石原軍団の一員、渡哲也さんの訃報が飛び込んできましたね。ただただ驚きです。そんなこともあって、ふと、彼が出演した数々の作品を思い出してみました。
そこにいるだけでグッと場が引き締まるような、言葉を発してもいないのにどしりと構えているだけでありありと存在感を感じられるような、そんな俳優さんだと感じています。
そこで、今回紹介したいのは2005年に公開された戦争映画「男たちの大和/YAMATO」です。
どんな作品でも主役級の役柄を見事に演じ切る渡さんですが、本作品ではなんとほぼほぼ脇役! しかしそれがまた良い味を出し、彼の遺作映画になりました。
渡哲也について
✔ 生年月日:姫路市淡路島
✔ 身長:180cm
✔ 血液型:B型
✔ 趣味/特技:ゴルフ、空手2段、柔道初段、たき火
✔ デビュー作:日活映画「あばれ騎士道」
✔ その他出演映画:愛と死の記録、陽のあたる坂道、燃える大陸、嵐の勇者たち、斬り込み、さらば掟、剣と花、人間革命、仁義の墓場、わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語、時雨の記、BROTHER、レディー・ジョーカー等
ほかにも、多くの有名作品に出演されています。「あばれ騎士道」で昭和40年に映画デビューして以降3~4年間ほどは毎月のように出演作品が公開されているのはすごいですね!
(情報元:石原プロモーション公式サイト)
作品情報
- 作品名:男たちの大和/YAMATO
- 上映時間:2時間25分
- ジャンル:戦争/ヒューマン
- 製作国:日本
- 公開年:2005年
あらすじ
2005年4月、真貴子(鈴木京香)は鹿児島県枕崎の漁師・神尾(仲代達矢)に60年前、戦艦大和が沈んだ場所まで舟を出してほしいと懇願した。真貴子を乗せた小型漁船を走らせているうちに神尾の脳裏にも60年前の出来ごとがよみがえってきた。
こんな人におすすめ!
- 平和なこの時代だからこそ歴史を学びたい
- 血が飛び交うのは大丈夫!
- 感動しても、感化されることはあまりない
- 今の時代って果たして幸せなの?
- 「お国のため」って感覚、いまいちよくわからないなあ……
スタッフ・キャスト
- 監督/脚本:
– 佐藤純彌 - 原作:
– 辺見じゅん - 音楽:
– 久石譲 - キャスト:
– 松山ケンイチ ⇒ 神尾克己(青年)役
– 反町隆史 ⇒ 森脇庄八 役
– 中村獅童 ⇒ 内田守 役
– 鈴木京香 ⇒ 内田真貴子 役
– 渡辺大 ⇒ 伊達俊夫 役
– 内野謙太 ⇒ 西哲也 役
– 崎本大海 ⇒ 常田澄夫 役
– 橋爪凌 ⇒ 児島義晴 役
– 山田純大 ⇒ 唐木正雄 役
– 高岡健治 ⇒ 茂木史朗 役
– 高知東生 ⇒ 川添 役
– 平山広之 ⇒ 玉木 役
– 森宮隆 ⇒ 大森 役
– 金児憲史 ⇒ 町村 役
– 蒼井優 ⇒ 野崎妙子 役
– 高畑淳子 ⇒ 玉木ツネ 役
– 余貴美子 ⇒ 西サヨ 役
– 池松壮亮 ⇒ 前園敦 役
– 井川比佐志 ⇒ 組合長 役
– 勝野洋 ⇒ 森下信衛 役
– 野崎海太郎 ⇒ 野村次郎 役
– 春田純一 ⇒ 小池久雄 役
– 本田博太郎 ⇒ 古村哲蔵 役
– 林隆三 ⇒ 草鹿龍之介 役
– 寺島しのぶ ⇒ 文子 役
– 白石加代子 ⇒ 神尾スエ 役
– 奥田瑛二 ⇒ 有賀幸作 役
– 渡哲也 ⇒ 伊藤誠一 役
– 仲代達也 ⇒ 神尾克己 役
メガフォンを取った故・佐藤純彌監督は、本作品をはじめ、映画祭の賞を受賞した「未完の対局」や「敦煌」、「人間の証明」などたくさんの人気作品を生み出しています。加えて、音楽は久石譲氏。
戦争ものというジャンルに苦手意識さえなければ、もう外しようがない作品のひとつです。
「男たちの大和/YAMATO」を観た感想
基本的にバッドエンド、あるいはハッピーエンドに落ち着く場合でも、なんとなくしこりのようなものが心に残りがちな戦争もの。苦手意識を抱いている人も多いのではないでしょうか?
たしかに本作においても戦争ものというだけあって血は飛びますし、銃火器はバンバン出てきます。恋愛よりも、家族よりも、なによりも国。でもその理由は……と、当時の世界で人が感じていたリアルに触れることができます。
内容の前にまず歌!
内容について語る前に、まずは主題歌について言及させてください。
本作――「男たちの大和/YAMATO」――の主題歌を担当しているのは、人類が憧れてやまない長渕剛さん。
これがまたいい味を出しているんですね。
映画の内容に沿っているというだけでなく、どこか単調でありながら、渋くて味わい深い声が心にジーンときます。
その名も「CLOSE YOUR EYES」。映画なしで単体で聴いても心に染みわたるような、今すぐ実家に戻って両親や兄弟に会いたくなるような優しい歌です。
お国のためにって本当?
平和な現代日本に生きる我々にはいまいち理解しがたいことではありますが、戦争ものの映画を観ていたり小説を読んでいたりすると、「お国のために」と言って、赤紙をもらった子どもを万歳で送り出すシーンがよく登場すると思います。
昔の人ってすごくない? もう会えないかもしれないのにね……。
正直、そう思っていました。
でも、本作に書いてあるのはそんなきれいごとばかりではない。時にそんなことがありつつも、最終的には「お国(=家族や帰る場所)を守るため」「自分だけが逃げるわけにはいかない」「仲間と最後まで戦いたい」と、そんな決意をします。
国のためにとは言っても、結局戦争とは、見えない敵を相手に大事な人を守る戦いなのかもしれませんね。(こんなことがもう二度と起きないことを願って)
若くして徴兵された青年の悲劇
戦争時代での主人公は松山ケンイチさん扮する神尾克己。
当時の神尾はたったの15歳でした。本来なら、まだまだ親元にいる年齢であるはずの彼は、敵に立ち向かうため、海兵になります。ほとんど知識のないまま武器の使いかたを叩き込まれ、軍の厳しい規定で腰を打たれ――そんな神尾が乗船することになったのが、浮沈船と言われていた「戦艦大和」。
日本の、あるいは政府の教えにしたがって「お国のために!」「死ぬ覚悟はできています!」と繰り返す彼らを見た上司の森脇(反町隆史)の一言が、ずしりと心に重く残りました。
「あんな子どもみたいな連中に、“死ぬ”とはどんなことなのか、わかっているとは思えん」
本作の中では、「国のために命をかけろ!」と言う人もいれば、安全な位置から高みの見物をしている人ももちろんいます。でも、森脇と同じく、直属の上司である内田(中村獅童)は「生きるために戦え」と言うのです。
ほかの戦争映画とは少し違ったテイストですが、これがリアルな光景なのかもしれませんね。
また、要所要所で「死なないで」「死んだらアカン」という声がかけられるのも特徴です。
戦争はなくなったわけではない
日本にいるとついつい忘れてしまいそうになりますが、世界的規模で視野を広くしてみると、内紛含め、戦争というのはいまだに存在しています。
経済を活性化させるため、領土を奪い合うため、理由はそれぞれだと思いますが、きっとなににしろ一般人である我々には理解しがたいことでしょう。
だからこそ、こういうことがあったということを、風化させてはいけない。
二度と同じ轍は踏まないよう、教科書ではさらりとしか触れられていないような残酷な事実も語り継いでいかなければならないんですね。
なんといっても俳優陣が豪華すぎる
今まで公開してきた記事でも何度もこの感想を述べていますが、本作においても、やはり伝えずにはいられない。
俳優陣が豪華すぎる!
眩しい。美しい。無理。尊い。語彙力奪われる。
厳しいながらも部下思いの内田(中村獅童)、若者に生きてほしいと願う森脇(反町隆史)、新兵ながらも仲間の屍を乗り越えて強くなっていく神尾(松山ケンイチ)、母親思いの神尾の親友西(内野謙太)、渋さと存在感ならピカイチの伊藤(渡哲也)。
誰が一番好みですか?
渡哲也の圧倒的存在感
本来、どんな作品であっても主役級の役柄が割り当てられてもいいはずの、渡哲也さんが本作で登場するのは、たった数シーン程度。
実にもったいない(ぜいたくな)使いかた……と思ったのは、わたしだけではないはず。
でも、だからこそ、いざというときの存在感が抜群に発揮されます。座っているだけでつい見てしまう。少し身じろいだだけなのに、なにかするのかとソワソワしてしまう。そんな感じです。
やはり格が違うな、と感じられた作品であるだけに、今回の訃報は非常に残念でなりません。
主人公は結局誰なのか?
物語はそもそも、あらすじでもあったとおり真貴子(鈴木京香)が神尾(仲代達也)を訪ねて、戦艦大和が沈んだところまで案内してほしいと願い出るところからはじまります。
この話は、2人――というよりは、年を重ねた神尾(仲代達也)――の回想の物語ということになるんですね。
それももう60年も前の話。
では、神尾が主人公なのか? といえば、そうとも考えられるし、一概にそうとも言えないものと思っています。
なぜなら、とある理由があってわざわざ遠方から田舎の漁村を訪ねてきた真貴子(鈴木京香)が主人公ともいえるし、若かりしころの向こう見ずで無垢だった青年の神尾(松山ケンイチ)も、負け戦になることは承知のうえで、妻を残し船に残ることを決めた内田(中村獅童)も、なんなら神尾の幼馴染みであるがために、ひたすら神尾の無事を信じて待ち続ける忍耐強い妙子(蒼井優)も、全員主人公ばりの背景を背負っているからです。
これをたった2時間半ほどに収めてしまう佐藤純彌監督の技量には脱帽するほかありません。
ただの残酷な戦争ものではない!
たとえば海外の戦争ものではよく家族間、あるいは恋人間での愛情がテーマにされていたり、日本版にしても「男子は強くあるべき(当時の教育柄、仕方なかったのかもしれませんが)」と言わんばかりの負けん気の強い男性陣が描かれていたりして、それなりに感動はするけれどいまいち共感できない、ということも少なからずありますよね。
ところが本作では、大人であろうと子どもであろうと、強さと弱さの間で揺り動く、非常に人間らしい彼らの姿を見ることができるんです。
「お国のためにとうに覚悟は決めています!」みたいな映画は良く観るけど、死ぬかもしれない状況で微塵も怖さを見せないのって、なんだかちょっと不自然に感じてしまう……。いくらそういう教育を受けたのかもしれないとはいえ、ね。
悩みながらもともに成長してゆく。そして、上司も部下も同様に仲間になっていく過程に、結末はわかっていても「なんで……!」という気持ちが止まりません。
先述のとおり、同時に本作は渡哲也さんの遺作映画。言葉少なに、けれども荘厳なオーラを放ったビシッとした姿には、毎度のごとく惚れ惚れしてしまいます。
(渡哲也さんに……R.I.P.)
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。