
梟-フクロウ-
「梟―フクロウ―」の感想です。
これも、一時期SNSなどで話題になっていた作品ですね。ずっと観たいと思っていた! 思っていて、後回しになっていた!(いつものごとく)
期待値が上がりまくっていたのに、それを上回る面白さだった名作。
本記事は2025年10月22日に執筆したものです。すべての情報は執筆時点のものですので、最新の情報はご自身で直接ご確認ください。
ワンフレーズ紹介
人にはそれぞれ戦い方、生き方がある。
作品情報
あらすじ
盲目の鍼医であるギョンスは、その才を見初められ、宮廷で働くことになる。そんな中、帰国した王子に自身の秘密を知られ、共有したことをきっかけに、王子との距離が近くなった。しかし、王子の暗殺現場を「目撃」してしまい――。
主な登場人物
(以下、敬称略)
ギョンス
(演:リュ・ジュンヨル)
盲目の天才鍼医。夜、明かりがない状態だとうっすら見える状態。ひょんなことから宮廷に仕えることになった。
イ・ヒョンイク
(演:チェ・ムソン)
御医。ギョンスを見初めた男。
チェ領相
(演:チョ・ソンハ)
明派の王と対立している清派の領相。
仁祖
(演:ユ・ヘジン)
王。王子の帰国を喜んでいるように振る舞うが、清派の王子のことは歓迎していない。
昭顕世子
(演:キム・ソンチョル)
王子。人質として妻と共に清で暮らしていたが、このたび帰国することとなり、息子と再会。その後、明派の国王と対立。
マンシク
(演:パク・ミョンフン)
右も左もわからないギョンスの面倒を見てくれる男。
映画「梟―フクロウ―」の感想
映画「梟―フクロウ―」の感想です。高めの期待値をさらに上回ってくる良作でした。ヒューマンドラマとしても見ごたえがありました。
実際にある症状?
本作は実在した人物をモデルにした歴史ものということでカテゴライズされると思うんですが、
アン・テジン監督は秘密を持つ盲目というテーマに、朝鮮王朝時代の記録物「仁祖実録」にあった「まるで薬物に中毒して死んだ人のようだった」という、謎の死を遂げた昭顕世子の記録を結びつけて、本作の脚本を書き始めた。
(引用元:史劇の概念を覆すサスペンス『梟ーフクロウー』アン・テジン監督が明かす作品へのこだわりと映画人生の原点│MOVIE WALKER PRESS)
このたった一文からあれだけの作品を生み出してしまうアン・テジン監督の才能たるや、ですね。すごすぎます。
昼(もしくは明かりがある場所で)は見えづらく、暗闇では少し見えるといった症状は、調べてみると昼盲症のような症状にあたるみたい。この映画で、初めてそういったものがあることを知りました。
暗闇でなら少し見えるということを秘密にしているギョンス。この、見えるのに見えない振りをするというののハードルの高さがもうね。
ジャケットにもなっている鍼を目の前に突き出されるシーン、あれなんかも本当に一瞬の出来事なんですけれど、ハラハラドキドキしちゃいました。だって実際には見えているんだもの。というか、たとえ見えていなくとも、風圧とかでギュッとしちゃったらどうするんだろう!? なんて思いながら見守っていました。
見える見えないにかかわらず、眼球に風がファッてかかったら誰でも目を閉じてしまうんでない!? って。
世子様とのシーン
個人的に一番好きだったのは、ギョンスと世子様のシーン。まさに名シーン。名セリフぞろいで聞き入ってしまいましたね。
例えば、ギョンスの「盲人が見えることを人は好まない」というようなセリフがありました。
「目が見えない」と言われると、多くの人は「まったく見えないこと」を想像する。でも実際は「少し見える」だったり「光程度ならわかる」だったり、その状態はひとつではない。それは当然のことではあるんだけど、一度こうと思い込んだものと違う要素を受け入れがたく思うのも人間なのかなと思います。
それから「目を閉じているほうが体によいときがある」と言ったギョンスに対し、世子様は「見ないのが体によいからと、目を閉じていてどうする」と反論。このやり取りがすごく良い。2人の生きてきた環境、境遇がもろに出ているような感じがして。
個人的には、ギョンスも世子様も真面目すぎて生きづらそうではあるなと感じました。両者を足して2で割った感じで生きるのが一番良いような気がするけれど、バランスを取るのも難しそう。目を閉じて、たまに開けて、というのができるほど器用な人はそう多くないでしょうね。
もう、このシーンが本当に好き。一瞬で世子様を好きになる。自分にとって「わからないもの」「経験にないもの」だからと即座に排除せず、相手の話に耳を傾け、理解しようとする姿勢を示す。この柔軟さは、もとの性格がそうだったというのはもちろん、人質として他国で過ごした経験が生きている部分でもあるのでしょうね。
弱者としての生き方
それから、例えば肉屋のシーン。
劇中、肉屋にて、ギョンスが払った金額に対し、適正な量をもらえなかったんだろうなと思わせる描写があって。一見フレンドリーな肉屋の夫婦なのに、実はまあまあ嫌な奴ら。「見えない」ギョンスを完全に見下し、「あいつ、どうせ見えないから」と甘く見ている。
肉を受け取った瞬間、たぶんギョンスは気がついているんですよね(重さとかかな?)。
でも、ギョンスは何も言わない。ギョンスの「目を閉じているほうが体によいときがある」とは、まさにこういう場面のことでしょう。ここで抗議したとして、「見えない」ギョンス相手だから「言いがかりだ」と言われるのがオチでしょうしね。「実は暗闇なら少し見える」と明かしたところで、ギョンス曰く「盲人が見えることを人は好まない」とのことなので、さらに扱いがひどくなる可能性もある。
そもそも、ギョンスの場合、暗闇なら少し見えるというところで、明るい昼間は「みんなの思う」盲人であることに変わりないわけですし。
病気の弟と共に程よく生き延びるためには、見えない振りをするしかないギョンスの生き方。大人しく、波風立てずに生きていくのが利口だみたいな考えは、とてもよくわかります。
そんなギョンスに対して「なんで何も言わないんだ」と言うギョンスの弟は、子どもらしい無邪気さがあって、けれどももしそのまま変わらず成長したなら世子様みたいな性格になりそうだなと思いました。
敵と味方
あと、宮廷で戦わなければならなくなったギョンスには、当然敵と味方がいるんですが。
これが面白かった。
宮廷に入ったばかりのギョンスは、誰を信じたらいいのかもわからない。ギョンスの目の前で暗殺が行われるということで、こちらはずっと宮廷サスペンスとして観ているし、それで間違いないんだろうなとも思うんですけれど。
終盤の「謎解き? 犯人捜し? いえ、今我々が行っているのは政治ですけど?」みたいな雰囲気が良い! 「そうだった! これ、ただのサスペンスじゃなくて国家規模のお家騒動なんだった!」と。
良いモヤモヤ
ラスト、良いモヤモヤを残してくれたのも個人的には好みでしたね。
ここでの大きなネタバレは控えたいので、細かいことは控えますが、中には救われなかった人がいたりもしてね。納得できない! 意義あり! 超意義あり! みたいな感覚になった。
このあたりがリアルというか、どこの国の歴史にもありそうな感じだから「これ、どこまでフィクション?」ってなってしまうという。ここまでの没入感は久々に味わったような気がします。すっかり熱中してしまった。面白すぎました。
映画「梟―フクロウ―」が好きな人におすすめの作品
映画「梟―フクロウ―」が好きな人には、以下の作品もおすすめです。
- 王の涙 イ・サンの決断(2014)
- 王の男(2006)
映画「梟―フクロウ―」が観られる動画配信サービス
※記事執筆時点での情報です(2025年10月22日)。レンタル作品等も含まれます。
Netflix | U-NEXT | Amazon Prime Video | Hulu | Ameba TV | FOD |
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まとめ:鍼医であること
最後に。
鍼医であることがしっかり活かされていて良かった! 鍼医であることを活用する場面では「なるほどねー!」と心底感心しました。
考えてみれば、他人に鍼を刺されるって相手を信用していなければできない行為ではありますよね(自分も何度か鍼に通ったことがありますが)。
Rotten Tomatoes
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IMDb
6.7/10
Filmarks
3.9/5.0