拐が起きているのだから、もう少し自発的に動いてほしかったものですね。
ただ、自分の身を守れるのは自分だけだ……みたいなアレは、アメリカ映画っぽくて良かったです。
大人しく助けを待つでもなく、孤独や恐怖と戦いながら自ら脱出口を見つけようとするその考えは、子どものころから染みついているものなんですかね。
そこはかとなく感じるジュブナイル味
不思議なことに、私はこのホラー作品にそこはかとないジュブナイル味を感じました。ちょっとした青春っぽさというか。
あらすじで書いた通り、フィニーには唯一友人と呼べるような関係の少年がひとりいました(もっとも、本人が「友人」と明言しているわけではないが)。
なんていうか、タイプは違うし、互いにぎこちない空気を醸し出しているけれども、この関係に名前をつけるとしたら「『友人』だろうな」というような。
このロビンという名前の友人は、かなりの暴れん坊。
いじめられっ子に標的にされ、男子トイレに逃げ込んできたフィニーと鉢合わせた際には、いじめっ子たちを追い払いながらも、フィニーに対して「立ち向かわなきゃ駄目だ」というような助言を与えています。
この二人の関係、そしてセリフが伏線となっているなんて……。
少年フィニーの成長物語
もともとは内向的で後ろ向きなフィニー。
まあ、少年野球でピッチャーを張るような少年が内向的? という疑問はありますが……アメリカの社会だとそういうこともあるのかもしれませんね(日本でも「おおきく振りかぶって」のように、野球部ピッチャーの主人公がネガティブみたいな作品があるくらいですし)。
それが、友人ロビンの「立ち向かえ」という助言もあり、フィニーは徐々に(精神的に)強くなっていきます。
この、主人公がフィニーだというのって、意外と重要なポイントだなと感じましたね。
誘拐された先で隙があれば、誰だって脱出しようとするわけですが、臆病なフィニーは当然すべてを慎重に考えますよね。
臆病だけれど、だからこそ慎重に行動できるというのは美点でもあります。
バレないように。確実に脱出できるように……。
その慎重さにプラスして、ロビンや死者たちが持っていたであろう勇敢さ(無鉄砲さとも言う)を併せ持つことで、なんとかグラバーの裏を掻こうとするフィニー。
臆病だけでもない。無鉄砲なだけでもない。
自分の身を守るために、短時間で成長していくフィニーの健気な姿に感動しました。
映画「ブラック・フォン」が好きな人におすすめの作品
映画「ブラック・フォン」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(2017)
- サマー・オブ・84(2017)
- イノセンツ(2021)
- フッテージ デス・スパイラル(2015)
まとめ:ジュブナイル味のある微ホラー
スティーヴン・キングを父に持つ小説家、ジョー・ヒルによる短編ホラー小説を映画化した作品です。
どことなくスティーヴン・キングの小説を映画化した作品に似たような雰囲気がありますが、そこはやはり別物。スリラーやサスペンスの中にさまざまな要素を組み込むことで、単純な「誘拐事件」ではなくしています。
どちらかといえば、ヤングアダルト向けスリラーでしょうか。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 82% AUDIENCE SCORE 88%
IMDb
6.9/10