先日の記事で、なにをするにも絶望してしまう文豪カフカの名言が掲載された本を紹介しました。>>>名言集「絶望名人カフカの人生論(頭木弘樹編訳)」絶望するのにも生まれ持った才能が必要だって知ってた?
「落ち込むときにはひとまずどん底まで落ち込みたい」という人におすすめの一冊です。「失恋したときに失恋ソングを聴きたくなる」あの感覚と同じですね。
絶望的な言葉でも文才があれば芸術に変えてしまえるのだということがわかる一冊でしたが、今回は絶望名人カフカに対して、希望を見出す名人ゲーテの名言を多数収録した作品を紹介します。
あらすじ
希望と絶望の「間の本」があってもいいのではないかと思いました。ゲーテが希望を語り、カフカが絶望を語り、読者の皆さんがそれぞれに心に響く言葉を見つけ出すことができる、そんな本が。
(引用元:「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」帯より)
こんな人におすすめ!
- ネガティブになりがち
- 希望と絶望の間でもがいている
- クスッと笑ってストレス解消したい!
「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」を読んだ感想
世界的な文豪といっていいゲーテとカフカですが、互いが生きた時代は18~19世紀と20世紀。つまり、本来なら成立しない対話なんですね。それにもかかわらず、違和感なく対話ができてしまうほど似たような部分に焦点を当て、けれども異なる感じかたをしているのが面白いところです。
【1】両者ともに振り切れすぎていて笑える
希望名人ゲーテと、絶望名人カフカ。
普通なら「希望を持っていたほうがいいでしょ」と思ってしまいがちなところですが、ゲーテはゲーテで、思い切り(クレイジーなほどに!)振り切れています。たとえば、こちら。
百万の読者を期待しないような人間は、
一行も書くべきではないだろうね。(引用元:「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」P58)
つまり、ビッグマウス!
こう言っている本人だって、100万部を超える作品なんてなかなか書けるわけがありません。ゲーテにとって、叶うか叶わないかではない。“そうする心持ち”や“意気込み”があるかどうかが重要だったのかもしれませんね。対して、絶望名人のカフカはこう言います。
もっと大きなことで自分を試そうとするべきだ、と君は言う。
たしかに、そうかもしれない。
だが、大小で決まることでもないだろう。
ぼくは、ぼくのねずみ穴の中でも自分を試せるはずだ。(引用元:「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」P59)
まるで本当の会話のようになっています。
自分の世界は小さいのだとしたうえで、そこから出ようとする心意気も引きこもりをやめるつもりもないのだということを感じさせますね。
この2人の対話を読んでいると、「中間点はないの!?」と。両者ともに、ポジティブに、そしてネガティブにマックスまで振り切れています。
【2】ポジティブだけが「正義」ではないとわかる
ポジティブかネガティブかでいうと、ポジティブであるべきだと思われがちな昨今。
本当にそうでしょうか?
たしかに、ネガティブな発言ばかりする人と友達になるのは難しいかもしれません。でも、自分が落ち込んでいるときや悲しみの底にいるとき。ポジティブな言葉をかけることこそが正義とは、一概に言えないのではないでしょうか。
性格の合わない人ともつきあったほうがいい。
うまくやっていくには自制心が必要だが、
そういうことを通して、
心の中のいろいろな面が刺激されて、
成長し発展していくのだ。
やがて、
どんな相手が目の前に現れても、
太刀打ちできるようになる。(引用元:「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」P166)
だとか、
空気と光と友人の愛!
これだけ残っていれば、
へこたれるな。(引用元:「希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話」P174)
だとか。
ポジティブな言葉に変わりありませんが、職場の人間関係に悩んでいるとき、「後々のためになるからそんな人とも付き合ったほうがいいよ」とアドバイスされたら……。
仕事、恋愛、家族。さまざまな問題で苦しんでいるまさにそのとき、「それでも君には空気も光も友達もあるじゃないか!」と励まされたとしたら。
ネガティブでも共感してくれたほうが、受け入れやすい状況もあると思うんです。
そう、ポジティブなことだけが正義というわけではないはず!
【3】似て非なる2人だからこそ面白い
この2人、実は生まれ育った環境自体は非常によく似ています。
たとえば、
- 裕福な家に生まれて、
- 父親の期待を背負いながらもうまくやれず、
- 作家業だけで生きていくことはできず、生計を立てるために役人として働いて
- 恋愛をするたびに名作を残しました。
それなのに、考えかたがまるで違う。
この生い立ちがあったからこそ陽気で明るい性格になったゲーテと、逆に繊細すぎる性格の持ち主になってしまったカフカ。
自分はどちらかな、と照らし合わせながら読んでみるのも面白いでしょう。
世紀が違う不思議な対話
普通であれば、実現することのなかった2人の対話。
見た目も性格も正反対のゲーテとカフカですが、後々まで語り継がれる文豪となったすごい才能の持ち主です。当時は作家業一本で生きていける時代ではなかったことがなんとも悔やまれますね。
カフカの話は先日の記事に書いたとおりですが、ゲーテの代表作「ファウスト」なんかは何十年にもわたり執筆された大長編(休んだり執筆したりを繰り返しつつ)。
もちろんその途中には他の作品を書いたりしているので、ぜひ読んでおきたい作品のひとつです。
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。