Twitterはじめ、それぞれのSNSにはキラキラしている人たちがたくさん。それは励ましの言葉になるのと同時に、時と場合、気の持ちようによってはまぶしく感じることもありますよね。
たとえば、過去の偉人たちの言葉も同じ。自信に満ち溢れていて、それは輝かしく見えるけれど、落ち込んでいるときの心には実はあまり響かないものです。
――たったひとりのネガティブすぎる偉人の言葉を除いては。
あらすじ
「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」これは20世紀最大の文豪、カフカの言葉。日記やノート、手紙にはこんな自虐や愚痴が満載。彼のネガティブな、本音の言葉を集めたのがこの本です。悲惨な言葉ばかりですが、思わず笑ってしまったり、逆に勇気付けられたり、なぜか元気をもらえます。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはいた、巨人カフカの元気がでる名言集。
(引用元:Amazon.co.jp「内容(「BOOK」データベース」より)
こんな人におすすめ!
- 人生に絶望した!
- ポジティブな言葉を疑ってしまう(響いた試しがない)
- 前向きすぎる意見を押し付けてくる人が苦手
- いまはとことん落ち込みたい……
「絶望名人カフカの人生論」を読んだ感想
20世紀最大の作家とも言われるフランツ・カフカ。朝起きたら虫になっていた男を描いた「変身」の生みの親だと言えば、なんとなく聞いたことはあるでしょうか? 類稀なる文才を持った人ですから、さぞかし自信満々……なのかと思いきや、彼はとんでもなくネガティブな人だった!
【1】絶望にも才能がいるとはじめて知った
人間生きていれば誰もが一度や二度、将来に悩んだり生きる意味を考えたりするのではないでしょうか。人間関係に将来の夢、仕事、結婚、子育て、恋愛――必死で生きていればいるほど、悩みは尽きないものですよね。
でも、甘い。まだまだ甘いですよ、カフカに比べれば!
あらすじでも書かれていたこの文章、誰に向けたものだと思いますか?
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
(引用元:絶望名人カフカの人生論 P11)
これはなんと、彼の婚約者にあてられたものです。もう少し詳しく書くと、こう。
将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
将来にむかってつまずくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。(引用元:絶望名人カフカの人生論 P11)
こんなことを言う人と婚約できますか? カフカはなんだかんだ生涯独身を貫いたわけですが、「そりゃあそうだ」と思いきや、婚約を申し込んだのも、破棄したのもカフカのほうです。
さて、カフカの名言といえば、
すべてお終いのように見えるときでも、
まだまだ新しい力が湧き出てくる。
それこそ、おまえが生きている証なのだ。(引用元:絶望名人カフカの人生論 P3)
特に有名なのがこちら。本書を読めばわかりますが、カフカはこんなに明るい男性ではありません。これはネガティブすぎる言葉を無理矢理切り取って、ポジティブに変換した言葉。この言葉には、続きがあります。
もし、そういう力が湧いてこないなら、
そのときは、すべてお終いだ。
もうこれまで。(引用元:絶望名人カフカの人生論 P4)
さすがです。
どんなに後ろ向きな性格でも、カフカが自ら命を絶とうとしたことはありません。でも、それは決して将来に希望を抱いていたからではない。むしろ、「生まれ変わってもどうせ……」と死んだあとのことすら悲観的に見ていたからにほかならないのです。
まさに絶望する天才です。
【2】絶望しているはずなのにクスッと笑ってしまう
多くの作家に大きな影響を与えてきたカフカですが、彼自身はといえば、生前まったく評価されることのない小説家でした。
当然、彼にも(独身ですが)生活はあるのでしがないサラリーマンを続け、そのかたわら長篇小説を書き続けますが、満足感は得られずすべて未完のまま。体は弱く、家族とも仲が悪い。さらには愚痴ばかりなんて、最悪です。
本書にはそんな愚痴がギッシリ詰め込まれています。
「ええ、愚痴なの?」と思いましたか? でもこれが意外と面白い!
あまりにもネガティブで、ネガティブすぎるからこそクスッとしてしまう、「今まさに人生のどん底だ!」と感じている人にこそ読んでほしい一作です。
ぼくはひとりで部屋にいなければならない。
床の上に寝ていればベッドから落ちることがないのと同じように、
ひとりでいれば何事も起こらない。(引用元:絶望名人カフカの人生論 P42)
これも婚約者だったフェリーツェにあてた手紙の中に書かれていた一文だそうです。まるでニートのような言い草。同様に、「地下室のいちばん奥の部屋で暮らしたい! 誰かが食事を持ってきてくれて、それを取りに行くだけの毎日でいい!」みたいな言葉も残しています。
人間、しんどいときやつらいときにひとりになりたいことはあるかもしれませんが、地下室のいちばん奥の部屋に引きこもりたいとまで考える人がどれほどいるでしょう?
【3】現代ニートの先駆け!?
先に挙げた例文からなんとなくわかるかもしれませんが、カフカが言っていることは割とニート気質です。
ぼくはいつだって、決してなまけ者ではなかったと思うのですが、
何かしようにも、これまではやることがなかったのです。
そして、生きがいを感じたことでは、
非難され、けなされ、叩きのめされました。
どこかに逃げだそうにも、それはぼくにとって、
全力を尽くしても、とうてい達成できないことでした。(引用元:絶望名人カフカの人生論 P30)
これは父への手紙に書かれていた一節。生きがいとは、つまり小説のことでしょう。ところが、生きている間に評価されることはなかった。カフカの小説が世に知られるようになったのは、学生時代からの親友(であり、当時の作家でもあった)ブロートの努力あってのものです。
「働かないのは、その気がないからじゃない」「何かやったらやったで文句を言われる」「外に出たくなくて出ないわけではない」
「もっと頑張れ!」と応援したくなりますが、これがカフカ。ネガティブを極めた男性の言葉です。後ろ向きな日常の愚痴ならだれに劣るともなく、その文才を遺憾なく発揮しました。
【4】父に残した恨みつらみ……いや、つらいのは父!
カフカは自分の人生がこんなにも落ちぶれたものであることを、両親の責任だと思っていました。特に父親とはなかなかうまくいっていなかったようで、36歳の時にはタイプ原稿で45ページにもおよぶ手紙を書き残しています。
しかも、内容はすべて親に対する恨みつらみ。
こんなものを渡された父のほうがつらい!(実際には、母の手に渡っただけで父のもとには届かなかったそう)
【5】ほんのり勇気付けられる
「学校が……」「結婚が……」「仕事が……」と、カフカの口から飛び出すのは文豪らしくない日常の愚痴ばかり。
でも、ほんのり勇気付けられる。
なぜかわかりますか?
それはきっと、彼のネガティブさは決して無責任な言葉で表されるものではないから。そして、人間なら誰しもが持つ弱さが繊細かつ力強く表現されているから。
ネガティブを極めているのに、力強いと感じるなんて不思議ですね。
なにが救いになるかは人それぞれ
幼少期からなにもかもに絶望してきたカフカですが、実は最後の最後で、穏やかな生活を送った時期もありました。
それは――と、あまりネタバレはしたくないので、ここはぜひ本書を読んでほしいところ。なんとも絶望名人らしい言葉を残しています。
手紙に残された、ありのままのカフカを写した言葉を見ると、「変身」や「審判」、「ある流刑地の話」など世に残る名作を読んでみたくなりますよ!
※本記事の情報は2020年11月時点のものです。