たったひとりの君へ―牧野あおい作品集― (りぼんマスコットコミックス)
表紙を見て王道。内容を見ても(一見)王道。
まるで小学生のように純真無垢な気持ちに飢えているんだ! という人におすすめしたいのがこちら。(株)集英社から発行されている少女漫画「たったひとりの君へ(牧野あおい著)」です。
短編の作品集になっていますので、忙しくてなかなかまとまった時間が取れないという人にも読みやすい作品になっています。
あらすじ
その日から私は、暁を撮り続けた。毎日…毎日…―――君が、いなくなってしまうまで。
1台のビデオカメラをきっかけに、はじめて人を好きになったみなみ。その相手には、ある重大な秘密があった――。(「REC―君が泣いた日—」)
(たったひとりの君へ「あらすじ」より)
「REC―君が泣いた日—」は、「たったひとりの君へ(1巻完結)」のなかのメインストーリー。泣かないということは果たして強さなのか。そんな素朴かつ、純粋な疑問が込められた感動作です。
こんな人におすすめ!
- 忙しいので隙間時間に漫画が読みたい人(短編集)
- 少女漫画が好きな人
- ヒューマンストーリーが好きな人
- 泣けない人
- 自分自身に厳しくしがちな人
- 純粋に人を好きになる気持ちを思い出したい人
- 小学生~中学生までの思春期時代に立ち戻りたい人
「たったひとりの君へ」おすすめポイント
登場人物は全員中~高校生と年齢層は比較的若め。でも、人間の生きかたとはなんたるかを問われるような重たく考えさせられる内容のストーリーもあるので、大人にこそ読んでほしい作品集です。一話完結型なので、物語ごとにおすすめポイントを紹介していきます!
①REC―君が泣いた日—
その日から私は、暁を撮り続けた。毎日…毎日…―――君が、いなくなってしまうまで。
(REC―君が泣いた日—「あらすじ」より)
上記あらすじにも記載したとおり、「君(暁)がいなくなってしまうまで」の話。
生きかたを考えさせられる
子どもはもちろん、大人になってから「人間の生とはなにか」「自分がいまここに存在する意義とは」みたいなものを考えたことはありますか?
どんなに生きたいと願っても、どうしようもないこともある。
当然のようで、実はあまり実感の伴わない言葉ですよね。人生100年時代と言われる現代で、もし先が長くないとしたら。その限られた時間のなかで一体自分がなにを選び取りなにを諦めるのか、真剣に考えさせられます。
人に優しくなれる
相手が笑っているからといって、楽しそうに見えるからといって、悩みがないとは限らない。
胸の内に抱えたものは結局のところ、本人にしかわからないんですよね。泣かないことを強さだと言う人もいれば、強がり(=ある意味で弱さ)だと言う人もいる。
他人の苦しみを見て見ぬ振りをしがちな人が多いいま、ほんの少しだけ優しくなれそうな気がする物語です。
人が一番美しい瞬間がわかる
毎日のようにテレビに出演しているタレントさんや、雑誌の表紙を飾るモデルさんなど、格好良い(可愛い)人は数えきれないほどいます。そもそもただ格好良い(可愛い)だけの人なら、自分のクラスに一人や二人ぐらいはいるものです。
でも、本当の美しさとはなんなのか。外見か、内面から溢れ出すものか。
苦しいときも悲しいときも、うれしいときもなんでもいい。自然体でいられるときが人は一番美しいのかもしれません。
純粋な愛に感動できる
恋人に対する恋情や友人に対する友情、家族に対する家族愛など、愛情にはさまざまな種類が存在します。大人になったいま、残念ながら愛だけで人を量ることは難しく、職業や肩書き、周囲の人間関係などの概念が邪魔をしてしまうことも多いもの。
でも、中学生、高校生のときはどうだったでしょう?
- 好きだから付き合いたい!
- 好きだから一緒にいたい!
- 好きだから真似したい!
- 好きだから守りたい!
- 好きだからちょっとしたことで苛立ってしまう!
そんな純粋な気持ちだけで行動することはありませんでしたか? 恋情、友情、さまざまな「愛」を詰め込んで、愛のまま(わがままに!)突っ走る疾走感と喪失感を同時に感じることができます。
②制服なんて好きじゃない。
小学校を卒業し、春から中学生になった幼なじみの2人のお話。まだ10歳そこそこの年齢ということもあって、この2人の性格はやや幼いと言えますが、大人にも覚えがある思春期ならではの悩みが詰め込まれた一作です。
スクールカーストのリアルが見える
スクールカーストとは。
現代の日本の学校空間において、生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現。
(引用元:Wikipedia「スクールカースト」)
どこの学校にも少なからず、このような目に見えない階級制度のようなものが存在するのではないでしょうか。時にいじめに発展したり、時に自己肯定感を低くしてしまったりと、現代の日本社会では目を逸らしてはならない問題のひとつです。
小学生では当然のように過ごしていた日々が、中学校に入学したことで突如として変わってしまう。それは誰もがみんな同じ制服に身を包むから。より上下の差が際立ってしまうから。
そんなリアルを描いた作品に、誰もが懐かしさと当時の現実を思い出すことでしょう。

ちなみにモカ氏はスクールカースト底辺中の底辺でした…。上位の人たち、怖かったなあ…。でも大丈夫。それでも海外行けるよ!
人の長所を素直に認めたくなる
外見の可愛らしさや内面の美しさ、特技や趣味。
自分が惨めな気持ちでいるときにそんな人の長所を目の当たりにすると、ついひがんでしまいたくなりますよね。SNSで匿名書き込みができるようになったいま、実際にひどい言葉をぶつけてしまう人もいるかもしれません。
でもそれって、相手はもちろん、自分自身をも傷付ける行為。
辛いとき、苦しいときは優しい言葉さえ皮肉に聞こえたり腹立たしく感じたりするものですが、そんなときは素直に受け止めて心を落ち着けたいものです。

ひがんだり怒ったりするのって、予想以上に体力を消耗するんですよね…。
永遠の友情を信じたくなる
大人になるとどうしても疎遠になってしまう人がいたり、数年に一度の同窓会に顔を出しても「はじめまして」状態の人がいたりと、昔の友達と交友関係を続けるのが年々難しくなっていってしまうことはありませんか?
特に中学生は思春期真っただ中で、人の目が気になる時期。そんななか、作中の幼なじみ2人からは悩みながらも前に進もうとする意地らしさが感じられて、現実にはあまり見られない永遠の友情を信じてみたくなります。
③最終ループ
車椅子に乗った主人公の女の子と、図書館で働く10代の男の子の可愛らしい(と思いきや、ヘビーな内容の)お話。主人公がなぜ車椅子生活を送ることになってしまったのか、少年がなぜ中学卒業後に進学せず働きだしたのか。「良い人ってなに?」「過去は消えないの?」そんな答えのない疑問について考えさせてくれる作品です。
大人になりきれない思いに共感できる
- 成人式もしたし、20歳になったからもう大人!
- 25歳でも自分のことでいっぱいいっぱいだしまだ大人になりきれないなあ。
- 30歳ってもうオバサン(オジサン)!? もっと大人だと思ってた…。
- いやいや、40、50歳になったってスナック菓子好きだしやりたくないこともいっぱいあるし大人と言えるのかな。
- え、ちょっと待って、“大人”ってどうやったらなれるものなの…?(絶望)
こんなふうに考える“オトナ”は実はたくさんいて、でも仕事をして生計を立てなければいけないから、結婚して子どももいて責任があるから、ちょっと頑張って“オトナ”を装っているということはないでしょうか?

少なくともモカ氏はそうです! 子どものころ考える大人ってもっと大人だった…。
大人だって悩みはあるし、逃げたくなることもある。弱いままの人もいる。強がっている人だっているし、人のせいにしたくなることもあるし、なにもかも投げ出したくなることだってある。
そんな気持ちを代弁してくれるかのような存在が主人公の実姉(中学校の養護教諭)です。大人だからこそ、「わかるわかる!」と共感の嵐を呼ぶこと間違いなし!
過去との向き合いかたを考えさせられる
過去は消せないとよく言いますが、当人たちによってないも同然の出来事にされていることはありますよね。
例えば学生時代に同級生から嫌な思いをさせられたとして、いざ大人になってから再会してみると、相手はまったく憶えていなかった、など。
やられたほうは鮮明に憶えていても、やったほうは案外気にせず楽に生きていたりするものなんですよね。
そう考えると、人とは多少の出来事では変わらない生き物なのでしょうか? 自分が被害者、加害者、傍観者になってしまった場合、その過去と向き合うにはどうしたらいいのでしょうか?
④HAL―ハル—
「たったひとりの君へ(牧野あおい著)」のトリを飾るのは、上記3作品とテイストが異なるファンタジー色の強い一作。なんでも器用にこなせる学校のマドンナ的存在の主人公と、死神「ハル」の物語です。
人間の価値とはなにか考えさせられる
昔から運動神経抜群、容姿端麗、頭脳明晰の優等生として通ってきた挫折を知らない主人公「しずく」は、それこそが自身最大の価値であると誇りを持っています。
この「人間の価値」というのを考えたとき、あなたならなにを見出しますか?
そもそも、「人間の価値」とは誰が決めるものなのでしょう?
ただの少女漫画、ファンタジー作品だとは馬鹿にできない、深いテーマが隠された世界観にグッと引き込まれること間違いなしです。
微力は無力ではないことがわかる
自分になにができるかを考えてみると、意外となにもできない、あるいはできていないということに気付く瞬間があったりします。
でも、小さな力でもそれはもしかしたら誰かの支えになっているかもしれない。微力は無力ではないんです。
弱い人は弱い人なりに、強い人は強い人なりに、凡人は凡人なりに自分ができることをマイペースにやっていけばいい。そう思わせてくれる良作です。
社会性のあるメッセージに他人事とは思えない
「たったひとりの君へ」を繊細なタッチで描いた牧野あおいさんは、上記のその他作品で挙げた「さよならミニスカート」や「セカイの果て」などのなかでも、現代では無視できない社会問題を取り上げてくれています。
子どもはもちろん、大人にこそ読んでほしい作品集です。

個人的には「REC―君が泣いた日—」が特に好きでした!

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