NOPE/ノープ(字幕版)
西部×ホラー×SF。
特にSFの要素が強いので、単純にホラーが観たくて選んだ人はちょっと肩透かしを食った気分になるかもしれない作品です。
とはいえ、エンタメの中にメッセージ性も感じられました。
本記事は2024年03月に執筆されました。すべての情報は執筆時点のものです。
作品情報
タイトル | NOPE/ノープ |
原題 | Nope |
ジャンル | ホラー、SF |
監督 | ジョーダン・ピール |
上映時間 | 130分 |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2022年 |
レイティング | G |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
あらすじ
舞台はロサンゼルス近郊の牧場。半年前、亡き父から牧場を受け継いだOJだったが、いまだ父を襲った不運を信じられずにいた。空から落下してきた飛行機の部品が直撃しての死とされているものの、果たしてそんなことがあり得るのかと。それに、その時OJは見たのだ。空中に浮かぶ謎の飛行物体を……。
登場人物
(敬称略)
OJ・ヘイウッド(演:ダニエル・カルーヤ)
亡き父から牧場を受け継いだ黒人青年。目の前で父が亡くなった際に、空に浮かぶ飛行物体らしき何かを目撃している。内向的な性格。馬の調教師。
エメラルド・ヘイウッド(演:キキ・パーマー)
OJの妹。レズビアン。兄とは正反対に、社交的で明るい性格をしている。
エンジェル・トーレス(演:ブランドン・ペレア)
家電量販店の店員。ヘイウッド兄妹が防犯カメラを求めて店を訪れたのをきっかけに、彼らの事情に(自ら)巻き込まれていくことになる。お調子者で好奇心旺盛だが、少々軽い。
リッキー・“ジュープ”・パク(演:スティーヴン・ユァン)
元子役で、現在はテーマパーク「ジュピターズ・クレイム」のオーナー。
アントレス・ホルスト(演:マイケル・ウィンコット)
有名な撮影監督。
映画「NOPE/ノープ」の感想
映画「NOPE/ノープ」の感想です。ジャケットを見るとホラーらしいホラーのようですが、実際にはSF要素のほうが強い内容となっています。アメリカ郊外の広大な敷地を活かした作品です。
ジョーダン・ピール監督の作品にしては難易度低め
ジョーダン・ピール監督の代表作というと「ゲット・アウト」や「アス」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
どちらもなかなかに難解な作品ですよね。考察しがいがある作品ともいう。
上記2作品に対して、本作(「NOPE/ノープ」)は難易度低めの内容となっています。といっても、頭を使わなくて済むだとか理解しやすいとか、そういう意味ではなく。
「ゲット・アウト」や「アス」に比べるとエンタメ性が強く反映されているため、見るからに考察しがいのある難しげな作品よりも抵抗なく観られる人が多いだろうということです。
「ヤツ」のビジュアル
突如として現れる「ヤツ」のビジュアルはほとんどUFO。
ただ、現在は「UFO(Unidentified Flying Object)」ではなく「UAP(Unidentified Aerial Phenomena)」と呼ぶらしいですね。「未確認飛行物体」から「未確認空中現象」に。
つまり「ヤツ」は「現象」。
「『ヤツ』はUFOではなくUAPだ」というのが作中で説明されているんですけれども、確かになと感じました。
UFOというと「Object(物体)」ということもあって、あくまでも「入れ物」みたいなイメージになりますよね。一般的には「宇宙人が乗っている物体」を指すことが多いはず。
でも「Phenomena(現象)」と言われると、それ自体が何かであるような印象を持ちます。
まさに本作に登場する「ヤツ」そのものです。
ちなみに、作中で名付けられる「ヤツ」の名前は「Gジャン」。
ずっと訴え続けてきた人種差別問題
「ゲット・アウト」や「アス」でもそうでしたが、多くのジョーダン・ピール監督の作品で人種差別問題が描写されています。
あまりわかりやすくはありませんが、本作の中でも人種差別がうっすら描写されていましたね。
中でも特に明確に提示されていた例は、映画のはじまりについての話。
それは映画界に存在する“搾取”を明示することで、その象徴となるのは劇中に引用される1887年にエドワード・マイブリッジが撮影した馬の連続写真だ。“映画”の原初であり、ナショナル・ギャラリーに永久収蔵されたその歴史的写真には、馬の名前や馬主の名前が記録されているにもかかわらず、写っている黒人ジョッキーの名前はどこにも残されていない。
(引用元:MOVIE WALKER PRESS – ジョーダン・ピール監督が語る、『NOPE/ノープ』での挑戦とエンタメ愛「『AKIRA』と『エヴァ』は革命!」)
一般的に、世界初の実写映画とされているのは、リュミエール兄弟による「工場の出口」(1895)。
ですが、本作では上記にあるように、エドワード・マイブリッジが撮影した馬の連続写真(「動く馬」;「The Horse in Motion」)と主張しています(上記だと1887年とありますが、たぶん1878年)。
そして、この馬に乗っている黒人が映画のはじまりだと。
にもかかわらず、騎手であるこの黒人の名前は残されていない。つまり見えない人種差別がここで行われている。馬の名前と馬主の名前でさえ明示されているのにね。
ある意味、馬主よりも……もしかしたら馬よりも下。アメリカの最下層にいるのが黒人だということが薄く描写されているわけです。
中盤(終盤だったかも?)でOJが馬に乗って駆けるシーンは、まさに黒人の権利を取り戻そうとしているかのようです。それこそ、作中で語られていた「動く馬」を彷彿とさせます。
まあね、そもそもこの「OJ」という名前は、聞く人が聞けば「わあ、あの人だ!」となるわけですが、明らかに90年代を象徴する事件に関わったO.J.シンプソンを意識していますよね(気になる人は「O.J.シンプソン事件」で調べてね)。
O.J.シンプソンも黒人。
作中で白人の俳優が「あなた、OJっていうの?」(こんな感じの言い回しだった気がする)と怪訝そうに言っているシーンは、ダイレクトに胸にキました。キツいなコレ、と。
そういう周囲の対応とか環境とかが、内気で陰鬱なOJ・ヘイウッドという人間を作り出したのでしょう。
見ることと見られること
Gジャンを撮影し、バズることでひと儲けしようとしているエメラルド。
まさに現代的な考え、行動ですよね。
エメラルド演じたキキ・パーマーは「SNS中毒でインフルエンサーを目指して躍起になるエメラルドは、この作品が描いているものと大きく関わっています。つまり、自分の外側にある何かを常に追い求め、承認欲求を満たす何かを求め続けている。」と説明し、続けて「たぶん誰もがエメラルドに共感できると思う。自覚できるかどうかは別として、見てほしいという気持ちだけは私たちの多くが持っているから」と言及している。
(引用元:SCREEN ONLINE – ジョーダン・ピール監督が本作の根底に潜ませたメッセージとは?『NOPE/ノープ』現代人への警鐘を示す本編シーンが解禁!)
本作には「見ること」「見られること」を強く意識させる描写が多くありました。
Gジャンを見てはいけない。Gジャンに見られることの恐怖。リスクを自覚しながらも、レンズを通してGジャンを見ようとするエメラルドとエンジェル、ホルスト。最後まで諦めず対峙するエメラルドに、基本的には受け身で逃げ腰のエンジェル。そして、見られることに取り憑かれたようなホルスト。「見ること」「見られること」に三者三様の反応を見せる三人。
アメリカの開かれた田舎だからこそ、遮蔽物はほとんどなく、ダイレクトに「(Gジャンに)見られている」感じがしたのも、SNSを通して不特定多数の人に「見られ」、直接的な反応が返ってくる今の時代を反映しているかのよう。
大勢の人に見られるのは怖い。でも、注目してほしい。(自分という人間を)認めてほしい。それでも、やっぱり一方的に搾取されるのは嫌だ。
人間として当然の相反する感情を体現したのがエメラルドやホルストであるように感じました。
OJとジュープの価値観の相違
本作を語るうえで、欠かせない存在。
それがジュープ。
ジュープは元子役で、お茶の間人気があったシットコム「ゴーディ 家に帰る」に出演していました。そこで、チンパンジーによって引き起こされた惨劇。
そんなジュープは現在、テーマパークを運営する経営者となっています。
かつてゴーディが暴れた際には一人無事でいられたわけですが、おそらくここでジュープは「動物は躾ければ(手懐ければ)言う通りに動く」と間違った成功体験を得てしまったと思われます。
その後、Gジャンが現れたことで、馬を餌に見世物にしようとするジュープ。件のチンパンジーも言ってみれば見世物そのものでしたね。ここでも「見ること」と「見られること」が意図して表現されている。
対して、馬の調教師であるOJは「動物は躾けることができる。しかし、習性を理解したうえで接しない限り共存はできない」というような考えの持ち主。あくまでも、動物主体で考えることができる人。
冒頭にも、映画に関わるスタッフたちに「馬の目を見るな」と忠告していました。
でも、それを無視して(あるいは軽視して)守らなかったスタッフは、馬に蹴られてしまうことに……。
支配する(搾取する)側でも、相手を尊重しないと思わぬ反撃を受けることがある。なんとなく、OJたちとGジャンとの関係に似ているような気もします。「ヤツ」は圧倒的「支配者側」でしたからね。
エメラルドがレズビアンという設定
OJの妹・エメラルドはレズビアンという設定。
作中にも「彼女が~」というようなセリフがあります。ただ、その彼女だという人物は出てこないし、その存在を匂わせるような発言も他にはほとんどない。
個人的にはそこに、女性が女性を愛するのはおかしなことではないよ、だから特別に取り上げなくてはいけないことではないんだよ、というメッセージを受け取るのと共に、黒人であり、女性であり、さらに性的マイノリティーに属するエメラルドが支配者に立ち向かい勝利する下剋上物語でもあるんじゃないかと感じました。
アメリカの社会・歴史的に搾取され続けてきた黒人ですが、それが女性、性的マイノリティーだとするとなおさらでしょう。
そんなエメラルドが果敢に立ち向かい、アメリカでもっとも成功した黒人女性と言われるオプラ・ウィンフリーのもとを目指す。ここで出てくるのがオプラというあたり、やけに現実味を主張してくるんですよね。
これはフィクションだけれど、フィクションとも言い切れない……みたいな。
ヘイウッド兄妹と父親の関係
あと、ヘイウッド兄妹と父親の関係を垣間見た時、時代の移り変わりを強く感じましたね。
父親は馬の調教を兄のOJには教えたものの、妹には同じようにしなかった。そこには「女は(男は)~でなければならない」という固定観念があったはず。
日本でも、少し前までは「男性は外に働きに出る(稼ぎに出る)もの」「女性は家を守るもの」などをはじめとする、男らしさ、女らしさみたいなものが求められる時代でした。
でも、今はどうか。
まだ一部にそういった固定観念が残っているところもあるとは思いますが、「男は~」「女は~」という考えが避けられるようになってきていますよね(ここでその善し悪しを語るつもりはありません)。
ヘイウッド兄妹の父親もまさにそんな時代を生きていたのでしょう。
でも、その子どもであるはずのヘイウッド兄妹にはそれがない。兄(男)のほうが内向的でシャイ、人間関係の構築が苦手で、妹(女)のほうが社交的で外向き、誰とでも打ち解けられるというところにも、それが表れています。
まさに世代交代を象徴する表現だったような気がしますね。
また、父親について馬の調教を教えてもらっているOJが、窓からそれを眺めるエメラルドに「見ているよ」とハンドサインを送るシーン。
ここに兄妹の強い絆が表れています。
映画「NOPE/ノープ」が好きな人におすすめの作品
映画「NOPE/ノープ」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- アス(2019)
- ゲット・アウト(2017)
- クワイエット・プレイス(2018)
- パンドラム(2009)
まとめ:エンタメ性の強いSF映画
ジョーダン・ピール監督の作品としては、ややエンタメ性が強い作品「NOPE/ノープ」。
ただ、単なるエンタメ作品だと思って観ると、ところどころ意味がわからない部分もあると思います。そんなときは、動物からの搾取や人種差別問題などを念頭に置いて観てみると、一部納得するところがあるはずです。
Rotten Tomatoes
TOMATOMETER 83% AUDIENCE SCORE 69%
IMDb
6.8/10