時は江戸時代。
祖父の死をきっかけに山から下りてきた鉄砲娘(物理)が、儚い系美人の青年と出会うところから物語は始まります。
賛否に分かれる作品ですが、ジブリ系の映画が好きな人にはおすすめです。
作品情報
作品名 | 伏 鉄砲娘の捕物帳 | 原題 | ― |
上映時間 | 110分 | ジャンル | アニメ |
製作国 | 日本 | 監督 | 宮地 昌幸 |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
あらすじ
時は江戸時代。祖父の死をきっかけに、山を下りて兄のもとを訪れた少女・浜路。活気あふれる初めての町に足を踏み入れたその日、浜路は男たちに追われている不思議な青年と出会う。仮面を付けた彼の名前は信乃。同時に浜路は、人と犬の血を引き、人の生珠を喰らう、討伐対象となっている「伏」のことを知る。
登場人物
主人公の「鉄砲娘」。猟銃使いで、祖父の死をきっかけに山から下りてくる。真っ直ぐな性格で、たびたび少年に間違えられる。
犬の仮面を付けた不思議な青年。
浜路が町で出会った少女。のちのち友人関係に。
浜路の兄。賞金稼ぎで、浜路を呼び寄せて「伏」狩りをしようとする。
舟で食事を売りにくる女性。道節の子を身籠っている。
伏狩りをしている侍。「伏」の生首を目の前にパニックに陥る浜路に、「伏」のことを教える。
「伏狩り令」を出した当代将軍で、「伏」の排除に並々ならぬ執着を持っている。
映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」の注目ポイント
江戸の世における、架空の町を舞台に繰り広げられる伏狩り。ストーリーは非常にシンプルなので、何も考えずに観たいときにおすすめです。
原作は「伏 贋作・里見八犬伝」
映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」(以下、本作)の原作は、直木賞作家・桜庭一樹氏による「伏 贋作・里見八犬伝」です。
本作:滝沢冥土は少女
など、原作と本作では異なる点が多々あるようなので、気になる人は原作のほうも要チェック!
というか、アニメ版はやや説明が足りないと感じる部分も。そこらへんの知識を補うためには、やはり原作を読んでおいたほうが、ラストを迎えたあとにスッキリするでしょうね。
カラフルなビジュアルイメージ
江戸の町といい、吉原といい、作中で描かれるその世界観は非常にカラフル。
これは「良い意味」で作者の予想を裏切っていたようで、曰く、
桜庭一樹さんにとって本作は、もともとはモノクロームなイメージだったという。それが映画ではカラフルで、近未来的、SFぽくなったことに印象を受けた様子だ。ただ、それは否定的なものでなく、「全然違うけれど、観たかったもの」と評し、ポジティブに受け止めていた。
とのこと。
ポップでコミカルで、でもシリアスで儚く刹那的。そんな印象を与えるビジュアルイメージに魅入られる人は少なくないはずです。
声優陣が豪華
本作の魅力のひとつは、声優陣の豪華さでしょう。
キャラクターたちの声を担当するのは、宮野真守さんをはじめ、神谷浩二さんや坂本真綾さんなど、そうそうたる顔ぶれです。
参考のために、それぞれの声優たちの代表作を記載しておきます。
「けいおん!」琴吹 紬役
「ドキドキ!プリキュア」菱川 六花/キュアダイヤモンド役
「七つの大罪」ビビアン役
「学園アリス」野田先生役
「DEATH NOTE」夜神 月役
「ヴァンパイア騎士」錐生 零/錐生 壱縷役
「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」リン・ヤオ役
「エレウカセブンAO」アラタ・ナル役
「ドキドキ!プリキュア」剣崎 真琴/キュアソード役
「妖しのセレス」十夜役
「DEAR BOYS」土橋 健二役
「スキップ・ビート!」敦賀 蓮役
「アカメが斬る!」ブラート役
「鬼滅の刃」宇随 天元役
「天空のエスカフローネ」神崎 ひとみ役
「桜蘭高校ホスト部」藤岡 ハルヒ役
「黒執事」シエル・ファントムハイヴ役
「フルーツバスケット」草摩 慊人役
「超GALS!寿蘭」乙幡 麗役
「ハチミツとクローバー」竹本 祐太役
「夏目友人帳」夏目 貴史役
「黒子のバスケ」赤司 征十郎役
「灼眼のシャナ」池 速人役
「メジャー」沢村 涼太役
「黒子のバスケ」伊月 俊役
「弱虫ペダル」石垣 光太郎役
改めて見てみると、かなりの有名作品に出演してきたメンバーなのだとわかりますね!
文藝春秋創立90周年記念作品
本作は「文藝春秋創立90周年記念作品」です。
そんなわけで、声優陣だけでなくスタッフ陣のほうにも気合いが入っています。
例えば、監督。
ジブリ作品の「千と千尋の神隠し」で監督助手を務め、隠れた名作とも言われる「亡念のザムド」で監督デビューを果たした宮地昌幸氏がメガフォンを取りました。
それに加えて、脚本は「魔法先生ネギま!」や「ブレイブ・ストーリー」「コードギアス 反逆のルルーシュ」などで知られる大河内一楼氏。
ビジュアルデザインは「創聖のアクエリオン」(コンセプトデザイン)や「エヴァンゲリオン新劇場版」(デザインワークス)を手掛けたokama氏。
いまや日本アニメ界の第一線で活躍する人材をこれでもかというほど起用し仕上がったのが、映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」です。
映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」を観た感想
口の悪い儚い系イケメンが好きな人は絶対好き。
内容などはすべて度外視してキュンキュンできる作品でした。
普通に、浜路と信乃の恋物語として楽しめる。
でも、それだけではないから、映画というのは面白いんです。
そもそも浜路は猟師なので、山で暮らしていたときは狩りを生業としていました。なので、命の重さも――そして、それが万人に対して平等に与えられたものでないことも、おそらく本能的に知っている。
兄の道節を訪ねて町に下りてきたとき、晒し首になっていた「伏」の子どもを見た浜路は驚き、ほとんどパニックに陥っていましたね。いくら「伏」が人間と敵対していようとも、子どもまでターゲットにしなくていいのではないかと。
町の人たちがそれを一笑に付したのは、「伏」があくまでも自分たちとはまったく異なる存在だと思っているから。
それに対して、浜路は人間か「伏」かは関係なく、ひとつの命として見たからこそのリアクションでしょうね。
ここになんとなく、「自分たちと違うもの(人)は受け入れたくない」という大衆の思いを感じ取りました。集団心理のようなものも働いていたでしょう。時代にかかわらず、こういう人はどこにでもいるものです。
いまで言うなら、人種差別とか、LGBTIQ問題とか。
そして、信乃がマイノリティー。
やはり、少数派が生きづらい世の中です。
信乃の良いところは、浜路とは相容れないと感じていても、心の底では「寂しい」「ひとりになりたくない」と思っている自分の気持ちをしっかり理解しているところですね。
でも、環境的にもそれを口にすることが許されない。
だからこそ、自分の気持ちを素直に伝える浜路の言葉に心が動かされたのでしょう。
そして、運命的な出会いを通して成長していくのは、浜路と信乃だけではありません。個人的に、特に心に残っているのは浜路の兄である道節。
最初はそれこそ、読み書きのできない浜路に手紙を書き、ならそれは祖父が亡くなりひとりきりになった妹を心配してのことかと思えば(もちろんそれもあるにはあったのでしょうが)、妹の猟銃使いの腕を見込み、タッグを組んで伏狩りをしたいからという理由。
少年の格好までさせて吉原に連れて来た挙句、多少強引に引っ張られたというだけで、浜路を残して(老婆ですが)女性について行ってしまう……という、頼りなく、どこか自分勝手で思いやりのない兄――という印象だったんですよね、最初は。
船虫がいるのに遊女を買いに行くとは……というのは、当時の考えからしたらそう珍しいことではなかったのかもしれないけどね。バレたら当然、船虫には怒られそうだけど。
でも、物語が進むにしたがって――というより、おそらく船虫が身籠り、自分が父親になるのだと発覚したあたりから、兄として妹を心配する様子が見られるようになった気がします。
まあ、この時点ではまだ船虫が妊娠したとわかったばかりなので、これは父親としての自覚が早々に芽生えたということではなく、彼自身が家族について考えるきっかけになった結果だと思いますね。特に浜路と道節はたったふたりきりの兄妹ですし。
さて、賛否に分かれている理由ですが。
それは、シンプルなストーリーながらも説明不足な部分が散見され、謎が多く残るため、消化不良のままエンディングを迎えてしまう人が多いからではないでしょうか。
とはいえ、あまり気にすることでもないような……というのが、正直な感想です。
確かに疑問に感じる部分は多々あったんですが、おそらくその答えは原作に載っているでしょうし、どうしても知りたい人は小説のほうを読めばいい。そうでなくとも、たとえそれらの部分が謎のままでも、ストーリー進行の邪魔をしているわけではないので問題ありません。
とりあえず、孤独を感じている儚げ美人の信乃のイケメンぶりにキュンキュンしておけばOK!
もうそれだけで楽しめます。
映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」が好きな人におすすめの作品
映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
●「鹿の王 ユナと約束の旅」(2022)
●「時をかける少女」(2006)
●「虹色ほたる ~永遠の夏休み~」(2012)
●「雨を告げる漂流団地」(2022)
まとめ:映像が目に楽しい
江戸であって江戸でない、また違う世界線での古き日本といった感じのビジュアルイメージは非常にカラフルで、見ているだけで楽しくなります。
特に吉原を描いた映像はなんとも華やかで、だからこそ、多くの遊女が辿る不幸な末路を知った浜路はショックを受けることになるのですが――「孤独」と「愛」、「幸せ」と「不幸」、「富」と「貧困」、「個」と「集団」、「過去」と「未来」など、対になる言葉が顕著に表れているのも、この作品の特徴のひとつと言えるでしょう。
エンディングを迎えたあとどうなったのか、非常に気になるところであります。
ちなみに、Charaさんが担当していた主題歌「蝶々結び」もものすごく素敵でしたよ!
※本記事の情報は2023年2月時点のものです。