アメリカの人気ドラマ「ロスト(LOST)」第一シーズンの制作、脚本を手がけたことで知られるドリュー・ゴダード氏が監督業に進出したスリラー映画「キャビン(The Cabin in the Woods)」。
単なるB級映画として語られがちな本作品ですが、見ようによっては実に分析しがいのある作品なんです。
作品情報
- 作品名:キャビン(The Cabin in the Woods)
- 上映時間:1時間35分
- ジャンル:スリラー/ホラー
- 製作国:アメリカ
- 公開年:2012年
あらすじ
女子大生のデイナは友人のジュールスに誘われ、仲間と5人で山奥にある別荘にやってくる。しかし、デイナたちの行動は謎の組織によりすべて監視されており、5人は事態のすべてをコントロールする組織が描いたシナリオどおりに動かされていた。そうとは知らないデイナらはさまざまな恐怖に襲われ、ひとりまたひとりと命を落としていくが……。
(引用元:映画.com「キャビン」)
こんな人におすすめ!
- ホラーやスリラー系ってデジャブ感がすごいよね……
- オマージュ作品が好き!
- 映画業界ってなんだかマンネリ化してない?
- 新感覚の映画が観たい!
スタッフ・キャスト
- 監督/脚本:
– ドリュー・ゴダード(Drew Goddard) - メインキャスト:
– クリステン・コノリー(Kristen Connolly)⇒ デイナ(Dana)役
– クリス・ヘムズワース(Chris Hemsworth)⇒ カート(Curt)役
– アンナ・ハッチソン(Anna Hutchison)⇒ ジュールス(Jules)役
– フラン・クランツ(Fran Kranz)⇒ マーティ(Marty)役
– ジェシー・ウィリアムズ(Jesse Williams)⇒ ホールデン(Holden)役
「キャビン」注目ポイント
ホラーなのかスリラーなのか、それともSFなのか、いまいちジャンルが掴みにくいぶっ飛んだ内容の作品です。後半は血がドシャッといきますので、苦手な人は注意してくださいね!
設定は定番中の定番!でも……?
5人の大学生が山奥にある別荘に遊びに来る――。
これはもうホラー/スリラー映画で使いつくされた設定ですね。一見すると、面白味のかけらもありません。
途中で携帯の電波が入らなくなったり、ガソリン補給のために立ち寄った先のおじさんがちょっと不気味な雰囲気をかもし出しつつ「あの別荘はコロコロ持ち主が変わるからねえ」なんて言ってしまったりするのももはやテンプレートと言っていいでしょう。
ところが、話はここからです。
淫乱なジュールス、英雄のカート、学者(頭脳派)のホールデン、間抜けなマーティ、処女のデイナ。誰が生き残り、誰が死ぬのか。小気味良いまでに定番をぶち壊してくれるのはどのキャラクターでしょうか?
仕掛けられた伏線の数々
例えば、性に奔放な(だらしない)女性や英雄的存在、自分勝手なキャラクターが真っ先に消されていくというのは、ホラーやスリラー映画のセオリーですよね。
もちろん「キャビン」も同じ。
そう、途中までは。
マンネリ化した映画界に一石を投じるかのごとく、「キャビン」ではセオリー丸無視の展開が繰り広げられていきます。ただし、そこに行きつくまでの伏線の数々にはまさに脱帽です。
一行を乗せたキャンピングカーがトンネルを抜けるのと同時にくぐってしまう、目には見えない結界。これは「この先誰も外に出ることはできない」ということの伏線です。それから主人公のデイナの隣の部屋には、デイナの部屋が一方的に覗けるマジックミラーがありました。
これはおそらく、組織がデイナたちを監視(覗き見)していることの暗喩。伏線のひとつです。
こうして張り巡らされた伏線を見つけるのも映画鑑賞の醍醐味と言えます。もっとも、回収されない謎の伏線らしきものもたくさんありましたが。
映画好きの心を弾ませるオマージュ軍団
おそらく「ただのB級映画」とされがちな理由のひとつとして、後半に出てくるモンスターたちが既存映画のオマージュであるからということが挙げられるかと思います。
でも、だからこそ映画好きの心をくすぐることもまた事実。
例えば、「シャイニング」の双子ちゃん。例えば、子どもたちを襲いまくるあのピエロ。例えば、パニック映画として有名な「キューブ」の立方体。例えば、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」のゾンビなどなど、さまざまなホラー/スリラー映画のキャラクターたちが登場します。
なかでも日本人として外せないのは、謎の組織(日本組織)の画面に映り込む髪の長い女性――これは貞子含め、ジャパニーズホラーでありがちな妖怪のオマージュらしいです。本編とはまったく関係ないにもかかわらず、世界中に散らばった支部のなかでも日本支部だけが大きく取り上げられているのがすごいですね(ちなみに、この妖怪は少女たちによって浄化されてしまいます)。
複数のジャンルが一度に楽しめる
「キャビン」はホラー作品であり、スリラー作品であり、また同時にパニック映画でもSF映画でもあるのが面白いところ。
序盤で結界が張られるシーンなどはSF映画顔負けのCGが使われているし、「キューブ」を彷彿とさせる立方体に閉じ込められたりモンスターたちが組織の職員たちを見事なまでに一掃していくシーンはパニック映画そのもので、主人公たちがゾンビと対峙する場面はスリラー映画、不気味な山奥の別荘に到着したときの雰囲気なんかはホラー映画のようです。
1時間半ほどしかない上映時間で複数のジャンルが一度に楽しめる、なんとも贅沢な作品ですね!
「キャビン」を観た感想
典型的なオマージュもののB級映画という噂を聞いて期待せずに観はじめたものの、中盤あたりからはまんまとどっぷり「キャビン」の世界観にハマってしまいました。映画好きにこそ観てほしい! そんな作品。
ただし、先述のとおり伏線回収されないシーンもたくさんあるので、突っ込みを呑み込まなければいけないときもあります。例えば、「謎の組織ってなんなの!?」「最後の結末はいったい……!?」みたいな。
とはいえ、ホラー/スリラー映画のセオリーをぶち壊してくれるキャラクターたちの行動は最高ですね。こう、王道をわざわざ並べてぶった切っていく感じが。
謎の組織(研究機関)が最初から出てくるのも賛否両論のようですが、個人的には好きでした。後半に「実は……」な展開ではなく、主人公たちが犠牲になることを前提としている絶妙なネタバレ感。それでいてなお面白さを失わない二転三転する内容の広がりかた。
はじまりこそ定番ですが、最後のほうになると結末が予想もつかないはちゃめちゃさです。まあ、なんというか、なににしても好き嫌いに分かれそうな作品ではあります。
一周まわって面白い!
たしかに、モンスターたちがちょっとチープな仕上がりになっているといえばそうかもしれません。でも、そこがまた一周まわって面白かったりするんですよね。
序盤はセオリーどおりに事が進んでいくので飽きを感じてしまう人もいるでしょうが、後半に待ち受けているのは1分先すら読めない怒涛の展開。どこに伏線が張り巡らされていて、どこに他作品のオマージュがあるのか、観るたびに新しい発見ができる作品です。
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。