近年、ポリコレという言葉を耳にするようになりましたよね。
でも、正直、私はわざとらしいポリコレ映画がちょっぴり苦手。いかにも「メッセージ性あります!」「本当の正しさとはこうだ!」みたいなあからさまな描写をされると、「ヒント程度にとどめて、自分で考えさせてくれよ……」と思ってしまいます。
その点、個人的には、この作品はとてもよく出来ていたと感じています。
本記事は2024年07月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
ワンフレーズ紹介
冤罪をかけられた騎士と変幻自在に姿を変える少女の物語。
作品情報
タイトル | ニモーナ |
原題 | Nimona |
原作 | Nimona/ノエル・スティーヴン著 |
ジャンル | アニメーション、ヒューマン |
監督 | ニック・ブルーノ、トロイ・クエイン |
上映時間 | 101分 |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2023年 |
レイティング | 10+ |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
その日、バリスターは幼い頃からの夢を叶え、騎士の就任式に参加していた――。しかし、居心地の悪さに身を縮こまらせるバリスター。孤児の出であるにもかかわらず、女王に認められていることから、周囲に強く嫉妬されていたのである。そんな中でも、恋人のアンブロシウスはバリスターを支えようとしていた。ところが、バリスターが手にした剣が、ステージ上で制御不能になり、女王を攻撃してしまう。バリスターは、女王の命を奪ったとして指名手配されることになるのだった……。
登場人物
(敬称略)
バリスター・ボールドハート(声:リズ・アーメッド)
元孤児の騎士。就任式の日に、手にした剣が制御不能に陥ったために、女王の命を奪ってしまう。冤罪をかけられ、指名手配されることに。現在は、身を隠しながら真犯人について考察を重ねている。
ニモーナ(声:クロエ・グレース・モレッツ)
身を隠すバリスターの前に、突然現れた少女。変幻自在に姿形を変えられる能力を持っている。
アンブロシウス・ゴールデンロイン(声:ユージン・リン・ヤン)
バリスターの恋人で、かつて王国を守ったとされる女性グロレスの子孫でもある男性。バリスターの剣が女王を狙った際には、咄嗟にバリスターの腕を切り落とした。
映画「ニモーナ」の感想
映画「ニモーナ」の感想です。基本的に、海外のアニメーションを観る機会の少ない私でも楽しめる内容となっていました。最後にはうるっときた。
適度なポリコレ描写
個人的に、過度なポリコレ描写がある作品はちょっと苦手だなと思うことが多くて。
過去の作品で言えば、例えば「バービー」(2023)とかもそう。ポップでキュートな世界観は好きだったし、なによりライアン・ゴズリングが格好良いので、別に嫌いというわけではないんですが。
こう、言いたいことをすべてセリフにした感じが、ちょっぴり苦手でした。
ストーリーから自分で考えさせてほしかった、というのが正直なところかなと。
その点、本作でのポリコレ描写は非常に自然で良かったと思います。
バリスターとアンブロシウスは同性の恋人なんですが、(少なくともこの物語が始まった時点では)悩みも葛藤もなく、最初から恋人であることが当然として出てくる。
庶民出の自分が騎士なんてと不安がるバリスターを励ますアンブロシウス。こてん、とバリスターがアンブロシウスの肩に自分の頭を預けたときに、観ているこちら側は「ん? これ、友達の距離感ではないな?」とうっすら思うわけです。
そして、やがて出てくる「恋人」という単語。
説明も何もない、同性であるふたりの関係。当事者であるふたりがそれを自然なこととして考えているのは当然として、バリスターに嫌味を言ったりキツく当たったりしていた周囲の人間さえ、そのこと(同性同士であるということ)にはほとんど触れていなかったので、性別にかかわらず、愛し合う者同士が一緒になるのが普通である世界なのかもしれません。
考えさせられる「普通とは何か」
一方で、じゃあ性別をまったく気にしない世界なのかといえば、そういうことでもないようです。
というのも、口が悪く、常に問題を起こすニモーナに対して、バリスターは「普通の女の子の姿でいたほうが楽だろう」みたいなことを言っています。
つまりニモーナは、バリスターの思う「普通の女の子」の範疇には当て嵌まらなかったということ。バリスターの中には、無意識の「女の子とはこうあるべし」みたいな思いがあったんでしょう。
それでも、ニモーナはバリスターにとって「普通の女の子」ではなかったかもしれないけれど、生まれてからずっとニモーナとして生きてきたニモーナには、今のニモーナが「普通のニモーナ」なんですよね。
バリスターはそんなニモーナの扱い方がわからなかったから、「普通の女の子」でいることを求める。自分の中に無意識の偏見があるとは考えもせず。
自分の口から「普通」という言葉が出たとき、「それは誰にとっての普通なの?」ということは、常に意識しておきたいところですね。
普通になりたかった女の子
自由に生き、他人から向けられる感情には左右されなそうなニモーナですが、実は誰よりも「普通」になりたかったのはニモーナなんだろうなと思います。
その証拠に、変幻自在に姿形を変えながらも、「モンスター」と呼ばれることには強い拒絶感を示している。
このあたりに、胸が痛くなりました。
人とは相容れない「違う」自分。何もしていなくても「危険な存在(=ヴィラン)」になってしまう自分。唯一、自分と対等に付き合ってくれるバリスターに「普通の女の子」を求められる自分。
でも、バリスターが自身の偏見を基に「普通」という言葉を使ったように、「普通」という言葉の定義は自分の中にしか存在しないから、どうやったら「他人にとっての普通」になれるかわからない――。
少なくとも、ニーナにとっての「普通」は今の自分ですものね。
モンスター(=ヴィラン)なんかじゃない。みんなと同じだよ。
人の言う「普通」になれなかったことに一番苦しんでいたのは、きっとニモーナなんだと思います。
それがここに来て、人の思い込み(=冤罪)によりヴィランになってしまったバリスターという存在が現れて、「みんなと違うからできることがある」と証明してみせたニモーナ。素敵です。
疾走感のあるニモーナの変身
ゴリラ、クジラ、サイ――。
次から次へといろんな生き物に変身するニモーナですが、個人的に特に好きだったのは、陽気なシャークでした。
この、ニモーナがポンポンと姿を変えていくシーン。めちゃくちゃ疾走感があって良いです。カメラワークが最高で、思わず魅入ってしまいます。
赤
で、この変身した生き物たち。
基本的には赤いシルエットのような姿なんですが、この赤の使いどころが実にうまいなと感じた作品でもありました。
赤って主張が強めの色なので、印象に残りやすいうえに、見ようによってはヴィランっぽく感じられるカラーなんですよね。赤信号などのように、注意を促したり忠告をしたりというときに使われる色。
ところが、生命力に溢れる色でもあるので、場面が変われば神秘的にも感じられるという。
まったく正反対の印象を与えられる不思議な色でした。
個を受け入れるという教育
ポリコレと同様に、近年よく耳にするようになった「多様性」という言葉。
偏見って、生来備わっているものではなく、学習するものだと思っているんですが、つまり、語弊を恐れずに言えば、偏見を持つように教育されてしまっているんですよね。学校でではなく、日常生活を送りながら。
でも「それは良くないよね」となって「多様性」という言葉が声高に叫ばれるようになった。
それで今は、「受け入れたくない」という人たちが逆に肩身の狭い思いをするようになっている――というのが、私が持つイメージなんですが。
……別に「嫌だ」と言ってもいいよねえ!?
何事も、受け入れる人がいていいし、受け入れたくないと思う人がいてもいい。それが多様性ということじゃないのかなと思っています。だから、これも私が自分の中で持っている考えというだけ。
金子みすゞさんも「みんなちがって、みんないい」って言っていますしね!
ちょっと不思議な時代背景
ちなみに、めちゃくちゃ面白かった本作ですが、時代背景も結構面白かったです。
空飛ぶ乗り物があったりするのに、帯剣した騎士がいるし。地球人である私の常識に照らし合わせてみると、近未来なのか過去なのかというところ。
でも、それすら私の中の「普通」でしかないんだなと感じさせられます。
「空飛ぶ乗り物があるなんて『普通』は近未来だし、でも、騎士がいるとすれば『普通』は過去だよな」という、今の人生で学んできた「普通」。この、近未来と過去(歴史)がない交ぜになったような世界観も、自分の常識によって作り出されたものだと思うと興味深かったです。
まあ、この辺は別に考える必要もないんですが! なにしろ、まるっとフィクションなので!
映画「ニモーナ」が好きな人におすすめの作品
映画「ニモーナ」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- スピリット 未知への冒険(2021)
- ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023)
- ズートピア(2016)
- ラーヤと龍の王国(2020)
まとめ:騎士と少女の掛け合いが愛しい
(元)騎士と少女の軽快な掛け合いがとても尊く感じられる本作。
ニモーナが感情をむき出しにするのは、それだけバリスターに甘えている証拠かなと思ったり。バリスターの素直かつ単純(褒め言葉)なところには、好感が持てました。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 92% AUDIENCE SCORE 91%
IMDb
7.5/10